第68話 迷宮を探索しよう! 2

「リード、ティムも同類のギフト持ちだが、今日はリードの空間に入れてやってくれないか」

「いいよー」


 ティムさんは静かな雰囲気だったが実はそういう訳ではなく、普通にやんちゃな? 十六歳だったらしい。

 ジョンさんから聞いた。それでちょっとティムさんがいない間に相談もされていたんだよね。


「えっ、いや、でも」

「いつかはリードの様にギフトを楽しんで欲しいと私は思っている」


 遠慮するティムさんをジョンさんが説得しているが、ティムさんが困っている感じ?

 説得が続いているので先に空間に入り、夕飯の準備を始める。中級で収穫した蓮根があるので三人で挟み揚げを食べたいなと思っている。


「リードー」

「はいはい」

 やっと説得が終わったのだと思ったら、何故か私が先にティムさんの空間に入る事になった。


「どうぞ」

「お邪魔しまーす」


 ローランさんの空間も大概だったが、こちらも中々。広さはあるが、愛着の欠片も湧かなさそうなただの仮眠施設って感じ。

 ズラッと並ぶ二段ベッドに簡易キッチンと少しの机。お風呂はシャワーのみで二つ。トイレも二つある。だけど、それだけ。


「ティムの空間は本人の希望を無視された、仕事用特化なんだよね。リードは正直どう思う?」

「つまんないね」


「そうだろうそうだろう。さっ、リードの空間へ行こう」

 満足気に言われた。


 早速私の空間に入ったティムさんが固まった。そんなに珍しいですか。

 部屋と畑があるだけなのに。モンスターが湧く穴もあるが。


「いつか国から解放された時、自力でこういう事も出来るのだと覚えておきなさい」


 ジョンさんが父親の様に優しく穏やかな目で、ティムさんを見ている。

 国に確保されると強制的に仕事をさせられるらしいから、ティムさんはちょっと病んでいるのかな?


