第67話 迷宮を探索しよう! 1

「ほわぁぁぁ!」


 食後に自分の部屋へ行き鏡を見て、自分の姿に思わず叫んだよね。

 何処の美少年だよ! 思いっきりフィナラッド系イケメンだ。美少年だ。恐ろしいので追及はしないが、ジョンさんのギフトが凄い。


「どうした、リーンちゃん。大丈夫か?」


 ジョンさんが心配して声をかけてくれる。


「大丈夫! 自分の姿にびっくりしただけ!」

「えー、何で夜に見てないの」


 言われてみたらその通り。知らない人がいて緊張してたのか、疲れていたのだ。ズボラじゃない、きっと。


 朝からジョンさんにはブルーベリーの収穫を手伝って頂いた。昼休憩のデザート用。冷蔵庫で冷やしておこ。

 ジョンさんがそっとマンゴーを見つめている。欲しいって言えばいいのに。変なところで遠慮するよね。


「遠慮しなくていいよ」

「だが、ダンジョンにいる間私はほとんど魔力提供が出来ない」


 そのほとんどが私がみっちみちに注ぐ何倍もあるんですけどね!


「パワーレベリングしてくれたお礼に。何か新しいこと出来るようになったら楽しいし」

「そうか、ありがとう」

 マンゴーも収穫して冷蔵庫に入れておいた。


 さて、今日は五階から探索スタートだ。五階と六階には野菜と鹿と熊。熊がド迫力でとにかく怖い。鹿に怖がっていた昨日が懐かしい。

 ディーンさんを優しい熊さんとか思っていたが、ディーンさんは熊じゃない。優しくしたところでこれは違う。


 それでもジョンさんの守りが固いので怪我はしなかったが、私ではパワー不足でティムさんが致命傷を負わせたのにとどめを刺すくらいしか役に立てなかった。

 でもこれって、ひそかに凄いパワーレベリングなのではと思ってしまう。ティムさんにとって熊は雑魚のようで気にした様子はなかったが。


「野菜を収穫しながら鹿と熊って酷くない? せめてモンスターが畑には入って来ないようにして欲しいよ」

「んー、難易度が高過ぎるのだろうか」


 強過ぎるジョンさんにはわからないみたい。


「難易度を下げると迷宮の価値も下がりますから、もっと上の階で普通の野菜がとれるようにしたらいいんじゃないですか」


 ティムさんの意見に賛成。


「ちゃんと深く行くほど希少価値も上がる方が、テンション上がるよね」

「希少価値、ねぇ?」


「すぐに思いつくものはないけれど野菜って普通に売っている食材だし、もうちょっと努力が報われる感じに」

「そうだな、考えておこう」

 ジョンさんは変わらずピンときていないようだが、ティムさんは理解しているようだったので放置した。


 そして七階に。これは見ただけで意見が出来た。果物が出回らない理由は木が上に向かって伸びていて、下の方に実ったものしか収穫できないこと。初級と同じ過ちだわ。


「いや、果樹ばっかり無理じゃない?」


 しかもティムさんが枇杷の木にするすると登って枇杷を収穫しようとしたら、熊が木を登っていった。


「ギャー! ティムさん!」

「大丈夫だろ」


 ジョンさんが落ち着いている。ティムさんも落ち着いていて、熊を躱しつつ枇杷を二つほど取ったら木の下にいた鹿に向かって飛び降りた。

 飛び降りで鹿がお肉になって、木に登っていた熊もサクッとドサッとお肉になった。強いぜ。付与石全然出ないな。


「……収穫出来なくはないですが、手に持てる数に限度があるので効率が悪いですね」

 ティムさんが超冷静。


「収穫かごを持って登ったらどうだ?」

「どうでしょう? 動きが制限される大きさだと、ここの実力に見合った探索者には危険だと思いますが」

「危ないよ」


 強い二人では埒が明かないと思い、一般人の私が意見した。


「しかも適当にもいだら長持ちしないし、お店で売れなくなっちゃうよ」

「なるほど……」


 枇杷とかはともかく、奥にある葡萄なんて焦って適当にむしったらもったいなさ過ぎる。苺とかもさ。

 私が熱心に説明している最中に、ティムさんは枇杷をむいてむしゃむしゃする傍らで熊を屠っていた。常識人がいない気がする。


「そもそも鹿と熊の肉にそんなに需要はあるのか……」

「……ないな」

 だよね! この大きさのお肉を持ち帰る理由が見当たらない。熊の手とかどうすんだよ。調理法がわからんわ。そもそも食べられるのか?


 ティムさんは果物が好きらしく、時折収穫しつつ八階へ。この二人だからこんな緩い感じで出来るんだと思う。

 茶の木モンスターは集団でえぐかった。ディーンさんたちは上級に行っていたというから、これを倒していたのかと思うと凄い。


 お茶各種は有難く回収して、最深部から地上へワープ。これでしばらくお茶は色々と楽しめる。

 このまま普通に上級に行く。強い二人に疲れは見えない。


「お茶の時は静かだったが、あの階はどうだった?」

「うーん、お茶は嬉しいですけど、ここまで種類がいるのかっていうのはありますね」


 多分だがこのお茶の設定をしたのは貴族様だ。自分が普段飲んでいるお茶をドロップするようにしたのだろう。

 他国からの輸入だが、輸送が楽なので茶葉は普通に出回っている。


 上級の入り口で小休止ついでに回収したお茶の確認をした。

 緑茶と抹茶くらいはわかるが、よくわからないお茶も沢山あった。


 種類が豊富なのは嬉しいが、紅茶のフレーバーティーまでドロップする必要はあるのか。バラとか地上で入れればいいじゃない。

 ジョンさんも色々なお茶を飲んだことはあるが、淹れたことがあるお茶は少数でほぼわからなかった。後でハドリーさんに飲み方を聞こう。


 上級も順調に進んだ。今日また迷宮で一泊して、明日の夕方くらいには最深部に到着出来るとのことだった。

 ここまで来ると私は役立たずでパワーレベリングも無理な状態。

 だから二人が倒したモンスターのドロップ回収に励んだ。ちゃんと意見も少しは言ったよ。


 ジョンさんに牛乳や乳製品を保存してーとじゃんじゃか渡す私に、ティムさんが驚いていたくらいしか特筆すべき点はない。

 上官の空間収納を鮮度を保つ為に利用しようなんて人はいないのだろう。正気か? みたいな目つきだった気がする。正気だよ。


「上級は難易度からしてこんなもんだろう」

 上級ってこんなに激しいのが普通なんだ。二人とも余裕そうだったから、ダンジョンの登竜門的な意味でだとは思うが。


「ちょっとドロップが食材に偏り過ぎな気がしますがね」


 鶏豚牛の一般的なお肉や乳製品、麦各種となると確かにティムさんの言う通りだと思う。


 私的には美味しいだけの上級だったが、普通の探索者にしたら保存が大変だから違うだろう。

 ジョンさんの空間収納がなければ、私もここまで欲張れなかった。


「探索に必要な食料を確保できる程度にして、中級に割り振ればいいだろう」


 話はまとまった。一応最深部まで確認して、明日に終わる予定と油断していたら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る