第23話 浸透偵察実施

 

 共に訓練をするようになってから暫くして、分隊に招集がかけられた。私は事前に聞かされたが、ザルツブリュッケン駐屯部隊から偵察を出すらしい。六箇所に浸透長距離偵察をな。


 これはこっそりと入り込んで、居るのがバレないようにして行動することで、要は防衛線を突破しろということだ。守りが厚ければそもそも初期の段階で失敗するだろうから、六組も同時に出すと言う話だろう。


「司令部護衛分隊という手前、志願せざるを得なかったが、一番防御の分厚い箇所を指定されたので形だけの参加になる予定だ。実行は明日未明に出撃で、日没後に帰還する」


 やる気を疑われては今後に影が差すからな、恐らく小隊長らも全員が志願しただろう。どういった基準で部隊を指定したかまでは解らんが、早い者勝ちというのでもなかろう。ならば実力があり任務を遂行できそうだという順番だと思っておくとしよう。


「隊長殿、正面から浸透ということは地方司令部の位置を捜索するということで宜しいでしょうか?」


「うむ、曹長の言うように部隊司令部を特定できれば目的を果たしたものと理解する」


 そうか、逆に言えば都市に司令部を置いていないということになるな。何故そうしていないか、実戦を意識した配備ということか。一触即発といっていたが、事実なのだろうな。こっちを見ている奴が居るな。


「私も参加する。なに、足手まといにはならんよう努力するさ」


 体力が無いのは知れているが、訓練ではないのだから宝珠を利用位はするぞ? まあ魔導師だということは明かしていない、中尉だけは知ってるがな。現場では二発駆動九七式エレニウムが半数以上に行き渡っているが、後備では未だに単発駆動八九式エレニウムが利用されているらしい。士官学校では前者が最初から使われている。


 準備を終えると早めの就寝、深夜〇三〇〇起床となった。一時間もあれば脳が覚醒して良い動きをするようになる、睡眠真っ最中や哨戒中のぼーとした頭では注意深く働くことは出来ん。


 私も小銃を持ち、背嚢にヘルム、ゴーグルをつけて開始の命令を待つ。こうなれば敵だって分け隔てなく私を攻撃して来る、平等という言葉は良くも悪くも歓迎するぞ。警戒地域ではあるが、敵対地域ではないということにはなっているが、小競り合いはしょっちゅうらしい。


 出撃命令が下された。分隊は曹長を先頭にして暗夜を静かに進んでいく。人だけが歩いて渡れる小さな橋を利用して、徒歩で境界線を越えた。現在絶賛国境侵犯中だ。


 無言で西へ向けて進んでいく、大きな目安としては街の明かりがボヤっと空に映っているのでそれを目指して。一番の手練れが先頭を行く、これは鉄則で曹長が担当するのは実に理にかなっている。


「夜間立哨が確認出来ません、さらに前進します」


 おいおいノーガードか! まさか相手も真っ正面から客が来るとは思っていないだろうが、部隊の一つや二つは警戒に充てるべきだろう。共和国の部隊は税金泥棒だと言われかねんぞ。


 何の警戒線にも引っ掛かからずに、随分と進んでしまった。こうなった以上は明るくなる前に戻るよりは、どんどん先へ行った方が安全だろう。林の中で日の出を確認するが、耳を澄ませても特に人の気配が感じられない。


「まだ進むぞ、以後は後方も警戒だ。伍長に任せる」


「ヤー!」


 あの伍長だが、今は自分の身の危険もあるせいか素直に命令に従っている。中尉だから、なんだろうがどちらでもいいか。それにしても実地試験か、まさか予定されていた動きなんだろうか?


 二時間程行くと、右手の方角に市街地が見えるようになった。


「デルバックの街です」


「基地から十数キロで、アルスタン低木林地だな。このあたりで周囲の捜索に切り替える、曹長と伍長は一人ずつ連れて五百メートル範囲で偵察を実施せよ」


 命じられると二等兵を引き連れて別々の方向へ姿を消していった。こういう時は腕が立つのを選ぶのかと思ったが、教育を優先するのだな。残ったのは八人の兵士、休憩半数、四方の警戒半数で割り振る。


 私と中尉は出来るだけ声が外に漏れないように注意しながら、膝を詰めて言葉を交わす。


「我等が浸透出来るのは少々想定外だった」


 こいつは率直な意見という奴だろうな、私だってそう思ってる。兵士はどう感じているやら。中尉が堂々としているので安心といったところではあるか。


「好機です、ここできっちりと情報を持ち帰れば中尉殿の功績になります」


「はは、軍人ならば強気でいれというわけだな。准尉は良い士官になるだろう」


「お褒めいただき恐縮です」


 ゲリメル中尉が上官であれば、何となくやる気も出る。ということは、私も部隊を率いる際にはこういった雰囲気を意識的に構築すべきということだ。この一点が得られただけでも収穫だ。


 意外と時間が経たないうちに、二組とも偵察は戻って来た。部隊丸ごと分の警戒は苦労しても、自分とあと一人くらいならば素早く動けるということなのだな。


「ここから南東部、四百あたりでパトロールを確認しました。軽装でしたので、近くに拠点があるのではないでしょうか」


 そいつは道理だ、遠出するのに軽装とはならないからな。形式上のパトロールだとしても、近くに何かがあるからやっているわけだ。


「よし、曹長案内するんだ。分隊は警戒移動を行うぞ」


 ずっと休みなしで動いている曹長は、何一つ文句を言わずに承知する。良い下士官だ、やはり永年勤務している下士官ほど素晴らしい者はないな!


 ダイヤモンドのような立ち位置になり、四方を警戒しながら進んでいく。曹長が手を横にやると部隊が全て停止する。中尉に肩を叩かれたので一緒に前へ行く。


「あれです」


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