第41話 MADの実験責め
着任早々試験を行うだって? 別にゆっくりとさせてくれとまではいわんが、せめて自室の確認位してからにして欲しいものだ。こうだと決めたらきっと曲げることが無さそうな男、技術者など偏屈な奴が揃ってはいるが筋金入りなんだろうな。はぁ。
でだ。甘かった、私の見通しが甘かった! こいつなんなんだ! 試験とか言ってからもう十時間以上は経過しているぞ、お前は良くても私はもううんざりだ!
「主任技師殿、いささか根を詰めすぎているように伺えますが」
若干棘がある言い方になってしまったのは仕方ないだろう、さすがの私も疲れにより忍耐力が削がれてしまっているようだからな。このままではもっと激しい暴言を吐いてしまいそうだ!
「心配するな、研究の為ならば三日三晩であっても実験していられる」
お前への心配ではなく、幼女の身体の私の心配をしろと遠回しに言っているんだ、理解しろこのMADめ! それを口に出すのは最後の最後で構わない、今はこの実験を中断することを最優先するんだ。どうすればこいつは納得する?
「実験とは一定の条件下で再現可能な行為を積み重ねることを指していると考えます。疲労が蓄積しては結果に幅が産まれ、精確さに欠けます。それに今日の結果を一先ず記録し、それを精査することでより必要な実験を行えるよう確度を向上させるのが肝要ではないでしょうか」
「ふむ。再現性と精確さは絶対だ。何せ九五式エレニウムは非常に繊細な造りをしているからな。では今日は終わりにするとしよう」
突然憑き物が落ちたかのようになるとあっさりと部屋から消え去った。助かった、もう二度とごめんだ。というか今何時なんだ、朝の三時とかいうのは正直、朝なのか夜なのか微妙なところだぞ。
ふらふらで外に出ると、白衣を着た研究員の若手がぼーっとした顔つきで「お疲れさまです。部屋に案内します」自分も半分以上意識がぼやけている中で先導してくれた。ダメだ、眠い、もう無理だ。
有史以来、人が睡眠不足を解消しうる唯一の行為は寝ることだ。私は着替えるのも諦めて、そのままベッドに倒れ込んでしまった。最悪だ。
どのくらい寝て居ただろうか、いつもなら何時に寝ても朝の六時には目が覚めるというのに、太陽が随分と高い位置にあるではないか。キュルルルル。情けない音をたてて腹が鳴ってしまう。
「はぁ……まずは何か食べるとしよう、もう丸一日食事をしてないんじゃないか?」
部屋を出たはいいが、何処に何があるのやら。歩けばどこかに出るだろうと、適当に進んでいくと廊下で研究員と鉢合わせる。眼鏡に白衣、ボサボサの髪、何とも思わないが私もそれに近かろう。
「おや子供? いや少尉か、試験飛行担当の者かな。私は研究員のアラモだ、何か手伝おうか」
四十代のように見えるが、果たして幾つなのやら。こちらのことを知らずとも、さして驚かないのはありがたい。それに、アレに比べたら随分とまともそうではないか!
「デグレチャフ少尉です。ドクター・アラモ、二度三度抜いてしまった食事をしたいのですが」
工廠の研究員と名乗る者は全て博士号を持っているはずだ、助手ならば助手と名乗るだろうしな。本来はその位ご大層な場所なのだが、初日の印象が強すぎる。おのれMADめ、居ないところでまで私に迷惑をかけおって!
「ははは、シューゲル主任に付き合わされたわけか。こちらだよ、ついてきなさい」
ビバ常識人! 大人とは本来こういう付き合い方が出来る存在を指す単語だ、歳をとれば誰しもが大人になるわけではないぞ。食堂に連れて来られると入り口で「ゆっくりしたらいい、主任は分析に取りかかったら二日は閉じこもるからな」笑顔で未来予測までしてくれた。
「ありがとうございます、ドクター!」
ついつい敬礼すると、アラモは去って行った。心のオアシスだな、何かあったらドクラー・アラモをご指名しよう、きっと満足いく対処をしてくれるに違いない。食事のメニューは妙に豊富だった、コース料理も予約で食べられるらしい。どうなっているんだ?
あたりを見回してみると、ポツリポツリと白衣の人物が混ざっている、どうにも不規則な時間での食事が多いらしい。まあアレを考えれば規定時間にここに来ることが出来るかは非常に怪しいからな。
「それにしても、私はこれからどうしたらいいんだ? どこで何をしろとも言われていないな」
仕事が無いならないで構わんが、ただぼーっとしているのは宜しくない。図書館のような場所があれば良いが、専門書ばかりな気もするぞ。試作型のエレニウムを見に行くのはどうだ? 八九式は使ったことがあるが、他にもありそうだな、行ってみるか!
美味しい食事を残さず平らげると、デザートにも取り掛かる。プリンの食べ放題は恐らくここ以外では許されないだろうな! こんなものをオーダーする奴がどれだけいるやら、甘味など女子供のものだろうに。
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