第42話 九五式の試験飛行
◇
研究結果の展示室、なる場所があった。外部の人間への広告のようなものなんだろうが、誰がここに来るかというと本部の視察だろうな。手元に資料があるわけではないので、並んでいるモノと簡単な説明だけを目で追うことにする。
最初期のものは魔鉱石そのもので、石に力があると認められたところからだった。それを削り、磨くとより良い力を発揮できると知られる。やや時間が空いて、八五式試作型一号が産まれている、後にこれをエレニウムと名付けたそうだ。
適性がある人間がエレニウムを利用することで、様々な事象を体現できると学会に発表された。そこからは研究が加速する。この試作型を実験して、実験して、汎用型演算宝珠エレニウム八九式が完成した。これは兵器と位置付けられて、軍が独占利用することになる。
始まりの航空機や空母のように、役割が定まらずにいたのは使いこなせる絶対数が少ないから。ここで一般人からも適性者を集めることにする法律が産まれたらしい。母数を飛躍的に伸ばすことで、真の適性者が存在することが発覚した。それが実戦で敵を多数倒し、エースと呼ばれ、中でも特に強力な存在をエースオヴエース、ネームドと呼称して個別の識別名を与えることになった。
シューゲル技師によって九五式エレニウムが提唱された。従来、帝国では八九式エレニウムがCPU一つだとしたら、九五式は四つで構成されている、それは威力が四倍ではなく四乗という意味だ。それゆえに研究が進まずに、九七式を別途提唱、こちらは二つで構成されていて、見事に起動した。以後、帝国の制式装備にされた……か。
「魔導師とは未だ生まれたての兵科であって、運用方法は全てが浅い経験からの仮のものというわけだ」
二本の線を接触交差させるのは出来るが、四本を同じようにするのは極めて困難だからな、それが九五式を完成させることが出来ない原因なんだろう。もし、八九式エレニウムで九五式と戦うと言うならば、火縄銃で機関銃と撃ち合う位の差があるんだろう。
学会で発表されて後に、各国で研究が始まったので帝国が最先端を進んでいる。技術というのは日進月歩だが、基礎研究があるかないかで進み具合が全く違う。未だ優位はくずれていないぞ。
「なんだ、ここに居たのか。実験の続きを行うぞ、来い」
「ドクター・シューゲル……精査はいかがされたのでしょう」
こいつ、二日は籠もるんじゃなかったのか? というかこんな夕方から始めたら、まーた真夜中になる。勘弁して欲しい。
「新たな事象は確認されなかった、これ以上の精査の必要が認められない。陽があるうちに飛行試験をするぞ」
有無を言わさずにずいずいと行ってしまうものだから、仕方なしに小走りで後ろについていく。話を聞かないのはこいつの性格だな、死んでも治らんぞ。
「飛行試験とは?」
「ふむ、九五式エレニウムの飛行実験だ。理論的には完成しているのに何故使えんのか、貴官のデータが必要だ」
「はぁ」
それだけならば、まあ悪くはない。それこそ飛ぶだけならこちらに危険はないし、データ取りとしても真っ当なところだろう、今日は大丈夫そうだ。
……と思っていた時期が私にもありました。
「ちょ、なんだこれは! 制御が難しい!」
九七式と比べてじゃじゃ馬どころの話ではないぞ、慣性を無視して急に全速前進から後ろ向きに加速されるではこちらの身が持たない! しかもブレーキをかけようにもリミッターがどこに?
「ドクター! こいつのリミッターが見当たりません!」
「当然だ、そんなものは美しくないから外した。貴官の感覚で制御するんだ」
「そんな無茶苦茶な!」
目隠しでストップウォッチを与えられて、指定時間から外れたらズドン! 装備しているエレニウムが爆発して墜落した。ダメだ、これでは後方勤務で死ぬぞ。
目が覚めると医務室のベッドの上、ご丁寧に軍服は病院の服に着せ替えられていた。身体に痛みはない、治療をしてくれたらしいな。外は真っ暗、今日あったことなのか、昨日か、はたまた数日前の事かすら自信が無い。
「やばい、こいつはやばいぞ!」
どうにかしないと本気で身体が持たない。かといって実験が終わらない事にはどうにもならん。完成するか断念するか、そのどちらかだ。あのMADに諦めさせよう、あんな宝珠は実戦では使いようが無い。
ベッドの傍らにある小さなテーブルに置かれているバナナを千切って食べる。こんな夜更けだ、いくらなんでも食堂も稼働時間外だろう。水差しからコップへ注ぐと、ぐいっと一気に飲み干す。温い。こういう時は常温のほうが負担が少ないからな。
落ち付くとまた横になる、まずは寝て体力を確保しておこうと考えたからだ。さてどうやって諦めさせたものかな。あの調子だ、好き嫌いでは話にならんが、存外理論的に筋を通されたら納得することもありそうだ。どうやって理屈を通すかを考えよう、眠たくなるまで考えて、後は明日にするか。
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