 前回と同じくジョンさんが案内を始めたので、夕飯の準備に戻る。

 誰もが畑をしたいとは思わないが、ティムさんは違うのだろうか。


「ティムにいい経験をさせてくれてありがとう」

「……ありがとうございます」

「いいえー。ご飯出来たよ」


 口の覆いを取ったティムさんは、キリッとした目と裏腹に、口角の下がった幸薄そうな雰囲気だった。

 我慢や苦労をしている雰囲気がじわっと滲み出ている気がする。十六歳でこんな表情に固定されてしまうなんてと思うと、切ない。


「昔、母が作ってくれた料理の味に似ています。とても……懐かしいです」


 多分ティムさん的に最上級の褒め言葉。口角が上がり、顔が幸薄そうからちょっと幸せそうに変わった。

 私の料理で懐かしいと感じるということは、私と同じ庶民なのだろう。庶民が突然十二歳で国に囲われたのかー。


「ありがとうございます。ティムさんは、隠し部屋とかを創ったらいいと思いますよ?」

「えっ、何それ楽しそう」


 ティムさんは考えた事が無かったのか呆けて、何故かジョンさんの方が食いついた。本当に好奇心旺盛ですね。


「転生者ダンジョンにはギミック解除で入れる隠し部屋があるんでしょう? 自分しか入れない隠し部屋もきっと創れますよ」


 共通している感じがトイレを思い出させてなんか嫌だが、あっちは隠れていないから別物。

 ギフトによって出来る出来ないはあると思うが、ティムさんのギフトで出来たらいいなと思う。


「えー、いいなそれ。創っちゃいなよ」

 ジョンさんが軽い。


「事前に用意しておいたら引退したら直ぐに楽しめますし、むしろ準備に時間がかかるので、今から始めないと」

「楽しむ……?」


 ティムさんの病み具合が結構重症そう。楽しむが疑問形なことに闇の深さを感じる。

 ジョンさんにせかされたティムさんがコア──ティムさんのギフトでは宝珠ではなくてコアだった──に確認したところ、可能との返答が。


 明るい雰囲気になるように、どういう部屋にしたいかとか隙間時間に出来る準備について案を出し合った。

 ティムさんは国に囲われたのだから魔力量も豊富だろう。私よりもっと色々な事が出来ると思う。


「旅が基本なら色々な物を解析出来るし、旅先でやること一杯ですよ!」

「そう、だね」


 ティムさんがうっすらとだが、間違いなく笑った。なんか嬉しい。


 フィナラッドでは国に囲われるかどうかの決定に、個人の意思は尊重されないと聞く。ティムさんはきっと嫌だった。多分ジョンさんも。

 ギフトを授かってこれから何をしようかとワクワクしていたら、国の指示通りに動かなければならなくなった。


 給料が高くても、望んでいないならそれって凄く退屈。ジョンさんを見る限り、それが後数十年続くのは多分確定。

 ティムさんはまだ自分の境遇を諦めきれない十六歳で、幸薄そうになるのも少し病むのも仕方がないと思う。


 諦めないといけない部分の方が多いとは思うけれど、全てを諦める必要はないと思うよ! 

 そうは思いつつ、自分はそうならなくてよかったと思うあたり、私は薄情なんだろう。


 ティムさんが自分の空間に戻った後、ジョンさんにお礼を言われた。


「ありがとう、リーンちゃん」

「どういたしまして!」


 翌朝早速隠し部屋を作ったティムさんがお披露目してくれた。隠し部屋なのにいいのか?

 ギミックが細かいからティムさん自身も休日にしか入れない感じだが、それでも息抜きにはなるだろう。

 お披露目されるまで、私の気配察知では感知できなかった。でも国で働いている人ならどうだろう?


「気配察知とかのギフトには気を付けた方がいいかもね」

「そうだな。いざという時に誤魔化す方法を後で検証しよう」


 ベテランで重鎮だろうジャンさんに任せておけば大丈夫な感じ。


「ありがとうございます」

 ティムさんが嬉しそう。


 私の空間がどういうものかを公開したので、それからの休憩は私の空間を三人で利用した。

 空と地平線、果樹がティムさんは気に入ったみたい。故郷がそんな感じなのかな。


 ジョンさんに言われていたので、ティムさんがいる時はお兄ちゃんの部屋を使う。少年設定なので。

 視界に入った時に普通のことだと再認識させることで私の性別がより男になるんだって。

 ティムさんが枇杷を気にしていたので、好きなだけ食べたらいいよと言っておいた。少しは食べていたと思う。


 上級迷宮を出たところでティムさんとは別れる。遠慮していたティムさんには枇杷を渡した。


「ありがとう」


 ティムさんは今は口元を隠しているから確認は出来ないが、きっと口角は上がっていると思う。

 ジョンさんが羨ましそうに見てくる。やめなさい。


「ちゃんとマンゴーを用意してるから、そんな目で見ないでよ」

「そうか。送って行こう」


 ジョンさんはこの後も忙しい。でも私の姿も戻さないといけない。だから猫カフェまでは一緒に行く。

 ジョンさんが周囲を警戒しながらも、私に合わせて歩いてくれる。


「しばらくは無理だが、また行く。ディーンたちとは私が戻るまで別々だ。いいね?」

「うん」


 ジョンさんの空間収納に大量に食材をつっこんでいたので、助かる。

 一斉捕縛の時は私とお兄ちゃんの保護目的で、ディーンさんたちも一緒にいる許可が下りたんだよね。


 私たちが維持隊に訴えた情報は漏れていないはずだけど、いざという時に戦力になるだろうって。

 空間にいたら問題ないと思ったんだけど、宿で何かあった時にって。


 無事に猫カフェでお兄ちゃんと合流し、ジョンさんと別れた。

 その後宿に戻ってディーンさんたちと合流した。流石に疲れたのでと、さっさと自分の部屋にいった。

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ダンジョンギフトで人生を謳歌します 相澤 @aizawa9

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