幼女戦記・歴史の行間
愛LOVEルピア☆ミ
第1話 ペア生徒現る
◇
校長室の前で一度深呼吸をした。何故私がここに呼ばれたのかを再検証すべきだ!
まだこれとったイベントごとは無い、大きな問題を起こしてもいないぞ。上級生を白兵戦技授業で張り倒したのは、別に問題ではあるまい。日常生活でも模範であろうと心掛けている、ならば叱責の類ではない。
……いや、そういった甘い考えで足をすくわれるのは、社会経験が無い小僧がすることだ。私は違うぞ。最悪を想定するんだ、逆ならそれでいい、喜んで頷いていれば良いだけなのだからな!
私生活に於いては何ら文句をつける必要は無いはずだ、これといって悪事を働けるような生活環境でも無かった。それに半年も入寮して過ぎている、ここは士官学校内での出来事についてと枠を狭めるべきだ。
講義における成績か? いやそれも違うはずだ、何せ座学では上位に入っているのだからな。では実技? そちらも適性が高く上位だぞ。ではやはり人間関係か、残念ながらこれに関しては芳しくはない。このナリだからな、仲良くともいかんだろう。
https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16818023212076250930
「ターニャ・デグレチャフ生徒です!」
恐らくはこの部分についてだと心を決めて臨む。もっと皆と交流を持って、円滑に学校生活を送れと注意を受けるならば、真摯に受け止めようではないか。
「入りなさい」
年配の声が聞こえてくる。きびきびとした動きで扉を開けると入室する、デスクの先には軍服姿の校長が座っている。襟には大佐の階級章、左の胸には山のような略綬が刺繍されていた。
士官学校の校長職は大佐クラスが受け持つことが慣例になっている。中でも指導力が高い人物が選ばれる。それはそうだろう、未来の将校らを育てるのだから。
「ターニャ・デグレチャフ生徒、出頭致しました!」
「まあそう固くならんでもよい、楽にしなさい」
「はっ、ご配慮有り難く!」
背筋を伸ばして座っている校長、前線を退いて暫く立ってはいるが矍鑠としたもの。軍人の道をずっと歩んできた人物なのが一目でわかる。
「デグレチャフ君の頑張りは聞き及んでいるよ。成績は優秀、生活態度も模範、極めて高い魔導能力に、愛国心があるとのこと。素晴らしい将校になるだろう、期待をしている」
「お褒めいただき恐悦で御座います!」
上げて下げるのは世の常だ。こちらの精神を揺さぶって、隙を衝くつもりなのかも知れん。或いは慢心していないかを試しているのか? 大丈夫だ、私は常に冷静だぞ。
「ま、そんな君に頼みがある」
「何なりとお申し付け下さい!」
頼み? 頼みだと! そんなのは言葉だけで、命令じゃないか。一体どこの誰が校長と生徒の関係で頼みを断ることが出来ると言うのだ。茶番だ、こんなのは茶番でしかない! きっと恐ろしい命令が下されるに違いないぞ。
「君が口外するとは思わないが、とある筋からの要請で幼年学校から転籍して来る者が居る。その人物とペアになり、過ごして貰いたい」
極秘事項だと! 口外すると最悪存在を消される恐れすらあるわけか。明かせない筋にろくなものなどない、それにこの半端な時期に転籍だと? 怪しさ大爆発じゃないか!
「承知致しました!」
「ふむ、何か質問はあるかね?」
「ありません!」
余計なことを聞くな、質問は受け付けない。これはそういう意味に違いない。大体たかが生徒一人に校長がすべきことではないだろう。だが事実こうしている。ならば話は簡単だ、校長がすべき行為なのだから一筋縄ではいかない一大事なのだ!
「宜しい、では退室したまえ」
「はっ、失礼いたします!」
きっちり百八十度回転し、速やかに退室する。扉を閉めて廊下を進み、校長室が見えなくなったあたりで全身から力が抜けた。
「叱責では無かったが、別の重大事項のようだ。心して掛からねばならんな」
質問は出来なかったが、ペアと言うことは同じ部屋で過ごすことになるはずだ。まずはいつやって来るのか、寮長に確認をしておくとしよう。それにしても校長、懐の深い雰囲気があるお方だった。
聞いたところ今日中には到着するらしい。生徒には直前に報せるだけで充分と言うわけか、情報漏れを防ぐ意味でのことなのだろう。
部屋で待っていればいつかやって来る、出歩かずに椅子に腰かけて待つことにした。幼年学校は十三歳から十五歳の者が所属する、プレ士官学校のようなものだ。一方で士官学校は、校長が許すあらゆる人物が所属可能だ、例えば私のような九歳の幼女でも、だ。
正直なところ、どれだけ奇異の目に晒されてきたか。それはそうだろう、九歳と言えば世が世ならば小学校に通っている年齢だ。私ですら何を言っているんだと呆れてしまうようなことだぞ。
だが現実は違う。魔導師としての能力さえあれば、素質を認められ入校可能だ。逆に能力があるのに軍に志願しないという選択肢はない。ならば兵としてではなく、士官として入った方が自らの生存率が上がるではないか!
戦争では順当に行けば、階級が低い弱者から死んでいく。階級が上がれば上がる程、全体での死亡率は下がっていく。それは何故か、軍人は一つでも上の階級の人物を守り、生かすべく犠牲になることを教えるからだ。ゆえに! 私は士官の道を選んだ。
ノックの音が聞こえてくる。個室を行き来するのは禁じられているので、他の部屋の生徒ではない。寮長は監視の意味を込めていきなり扉を開けるのでそれも違う。
いいか、例え年齢が上であっても士官学校での先任は私の方だ。子供だからといって舐めた態度をとりでもしたら、真っ先に教育してやろう。
「入れ」
「あの、失礼します」
ペアを組むのだから当然女性だろう、そこは軍であっても最前線でなければ秩序がある。足を組んで扉が開くのをじっと見つめていると、想定よりも大分下に顔が現れた。
「本日付けて転籍してきました、アリアス・アルヴィン生徒です。よろしくお願いしましゅ!」
https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16818023212121815986
(アリアス)
噛んだな……いや、重要なのはそこではない。何故だ、何故ここに幼女が居るんだ? おかしいじゃないか、その、私が言うのもなんだが、お前小学生だろ。立ち上がって隣まで歩いていき、自分の頭の上から手のひらをすっと隣にやる。
「えと、先輩?」
小さい。何ということだ、こいつ、私より小さいぞ! そんな馬鹿なことがあるか!
「お前、いやアルヴィン生徒は何歳だ」
これで十三歳とかいうオチではあるまいな。もしそうなら薬物の嫌疑を提起するぞ。
「九歳です、昨日で」
ビバ後輩! やっほう、真実私の下じゃないか! こんな奇跡があるのか? いや、これは現実だ、落ち付け私。まずは深呼吸だ!
「うむ、ターニャ・デグレチャフ生徒だ。同室のペアを命じられている、不明なことは何でも尋ねると良い!」
こうして士官学校の七不思議がまた一つ増えた。それでも常に七不思議であることにはいつか抗議をしたいと思っている。
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