第45話 そして世界を変える

 しかしだ、コアが三つあればどうだ。九七式の性能に加えて余剰魔力が一度利用出来、その後は三コアの性能で演算に利用出来るな。


「もし九五式エレニウムが完成すれば四コアだ、飛躍的な能力向上と魔力保持が同立する、革命が起こる瞬間という奴だ」


「世界の戦力が一変する超高性能な宝珠、シューゲル主任でも完成させることが出来ていない。でももしそれが完成した時に、運用法が未定だったら宝の持ち腐れってなりますよね。だから私の指揮研究が同時に行われています。どこかで式を反転させるようなことが出来れば、最強の指揮官が膨大な魔力予備を持って戦うことが出来るようにって」


 それは根本から全てを覆すかのような技術になるぞ! くそっ、そんな重大なところに来ていたのか私は、それなのに何を逃げ回って。いや、怪我を回復させるのもまた大切なことだ。


「どうやら私は与えられた範囲内で踊るのが上手かっただけのようだ。思考能力の幅も深さも全く及んでいなかった、己を律し、より広い視野を持てるように心がけていきたいものだな」


 あまりにも衝撃的なことが立て続けに起こっている、ここ最近で一番の収穫があった濃密な時間だ。それをまさかアリアスに気づかされるとは、人生はわからないものだ。


 隣に座っている私のところにすり寄って来ると、手足を絡めて乗っかって来た。おい、何をするつもりだ!


「これはもうご褒美を貰うしかないかなって思うんですよ。私、役に立ちましたよね?」


「む、まあ、役に立ったのは認める。だがなぜこうも近いんだ」


 近いと言うか密着している。それはもう鼓動がダイレクトに伝わって来るくらいにな! 子供がじゃれ合っているだけ、そうだこいつはそういうことだぞ。そうだよな?


「お姉さまの最も近しい存在でありたいと願う私の気持ちを受け取ってください」


「お、おい、やめるんだ! そういうのはお互い好きあった者とだな――」


 お構いなしにアリアスは唇を重ねて来る、またか……そのなんというか嫌ではないぞ、だがそういうことではなく、色々と宜しくないだろう! そう、倫理的に却下だこんなことは! 幼女同士で何故。


 変な葛藤で身体に力が入り、やがてアリアスが自発的に離れるまで硬直していた。なんてことをするんだこいつは。


「お姉さまってば可愛いですね、そんなに力んじゃって」


 な、なぜ私が謎のマウントをとられねばならんのだ。理不尽だ! 恐らく今、私は顔を真っ赤にしている。異常発汗も感じられるぞ。ぐいっと両肩を押して無理矢理に引きはがす。


「可能性に気づいた以上はここでゆっくりとなどしていられん。私は実験に付き合ってくることにする」


 イイか、決して逃げるわけではないぞ! もっとこう、建設的な行動をすべきだと理性的な判断でだな。


「そうですか、では私はお部屋で待っていますね。我がままを言うようではお姉さまに嫌われてしまいますからね」


 物分かりが良い発言をすると素直に退いて立ち上がる。そ、それでいいぞ。笑顔で手を振って送り出す、私もひきつった顔で頷いてその場を後にした。アリアスはきっとそういう感じの女に成長する、私ではきっと対抗出来ない類の何かにな!


 廊下を速足で進むと、シューゲル技師の部屋へとやって来る。ノックをすると勝手に入れと言わんばかりの、気のない返事があったので入室する。


「少尉か、今までどこにいたのだ」


「遅れて申し訳ありませんでした。宝珠の可能性について深く思考を巡らせるため、静かな場所に居ました」


 片方だけの眼鏡に手を添えてこちらをじっと見て来る。正確ではないが間違ったことも言っていないぞ。


「それで、何か得るところはあったかね」


「四コアの演算宝珠の多大なる可能性を認識してきました」


 大真面目にそう言い放つと「宜しい。では実験を再開することにしよう」細かいことは水に流してしまい、先へ進もうと立ちあがった。聞いておくべきだろうな。


「九五式ですが、なぜ完成に至らないのでしょう」


「理論上は既に完成している。だがこれを使いこなせるかは別の話ということなのだろうな。私はその難しい制御を、誰にでもとは言わぬが、誰かが使いこなせるように調整するのが役目だと認識している」


 あと一歩、目の前にまで来ているか。それこそ私の努力次第で世界が変わるかも知れない、そんなところなんだな。責任がどうというよりも、胸が躍る部分があるだろう?


「そうであればやはりリミッターは必要ではないですか?」


 一緒に歩きながら、そのせいで極端に難しいんだ、という文句――もとい、現場の意見を上げる。


「そんなものは慣れだ。無くて良いものに制限を課すなど、可能性を自ら狭める愚かな行為でしかない!」


 少しでも感動して協力しようとした私が間違っていた。やはりこいつはただのMADサイエンティストだ!

 ああでもない、こうでもないと実験を繰り返していると、ついに九五式エレニウムが同調起動することになった。問題は一つだけ、私専用で機能が固まってしまったことだけだ。なんと些細な問題だろうか、クソッタレな神にお祈り申し上げます。


「神よ! とっととくたばりやがれください!」

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