第5話 模擬戦開始!
校舎がある場所から少し離れた小高い丘、ゴツゴツとした岩場が広がっている。演習場と言う奴だ、流れ弾が民家に向かっては迷惑だろうからな、このあたりに人は住んでいない。
何せ広さだけは幾らでもある、山の向こうから見える、次の山だって全部学校の敷地だ。そんなに何に使うのかと言えば簡単だ、宝珠無しでのサバイバル訓練などにうってつけだろう?
「さて、訓練中隊諸君、戦いの準備は良いか。我等の目的は単純明快にする、即ち、相手中隊の壊滅だ。無論その中に中隊長が入っているのが望ましいが、私もそこまで無理は言うつもりはない、何せ六人倒す間位は耐えるだろうからな」
年次で昇級する者は居る、そういうのは中隊長ではなく補佐に据えられるはずだ。三号生の中で最強な者が中隊長になる、簡単かつ有効、余程のことが無い限りこれは覆されない定石だ。
「我等が中隊長殿は恐らく集中攻撃を受けるでしょう。何人ほど護衛に残しましょう?」
二号生徒が一個小隊四人あたりを提示して来る。
「魔導師はその素質と経験で能力を引き出すことが出来る。単騎で充分だ、貴様等は全員攻撃に回れ」
正直生徒に墜とされることなど考えられん! 不意打ちを受けたとしても、防御は機能する、魔力量の差は常人とは比較にならんぞ。これはおごりではないぞ、自負だ。
「ではそのように。フラッグを一つお任せします、残る二つは無防備でも?」
「構わん。負けが無ければ後はどのようにして勝つかのみ。余計な時間を与えずに最短距離を行くぞ!」
気合いを入れたところで丘の上に信号弾が打ち上げられた、戦いの始まりだ。一斉に上昇して前進する。
ああは言ったが一人でどこまで戦えるやら。そりゃ初心者に毛が生えた程度の訓練生徒においそれと負ける気はしない。だが五人も一気にかかって来られたら、演算が間に合わない可能性はあるな。大量生産品では仕方ないことだ。
辺りの空を見回しても敵生徒は見つからない、まさか森の中を歩いて動いているわけでもあるまい。そもそもフラッグの場所などどうやって探すかといえば、守っている相手を見つけて付近を捜索するものだ、目印もなく見つけるにはここは広すぎる。
「ほう、偵察だなあれは」
西の空に一人で飛び回るのを見つけた。他に見える場所には居ない、ならば襲撃を仕掛けるぞ!
魔力を込めて急速発進をすると、遠距離で銃を構えて指向する。
「当たらなくとも構わん、まずは威嚇だ」
真っすぐ飛んだらこのあたりというところに予測射撃を行う、するとどうだろうか防御幕が形成されて弾丸がストップする。
「おいおい真っすぐ飛ぶ奴があるか、考えが足らんようだな」
まさかの命中で制御に魔力が持っていかれて驚いているようだ。こちらとしては無駄遣いにならずに有り難いが、後輩がこれでは実戦で苦労するのは巡り巡って自分では面白くない。
左右に機動を振って、緩急をつけながら接近、銃撃戦を繰り広げる。攻撃と回避、警戒と予測、そして指揮官は戦況も頭に於いて行動し、今藍はフラッグの守りもしなければならないわけだ。
「まさかこれで終わりでは無かろうな?」
「う、うわぁ!」
不慣れな一号生徒を撃墜する。地上に不時着するのを見届けてから高度を上げて周囲を一望する。遠くの方で煙が見えた、あちらでも交戦中らしい。
「私とて戦いは出来る、だが子供の器では限界がな。十年もすればかなり使えるようになっているだろうが、それまで戦争もなく平和である保証はないからな」
昨今かなりきな臭いらしい、いつ勃発してもおかしくないと教官が漏らしていた。とはいえ、そう言われ続けて十年経っているらしい。もう十年延長してくれても構わないが?
おっと今は戦闘中だったな、どれ報告を上げさせるとしよう。
「各小隊長、推移を報告しろ」
演算宝珠には魔力制御と通信の機能が備わっている、便利すぎて世界技術がこちらに傾いてい閉まっている。魔力技術がなければ科学技術が発達していたのだろうが、この世界ではこれが標準だな。
「撃墜一、被撃墜二!」
フラッグは無視しているので、戦果報告のみ。なんとまあ数で多いと言うのに負け越しているようだ。
「こちらで一撃墜している、後方にお漏らししても構わんぞ」
「鋭意努力中!」
はいはい、頑張ればそれでいいのは学生までだ。まあ、今が学生か。上空は風が冷たい、上がる時には防寒具は夏でも必要だな。これもまた経験か。
しかし全然来ないな、もしかしてあちらも壊滅を目指して集中して居たりするのか? ならば私がここで待っているのは戦力の分散で良くない。何より部下にだけ戦わせて自分は後方で安全と言うのはいかんな。
「アルヴィン生徒、そちらはどうだ」
個人回線を使って様子を窺おうとするが、通信が繋がらない。故障しているわけではないだろうから手一杯なのかも知れんな。フラッグは放置で良いか、どうせだれも来ていないしな。
煙が上がっている方へ動いていくと、豆粒のような何かが空中で戦ているのが次第に大きくなってくる。乱戦か。子供のサッカーのようにボールに群がっているようでは戦いにならんぞ。
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