第26話 実地試験の結果は?

 木陰に身を隠して敵を探して一発お見舞いしておく。当たったかどうか半々だったな、木の的を相手にしてるわけではない、逃げもすれば隠れもするし反撃だってしてくるぞ。


「こちら帝国部隊、我至近に在り。これより合流する、敵味方誤認に注意」


「え、援軍が来たぞ! みな気をつけるんだ!」


 ッチ、無線をいれたままはしゃぎおって。だがまだ生き残りが複数居るらしい、上々だな。恐らくあの茂みに第六が居るのだろう、ならば。


「総員、あの二本ある背が高い木のあたりに煙幕弾を投擲するぞ、用意! …………投擲!」


 一斉にアンダースローで投擲を行う、飛び過ぎるのも居れば距離が伸びないのもいる、だからこそ結果丁度良い。煙が飛び出してくるとあたりが真っ白になる空間が、一種の安全地帯のようになった。そこを右袖にかすめて、茂みのあたりに駆け込む。


「ライヒ!」


 帝国兵だと叫びながら接近すると、手を振っている奴が見えた。これで合流だ、直ぐに離脱と行こう。まずは集団に飛び込む、素早く将校を探すがどこにもいない。


「軍曹が頂点か?」


「なんだって子供がこんなところに……え、じゅ、准尉殿!? 自分が第六偵察部隊の頂点であります。少尉は戦死しました!」


 そうか、それは残念だったな。士官候補生の姿もない、だからこそ下士官が頂点なわけか。


「私が指揮を執る。全部隊、速やかに渡河ポイントへ向かい、全力で戦場を離脱するぞ!」


 曹長が軍曹と短いやり取りをしている、任せておけば良かろう。河を渡るのは困難だが、対岸に味方が陣取っていると信じて行動するぞ。汗と泥とでグダグダになった戦闘服が体に張り付いて来る、これぞ現場というところだな。


 どこへ向かっても敵が居て、散々交戦した後にまた敵が現れる。多重包囲とは洒落た真似を!


「隊長代行殿、河が見えてきました!」


「いい子だ、良くぞここまで耐えたな。泳いで渡れとまでは言わんよ、向こう岸に居るだろう援軍に船を回して貰う手配を行え」


 船といってもエンジン付きのボートのようなものだ、それでもすし詰めにして四人も乗れば向こうに辿り着けるだろうさ。数十秒間くらい抱き合うくらいは我慢してもらうぞ。


 河岸の斜面のすぐ傍まで来ると、向こうで待機をしている味方の姿が見えた。よし、ゴールまでわずかだ!


「味方は目の前ですが、これでは離脱不能です!」


 敵がしつこく追いすがって来て、逃がさんと激しい銃撃をしてきている。このままボートに乗れば助けに来た奴も一緒になって穴だらけは確実だな。手持ちの弾丸も僅かになって、さすがの曹長も少し早口だ。


「ここまできて無理でしたにはさせんよ。曹長、船を回すように連絡をしろ、直ぐにだ」


「ですが!」


「命令だ! 私が敵を押さえる、離脱の指揮は曹長が行え!」


 部下思いの良い隊長代行を演じられているだろうか? 中尉には申し訳ないが、これを一つの功績にさせてもらうとするぞ。向こう岸からボートが飛び出して来る。


「総員手りゅう弾投擲の後に全弾射撃! ボートに向かって走れ!」


 火力の置き土産をして兵らが走る。曹長は最後までこちらを気にして、それでも一番最後に離れていく。


「逃がすな、追撃しろ!」


 共和国の兵が大声でそう叫んだ。私はにやりと笑うと久しぶりに宝珠を起動させた、それも高出力でだ。ふわりと舞い上がると森林を一瞥する。


「共和国兵の諸君、ごきげんよう、そしてさようなら!」


 小銃を構えると魔力を乗せて右から左へと薙ぎ払うように連射をする。今の今まで魔導師など姿が無かったので、突然現れて驚いたのか大混乱を起こした。その貴重な十秒程の間にボートは河の中央を越えて行く。


「長らく遊んでくれた礼だ、遠慮はいらんぞとっておけ」


 範囲攻撃術式。数秒の溜めを行い、目の前の森林に砲弾の如き一撃をお見舞いしてやる。地震かと思えるような揺れが起こる程の威力だ。結果を確かめることなく対岸にまで飛んでいくと、ボートから転げ落ちるかのように下船している兵らを見詰める。


「こんなことならば最初から威力偵察でもしておけば良かっただろうに。中尉は今頃混乱を傍目にこっそり離脱しているだろうか?」


 基地に帰還すると第四偵察部隊こと、護衛分隊はもろ手を挙げて迎え入れられた。がだ中尉の姿が無いことで急にトーンが落ちてしまう。少々派手な交戦が起こってしまったせいか、士官候補生は首都へ戻れと命じられてしまった。


 翌日にすぐさま追い出されて、列車で学校へ戻る。それから数日、経緯を全て耳にしただろうベルクシュタイン教官が私を呼び出した。そして短く一言だけ伝言があると告げて来た。


「貴官の正義が貫かれたことを嬉しく思う、という匿名者からチョコレートがカートンで届いている。邪魔なので貴様が処理をしておけ」


「了解しました」


 ゲリメル中尉、無事帰還出来たんだな! 帝国にはああいう尊敬すべき将校が居る、オブライアン曹長やあの伍長のように有能な下士官も。この世界も捨てたものじゃないな。


 この時は知る由もないが、ザルツブリュッケンの基地司令と情報部の連名で、私に二級鉄十字勲章授与の申請があげられていたらしい。結局却下にはなってしまったようだが、数年後にふと耳にすることになるのだった。

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