第22話 准尉は小さな女の子

 学校に配備されていたものと同じだな。この銃はほぼすべての陸軍兵が装備している傑作だ、といっても単発ゆえに制圧火力は低い。だがオートではないので命中精度という意味では高い、こういった射撃では思い描いた場所に弾着するぞ。


「では俺からやりましょう、結果を見てから取りやめたっていいですぜ。退却する勇気も必要でしょう」


「伍長の気遣いに感謝しよう。だが私は決めたことをやり遂げたい性格でな、中断する予定はない」


 なに、軍兵なんだからこのくらいの強気でなければ務まらんだろう。ギャラリーも増えて来たし、力を示す良い場面だ。


 伍長がガチャンとボルトを引いて肩付けすると、短く狙って発砲。マガジンの装弾数は五発、これらを連続して全て撃ち尽くす。二等兵が走って行き、結果を大声で知らせる。


「A箇所四、B箇所一の命中です!」


 しっかりと木の板を抱えて戻って来ると、あたりから感嘆の声が漏れてくる。この距離であっても全てを有効ヵ所にあれだけ素早く撃ちこめるのは上出来な部類だろう。


「見事だな、口だけではなかったようで何よりだ」


「そりゃどーも。で、准尉殿はやりますか? 今なら有耶無耶にして逃げたって誰も文句は言いませんぜ」


 部下の兵らに視線を投げかけると、馬鹿にした笑いを隠しもせずに皆でする。帝国軍兵として、今少し品格を求めたいところではあるが、まずは力比べからにしておくとしよう。


「言っただろう、中断する予定はないと。どけ」


 次の目標を立てにまた二等兵が走る、最下層は雑用から全てを学ぶものだな。息を切らして戻って来ると、準備出来ましたと報告をする。見たら分かることでも言葉にするのが役目だ。


 ガチャン。ボルトを引くと、一発、また一発と撃っていく。五発全てを撃ち終えると二等兵が走っていき「A箇所四、B箇所一の命中です!」その報告に皆が驚いた。ふん、このくらい造作もない。


「引き分けですか准尉殿、面目は保てたようで」


 多少の悔しさが残るものの、取り敢えずは結果先送りだと言い捨てる。二等兵が板を抱えて戻って来ると誰かが「なんだこれ、同じ場所に命中しているな?」ぼそっと気づいたことを口にした。


 並べてみると命中箇所が一緒、これは偶然なのかという空気が流れた。


「続けざまで良ければもう一度私が挑戦するが?」


「いや俺がやる。お前、さっさと準備して来い!」


 ご指名された二等兵がせっせと八十メートルを走る、これといった疲労はないがじっと上官たちを待たせると言うのが気苦労なのだろうが。伍長が今度は先ほどよりも数秒時間をかけて、全てを撃ち切る。板を回収して来ると、A箇所に五発とも命中している。


「なるほど、良い腕前だな」


「准尉殿の番だぜ」


 マガジンを入れ替えて一度回収してきた板を確認する。ボルトを引いて、一度、二度とまた撃ち尽くすと、二等兵がダッシュ。抱えて来たものをさっさと見せろと言われて隣に並べると「まじかよ……」見事に同じ場所に命中している。


「では攻守交替といこうか。今度は私が先だ」


 二人の二等兵が交互に走る、準備している間に今までの場所から遠く離れた後ろへと居場所を移す。二百メートル、倍以上の距離をとった。難なく五発撃つと、皆が居る場所へと戻って行く。回収された板はA箇所四、B箇所一だった。


「小銃には集弾率というのがあるからな、五センチ範囲内なら同じ場所だと認めよう。ああそうだ伍長、逃げるならば今ならば誰も文句を言わないだろう」


 顔を赤くして伍長が小銃を持って二百メートルの場所まで行った。じっくりと時間をかけて五発を撃ち切ると戻って来る。板を並べてみると、A箇所一、B箇所三、枠外一だった。


「クソったれが!」


「ふむ、あの距離でこれだけ有効箇所へ命中させたならば、伍長の射撃成績は上位の部類だろう。今後も期待しているぞ。曹長、急に走りたくなった訓練メニューを持久走に変更しても良いか?」


 正直体力という面では年齢相応でしかない、走ればボロが出るのは間違いない。それでも走れない軍人など軍人ではないからな。


「無論です准尉殿。分隊は武装長距離走訓練を行うぞ!」


 敵愾心むき出しの視線を向けられるが、冷静さをそのままに小銃を曹長に返還する。それぞれが背嚢と小銃を装備して集合した。荷物を持っていない状況など想定しても意味が無いからな。


 私も背嚢を背負い、皆と対面して立つ。くそ、巨人どもめが!


「二十キロ走だ、行くぞ!」


 曹長を先頭にして全員が固まって走る、スピードは速足くらいのもので時速は八キロぐらいだろうか。だとしても荷重負担ありでこれは厳しい、直ぐに脇腹が痛くなる。なぜそうなるかは現代医学では解明されていないらしいがな。


 訓練場に戻って来てからは汗だくで咳をしている始末に皆の視線が集まる。


「私はまだ体が出来上がっていないんだ、無様な姿で悪いな」


 その言葉に、誰からも反応はなかった。それなりの成果はあったということで良いだろう、早く部屋に戻って水浴び位はしたいものだな!

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