第55話 捕りものの下準備
「くそっ、お前の家名はなんだ」
さてこいつは聞いて覚えておかねばならんな、自分の家の名を間違えるわけにはいかんぞ。聴覚強化の術式を練ってかけておく、戦闘をするのでなければこのくらい並列しても全く無理がないな
「フォン・ルーデンドルフだ。さっさとボスを呼べ、それと決して娘に手を出すなよ。そうなればお前を許すことが出来なくなる」
ラーケンのやつめ、誰がと言うのをわざと省いたな。無論、私に手を出せば私がこいつらを許しはしない、まあ既に許さないことで決まってしまっているんだがな
「俺たちは金が手に入りゃそれでいいんだよ。いいか、目玉が飛び出るような額を用意することになるぞ、覚えておけ!」
勢いよく受話器を置くと切ってしまう、うん、こいつバカなんだろうな。連絡先を確認せずに切ってしまい、また私がかけるのか。
「お気に召したかなウチの父上は。あんなのでも娘を溺愛しているんでね、傷でもつけば暴走して手がつけられんぞ。なあアリアス」
「はっ、はいお姉さま!」
咄嗟に出た返事がお姉さまと言うことで、あいつらも不審には思っていたがアリアスと私が姉妹だろうとあたりをつけているな。それでいい人質は一人で十分だ、不都合を押し付けるならアリアスではなく私をご指名するだろう。
「あの親父あってお前ありだな。ボスに連絡をつける、大人しく座って待ってろ。逃げようとしたら無傷じゃ済まんぞ」
「ほう、手出しをするなと父上に言われてるんじゃないのか」
しっかし、一体私は何をしているんだか。大物を吊り出すまでの我慢だ、功績があちらからやって来るぞ。
「あま舐めるなよガキ、生きてるように見えてりゃそれでイイんだからな」
威圧的な睨みをして来る。こちらが一般人ならそれで黙ってしまうだろう貫禄は認めてやるさ、生憎素直じゃないんだよ。
「相手に言われてノコノコ自分のボス呼び出そうだなんて頭が湧いてるんじゃないのか? こんなヤマは独り占めしなんぼだろ」
馬鹿にしたような笑いをしてやる。あの知能程度なら、安い挑発にだって乗って来るはずだ。
「アニキ、ボスにこんな流れ知られたらヘタ打ってるって言われるんじゃねぇですか?」
「こいつはな、そうやって煽って大事にしないようにって狙ってるんだよ。ボスに知らせろ、俺は騙されないぞ、そうなればもう逃げようたって無理だからな。お前ら、ボスが来るまで全員で警戒して待つぞ」
やっぱり馬鹿だな、と言うことは腕っ節は光っているってことだろうな。部屋の角に行くと壁を背にして二人で黙って座る、大人しくするのを見て満足したのか別のことを始め出した。
「アリアス、音声の遮断術式を起動させてくれ」
「はいお姉さま」
防御幕を二人で一つにしてしまい、外に声が漏れないようにすると、自身の通信で軍大学当直室に繋げた。詳細説明を行い、近くに衛兵分隊を派遣するように命令した。
「そういえばラーケン准尉、ヘインズというのは」
「帝都で指名手配されているギャングです。デッドオアアライブで懸賞金まで出ているような悪党です」
おいおいそんな時代錯誤な……と思ったが、そういう時代だったな。よほど恨みを買っているらしいなヘインズとか言うやつは。
「懸賞金は魅力的だが、官憲としては情報も欲しいだろうな。精々生捕りが出来るように注意することにしよう」
「デグレチャフ中尉ほどの実力があれば、どのようにでも出来るでしょう。小物の方は夜中に動員をかけられた哀れな兵らにわけてやって貰えると幸いです」
失敗をこれっぽっちも想像していないのは、職務への怠慢ではななかろうな。まあ好意的に見て私への信頼ということにしておこうか。
「呼び出された中には貴官も混ざっているはずだが」
「自分はこうやって中尉にご指名いただけたことが既に褒美だと思っていますので、どうぞ若い奴らへお願いします」
さすがだよ、ほんとこういう下士官は得難い。いつか手駒を自由に選任出来る時には、ラーケンを引き抜きたいものだ。
「そう言うことにしておこう。以後受信はしても返信は見合わせることが多いはずだ」
「了解です」
一連のやり取りを終えると、隣のアリアスに状況を説明する。何をするわけでもないので、頷いて終わった。音声遮断を終了して、防御幕と対ガス、聴覚強化の組合せに戻しておく。
隣にいれば防御幕は一つで二人守ることが出来るので、魔力切れについてはほぼ心配はなさそうだ。いつどうなるかわからないから節約したいところだが、負傷するよりはマシだろう。
「アリアス、寝ていて構わんぞ。直ぐには始まらんはずだ」
「えーと、じゃあ二時間交代にしましょう。起こしてくださいね」
頷いて了解すると、アリアスの頭を膝の上に乗せてやる。膝枕とはこれのことだな! あいつらがこっちのことを見たが、直ぐに興味を失ってしまった。サラサラのアリアスの髪を撫でてやる。こんな場所で無ければこういうこも良いものだな。
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