第54話 役者の差は歴然

 やがて辿り着いたのは、郊外の工場跡地。廃材が転がっているような場所で、これといった灯りも無かったが、コンクリートの建物の中に入ると裸電球がつけられた。チンピラとかゴロツキの類か?


「ついたぞ、降りるんだ」


 形だけはスーツ姿のタクシー運転手だが、五十歳前後で腹が出っ張っている。表情は細かくは見えないが、人相はお世辞にも良いとは言えんな。建物では空になったオイルの缶か何かに座っている男が三人。


「こっちにこい、逃げようだなんて思うなよ痛い目を見るだけだ」


 一応の注意を払ってはいるが、子供二人だけなので警戒の程は低い。そんなことはどうでもいいが、こいつらは何者だ?


「アリアス、起動して防御幕は張っておけよ。それと、対ガス術式もだ」


「はい、お姉さま」


 九七式を起動して防御を巡らせる、銃弾が飛んできてもこれを突き抜けることはない。高射砲でも直撃で衝撃があるだけなので、戦車砲や榴弾砲でも直撃しなければ無傷で居られるぞ。


「アニキ、ガキを二人ラチって来ました」


「スラムで拾ったわけじゃなさそうだな」


 アニキと呼ばれた奴はまだ若い、三十歳位だろうか。明らかに年齢による呼称ではなく、何かしらの上下関係を持っているな。ゴロツキでも組織的な何かに所属しているってことか。


「ルークの店に居たんで、そこそこだと思いますぜ」


 こっちを品定めしているな、いつでも叩きのめすことは出来るが、どうせなら反社会的な奴らを一網打尽にしてやりたいな。こういう手合いはいくら叩いても批判が無い、ならば功績の一つになって貰おうじゃないか。


「おいお前ら、親に身代金要求して払ったら無傷で返してやる。連絡先を教えろ」


 立ち上がるとアニキがこちらに歩いて来る。身のこなしは悪くない、実力を持っているだろうことが伺えるぞ。運の無さだけが突出でもしていたんだろうな、掴んだエモノが我等だったというな。


「教えるのは構わないが、そちらは何者だ。あまり小物だと上の者を出せと言うかも知れんぞ?」


「あん? なんだこのガキ、妙な喋りしやがって。ブレンベルグ団なんて聞いたらブルっちまうだろ」


 ブレンベルグ団、聞いたことがある。帝都を根城にしているギャングスターの一つで、強盗、暴力、誘拐、強請、そして賭博の胴元などを行うやつらだな。善良な市民にとって害悪でしかない。


「ほう、私でも聞いたことがある有名どころだな。で、そこのアニキは幹部なのか、それとも三下か?」


 挑発に後ろの手下が「おいこら、クソガキが!」テンプレよろしくいきりたつ。そしてそれを軽くアニキが制してニヤニヤとした。


「この状況で落ち着いてられるとは、さぞかし良いところの娘なんだろうよ。俺はブレンベルグ団のカーポでギルバートだ、こっちが名乗ったんだお前も名乗るべきだろ」


 カーポか、幹部ではあるが下っ端だな。軍隊でいけば少尉か中尉あたりの初級幹部だ、自分がそうなのだからあまり強くも否定できんがな。


「ターニャだ。ウチを相手に身代金をせびるには、カーポでは役者が不足している。ボスに渡りをつけたほうがいい、これは忠告だ」


 余裕たっぷりで笑いかけてやる、ボスが出てきたらまとめて御用だ! アリアスは不安そうにこちらをチラチラ見ているが、そう心配することなんてないぞ。こんなやつら秒で粉砕できるからな!


「いけ好かないガキだな、こっちだ」


 どこかに電話が置いてあるそうだ、そっちに来いと言われて大人しくついていく。さてその間に仕込みを行うとするか。宝珠を使った通信で、軍大学の当直に連絡を入れてラーケン衛兵司令を即刻呼び出して待機させるように命令した。あいつのことだ、連絡を受けたらすぐさま駆けつけるだろうさ。


 囮作戦行動中なので話を合わせるようにと指示を残しておいて、男達と一緒に守衛室のような狭いところへ来る。デスクの上に電話がポツンと置いてある。


「ほら、自分で助けを乞うんだ、出来るだろ」


 連絡先を教えろというのはどこに行ったやら、まあいい。警戒をしながらも軍大学へ電話をかける、当然それに出たのはラーケンだった。


「父上、ブレンベルグ団カーポのギルバートというのが身代金を要求したいというので代わります」


 ほれ、と受話器を渡すと、こちらを睨んでから耳に充てる。


「あんたが父親か?」


「そうだ、ラーケンだ。娘は無事なんだろうな」


「あんた次第ではな。かすり傷一つなく返して欲しければ金を用意するんだ」


 なんだこの茶番は! 笑わないように我慢するのがこうも大変だとは思わなかったぞ! ラーケンのやつも、どんな表情をしているやら。


「カーポ如きで私に要求をしようとはとんだお笑い種だな。ヘインズを出せ、それともお前では声すら掛けられんか」


「な、なぜボスの名前を知っている!」


「知り合いでも何でもない、カーポとでは存在の知名度が違うんだよ。雑魚に強請られたでは我が家の名が廃る、どうせ支払うなら大物を相手にしたい。ボスのしのぎを無視してお前がかすり取ったと言われても良いなら考えてやらんこともないが」


 何故かラーケンの方が優位に立っているかのようになってしまったのは、やはり場数が違うってことなんだろうな。感心してしまうような運びだ、やはり歴年の下士官は違うな!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る