ダンジョンギフトで人生を謳歌します

相澤

第1話 ギフトは重要*

 ギフテリア大陸の東部にあるフィナラッド王国は、縦長の国で中央に山脈が走っている。

 山脈を挟んで左側に王都、右側は海に面している。その右側南部の国境近くに、アクテノール領がある。


 アクテノールは山からの雪解け水が流れる川と湖が領地の大半を占め、山の麓には豊かな森が広がっている。

 水の都とも呼ばれ、風光明媚な場所として広く知られている。


 保養地として有名だったのは過去の事で、現在の主な産業は林業や農業、畜産や酪農。長閑な田舎でしかない。

 その領都でそこそこ収入のある商会を営む両親の、三人きょうだいの真ん中、長女としてリーンは産まれた。


 商会長が父で副会長が母。十七歳の兄アルバートと十歳の弟ギルバーそして十二歳のリーンの三人きょうだい。

 商会は庶民向けで、食料品や日用品などを売る生活密着型。他領や他国との取引きもしている。


 他領や他国と取引きがあるのは、北隣にある職人の都と呼ばれるラーアのお陰。ラーアでは高品質な魔道具などが作られている。

 領主同士が提携を結び、アクテノールからは食料を、ラーアからは魔道具をお互いに安く取引きしている。


 その為アクテノールは食べ物が美味しく、最先端の道具も安く手に入るというとても暮らしやすい領地だ。

 ただそれがあまり知られておらず、ただの田舎だと思われがち。だが逆にそれがいいとリーンは思っている。

 領都でさえほとんどの住民が顔見知りで、食べ物が豊富で安く手に入る為に、義務教育中は学業を優先できる環境にある。平和でしかない。


 義務教育は五歳から十一歳までの六年間、国立の学校に通う。そこで一般適な常識や教養、生活に密着した魔法の使い方を習う。

 そして十二歳の誕生日の翌月一日に、領都にあるギフト研究所で神々からギフトを授かる。ここまでが一般的な人生の流れ。フィナラッド王国民の義務とも言う。


 ギフトはスキルとも呼ばれ、様々な種類があるが、神々から与えられる才能、贈り物だと考えられている。

 持って生まれた才能とは異なり、明確に自分の才能がわかるので、ギフトを授かってから人生設計を考える。

 特にフィナラッド王国ではギフトに準じた職に就くのが一般的で、むしろそれ以外の職に就くのは難しい。 


 なのでギフトによっては地元での就職が難しい。その為リーンは学校を卒業した後、実家の商会を手伝ってお金を貯めている。

 兄は鑑定と直感のギフトを授かり、性格的に向いているし本人の希望もあり、このまま父の商会を継ぐ。

 兄はかなり運が良いと言える。正直鑑定と直感では、親の商会でなければ継ぐのは厳しかったと思う。


 フィナラッドでは特にギフトと就職が直結しているので、授かるギフトで人生は大きく変わる。

 凄いギフトを授かって有名になりたいと思っている子は多いが、リーンはそういうのには興味が無かった。

 食べる物に困らず、好きな物をそれなりに買える程度の収入が得られればいいと思っている。


 父が授かったギフトは目利きと金勘定。農家出身の父はこのギフトを授かって、商売の道を選んだ。

 大きな商会に就職して修行させてもらい、その後独立。アクテノールで自身の商会を立ち上げた。

 母は話術と気配遮断。日常の何処に気配遮断を活かしているのかは不明だが、話術は商売にも日常にも役立つ汎用性の高いギフトだと思う。


 自分はどんなギフトを授かるのか。そんな重要な日を明日に控えて、家族も本人も仕事をしながらそわそわしている。

 夢も希望も大きくはないが、今後の人生が決まる可能性があるギフト。やっぱりそわそわしてしまうのは仕方が無いと思う。


 ギフトを授かる際には、魔力量と前世の記憶の有無も調べられる。前世の記憶はないので、リーンは魔力量普通が希望。

 前世の記憶を持っていたり、魔力量が豊富で国にとって有用なギフトを授かってしまうと、国に報告されて国から声がかかる。その時点で自由な生活は送れないらしい。


 噂で聞く限り、声がかかった時点で国の為に働くことが決定してしまうと言う。リーンはそんな生活は望んでいない。

 むしろギフト至上主義が行き過ぎなフィナラッド王国を、好ましいとは思っていない。そんな国の為に人生を賭けたくはない。


 日常生活で使う魔力は微々たるもので、魔力量はわからない。それでも家族や親戚を考えれば、自分だけが豊富とは考えにくい。

 前世の記憶はギフトを授かると同時に思い出す人もいるらしいが、幼少期からその片鱗を見せていると聞く。

 リーンにはどちらの可能性も限りなく低いので、無難で汎用性の高いギフトを授けられることを願っている。


 前世の記憶を持つ人は転生者と呼ばれ、神の主導で生まれてくる。彼らは私たちとは異なる特別なギフトを授かっている事が多い。

 更に別の世界の知識や技術を持つ。だからこそ、国力に影響するのでフィナラッドでは問答無用ですぐに囲い込まれる。


 ラーアも元は特徴の無い田舎の領地だったが、一人の転生者が職人の都と言われるまでに変えた。

 当時の王族は囲い込むことはなかったらしいが、今は違う。最近はフィナラッドに転生者は現れていないと聞くが、囲われるのを嫌って他国へ逃げていると密かに噂されている。


 ギフテリア大陸各地で、過去も現在も多くの転生者が活躍している。転生者は珍しい存在ではない。

 それでもリーンは自分には全く関係のない話だと思っている。そして普通の一般人らしく、明日のギフト授与を楽しみにしている。


***本好きリーンの豆知識***


 ラーアを職人の都にした転生者は、付与石と呼ばれる石を動力源にレンジや冷蔵庫に冷凍庫などを開発した超有名人だよ。

 他にも空調設備やゴーレムを開発していたりして、知識の幅が広すぎて未だに前世が何の職業だったのか議論になっている。

 正直私としては前世の職業とか何でもいい。ただただ、生活を便利にしてくれてありがとう! って気持ち。

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