第17話 そういう危険もあるよね

 異常があれば起こすべきだな。視線を切らずに三人の足を揺すってやると「朝ですかぁ」アリアスが寝ぼけた声を出す。


「静かに、外に何かが居る」


 出来るだけ低い声でそう告げると、三人ともドキっとして体を起こす。上着を羽織り可能な限り意識をはっきりとさせようと気を張った。


「何かって猛獣の類ですか?」


 小銃を手探りで引き寄せると両手で握り、アイナが左手の場所に移る。


「月明かりに反射する何かが二度見えた。最悪を想定するぞ、ヒトの襲撃だ」


「こんなところで誰が?」


「こっちが聞きたい。教官かも知れんが、予断は禁物だな」


 後ろで「なるほどね」という感想が聞こえてくる。自分で口にしたが、どうにも納得いく筋書きに思えてしまった。あの教官ならやりかねん、演習で失点をつけに来ないとは言っていないからな。


「あ、光った」


 アイナにも見えたらしい、どうにも先ほどより近くに来ている気がする。これで明白だな、ここを目指してきている。


「友好的な者とは思えんな。各位、安全装置を解除し待機」


 宝珠持ちならば無意識にシステム防御がされる、民間人が居る場所で演習はしなかろう。仮にそうだとしてもこんな時間に何をしているんだという話だ。また光った、数は一だな、単独か。丘の背後から回り込んでいる可能性は捨てきれん。


 閉じていた片目を開く、闇に慣れていて一瞬だけでも見通せるのではないかという気になる。今度はチラッと姿が見えた、教官のシルエットではない。


「今のは訓練装備の防寒具に見えたな、どこか別の小隊のようだ。だが警戒は解かんぞ」


 なぜこのような場所にやって来た、目的はなんだ。小隊へ攻撃をする特務でも受けている奴らが居るのか? 否定は出来んな、ならば払暁に攻めるのはセオリーだぞ。


 またキラリと光った。手にしている小銃が月明かりを反射しているのが原因だとはっきりと見えた。そうならないように、布を巻いたりするものだが、出来ていないならば一号生なのだろうな。


「四人居ると想定して動いた方が良いだろう。目の前のを仕留めたらアイナは左、エミーは右、アリアスは正面を警戒しろ。私は後方を確認する、先に仕掛けるぞ」


「やるのね、了解よ」

「いいじゃん、右方オーケー」

「なんだかドキドキしますね!」


 それぞれの反応を確認した後に、テントの紐を解いていつでも外に出られるようにし「私が発砲する、それを合図に動くぞ。目をやられるなよ」小銃を肩付けして、蠢く人影に一発叩きこんだ。


 甲高い銃声が響くと同時に、三人がテントを這い出た。驚いて伏せたのか、宝珠の防御が発生して衝撃で転倒したのかまでは解らないが、目標を外したつもりはない。外へ出て岩場に身体を隠して後方を一瞥すると、三つの人影が固まって近づいてきていた。


「後左(アトヒダリ)敵影三!」


 いわゆる六時から九時の間あたりを大雑把に指し示す言葉、左後ろではない。聞き違えをし辛い発声を選んでのことだ。姿を見るや否やこちらから発砲してやると、バタバタと散ろうとするが、アイナからも攻撃を受けて更に二人が宝珠の防御を発生させてしまう。


 残る一人はエミーがしっかりと背中から撃ってやり、小隊全滅。三人は走って逃げて行ってしまったけれど、正面に残されているのはアリアスにエイムされていてその場から動けない。


 後ろをエミーに警戒させておいて、アイナと挟み込むようにそいつに近づくと、両手を上げて降参。どこかで見たことがあるようなないような一号生だった。


「何故ここに居る、目的はなんだ」


 小銃を向けたまま尋問を開始する、そいつの銃はアイナが取り上げてしまう。男の士官候補生、命令されていたのは明らかだ。


「テントがあるからそれを襲撃するぞと言われたので」


「サバイバル演習のはずだが、小隊に特別任務が課せられていたのか?」


 個別の案件はあってもおかしくはない、そしてそれを周知してなどくれるはずもないのは理解しているぞ。いついかなる時でも不都合は突然、それも両手を繋いでやって来るものだからな。


「いや、そういうわけでは……」


「ではなぜだ」


 じっと睨んでやると、その男子生徒はバツが悪そうに眼を逸らす。黙秘する権利はあるが、私はそこまで優しくはないぞ。


「選択肢を三つ与える。大人しく喋るか、捕虜として荷物を曳くか、さもなくば吐くまで撃たれるかだ。三秒だけやる、選べ」


 荷物を引っ張る人手とは、我ながらナイスアイデアじゃないか! さあ秘密を守り通すんだ!


「……わ、わかった喋るよ」


 喋るな! 諦めるな、諦めたらそこですべて終わりだぞ! クソが!

 エミーの方を振り返り、他に邪魔が入ってないようならばともう一度目の前の奴を振り返る。


「嘘を言うようならただではおかんぞ」


「でも本当のことを言ったら、やっぱり無事じゃないような気もするんだよな」


 この様子ならば騙しをしてくることも無かろうが、どうにも釈然としない何かがあるな。


「隊長、取り敢えず聞いてみましょうよ」


「うむ、そうだな。捕虜の虐待はしないと宣言しよう」


 実際はどうなるかこちらの胸先三寸だがな! とでも言えば黙ってしまうから、今は穏やかにだ。バツが悪そうな表情を浮かべてそいつは言ったさ。


「女ばかりの小隊が居るから、寝込みを襲ってやろうって話になって――」


 バン! 小銃の弾丸がそいつの頬をかすった。


「おっと手が滑った、すまんすまん。で、そいつを教官の前できっちりと自白するか、ここで雪に埋められるかを選ぶのも追加してやる。できれば後者を選択して欲しいが」


 その日、朝っぱらからアイナの激オコな顔を初めて見ることになったよ。帰還するまでソリ曳の上でメシ抜き、夜はテントの外という待遇をそいつが望むものだから、自白だけで許してやることにした。

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