第23話 住民専用のお店

 迷宮から出て、それぞれが持っていた荷物を分配。普段テッドたちが買取をお願いしている商店に連れて行ってもらえることになった。

 その道すがら、雑談兼情報収集を。ちびっこたちの荷物をさりげなく持っている年長組の優しさが、見ているだけで沁みる。


「アイシアの主食はお米だよね?」

「初級で簡単に手に入るから安いの。上級でライ麦粉も小麦粉もドロップするけれど、出回る量は少なくて」

 ブレンダ。


「小麦粉に至っては、ほぼ高台行き」

 テッド。


「迷宮に持ち込む食料もお米だよ」

 ブレンダ。


「携帯用の調理器具を持っていても、セーフティエリアで毎回パンを焼くのは大変だろ」

 テッド。


 そりゃあな。焼きしめて日持ちするパンを持ち込む発想はないのか? いや、空間持ちが空間に冷蔵庫か冷凍庫を持ち込めば、パンでも余裕ではないかと思う。


「体力が必要だから、一日三食しっかり食べたいでしょ? そうしたら、焼いたパンは嵩張るでしょう?」

 ブレンダが補足してくれてようやく理解した。


 成人男性と考えて、一食につきバゲット一本で想像してみた。アクテノールのバゲットは長さ三十セチに直径十セチ未満。

 七日で一人二十一本のバゲットが必要になる。しかも最大五人で行くと言うから、百本超え。嵩張り過ぎ。パン屋越えだわ。

 言われたら無いわー。小麦粉を手に入れられても、焼くのは辛過ぎる。探索で神経も体力も使って疲れているのに、そこで更に食事の準備でパンまで焼きたくない。


 探索に魔力を使いがちなので、メンバーで協力体制を築いたとしても空間の広さはあまり無い人が多いらしい。

 大体が自分たちが雑魚寝するスペースとドロップを持ち帰る為のスペースになる。そこに冷蔵庫や冷凍庫を入れてパンでパンパンにするくらいなら、もっと有効に使いたいと。


 モンスターからドロップするお肉中心の生活にして、あまり主食を持って行かない強者もいるらしいが長続きしないそう。

 空間持ちがいないパーティあるあるとか。だから空間持ちは大人気で常に募集されている。流石にキッチンを備えた空間の話は出なかった。私は探索者に大人気になるのでは。


 ギフトを授かって直ぐに、もしくは旅費を貯め次第アイシアに来た場合、空間を広げる期間が足りないだろう。ベッド二台分くらいかな。

 更にアイシアに来てしまえば、魔力を集めたい人は大勢いる。私の様に知り合いに魔力提供をお願いできる環境じゃ無い。


「空間持ちの人がいないグループは、大変そうだね?」

「だから人気があるんだよ。俺も迷宮ギフトがいいなぁ」

 テッドは将来探索者になることに憧れがある様子。


「命の危険があるのに、それでも十分な収入を得られる人は一握りだけだから、たとえ授かってもやめておいた方がいいと思う」

 授かった私の本音。


 武器や防具にお金をかけなきゃいけないし、老後の資金を貯められるくらい稼げる人は、本当の一握りっぽいんだよね。


「私もそう思う」

 ブレンダも私の意見に賛成してくれた。だよねー。


「夢とロマンなんだよ!」


 テッドはきっと、冒険小説とかが好きなタイプだと思う。確かにそこに夢とロマンが詰まっているとは思うけれどね。

 今日見た現実は作業感が凄かったよ。あと、ここの中級と上級迷宮もドロップや採集物から考えると、あまりロマンは感じない。


「トラブルも多いらしいよ。探索していたら空間を広げるのは難しいし、メンバーが協力して広げたら他のパーティに行かれたり」

 ブレンダ。


「空間が広ければ、もっと強いパーティにアピール出来るもんねぇ」

 探索者世知辛い。マンゴーおじさんが素敵に思えて来た。


「裏切られるからって、協力しない人が多いって聞くよ」

 ブレンダ。


 テッドはまだ、でも良い仲間が出来れば……とかブツブツ言っている。

 それが一番難しいと思う。いい人たちであってもそれぞれの事情や考え方もあるし、引退するまで一緒に活動とかは難しいと思う。


「それにさぁ。迷宮ギフトがあっても他のギフトが探索者向きじゃなかったら……」


 そこはテッドも気が付いていたようで、静かになった。だよね。戦闘力皆無の私は他のメンバーに戦闘で寄生する事になる。

 心苦しいだけでなく、何かあった時に見捨てられる可能性が高い。高価な物を預かっておくとかしないと不安。そうなると預ける方も不安だろう。


 話をしていたら店に着いた。おじさんは住民相手に商売をしていて、良心的なお店とか。私が混ざってていいんか。

 売値は他よりちょっとお安い。店主の人柄が良さそうで、子ども相手でも騙したりしないのだろう。


「おじさん、この人見た目は裕福そうだけど、家出してお金に余裕が無いんだって」

 ブレンダ。


「なんじゃそりゃ。大人しく家に帰れ」


 ごもっともです。良心価格ということは、利益が少ないということ。本気で困っていない人まで面倒を見る気はないのだろう。


「はじめまして。今家に戻ったら、生理的に受け付けないくらい無理な人と結婚させられそうなので帰れません」

 ちょっと盛りつつ、ここに来た事情を明け透けに告白。テッドとブレンダがとても驚いている。


「それは……キツイな」

 このおじさんも良い人だな。一瞬で態度が軟化した。


 話しながらもおじさんが買取をしている。ドロップなので一定の品質だから査定が簡単で早い。

 子どもたちはこの後、露店や宿屋などにお手伝いに行くので、時間にあまり余裕が無い。私が邪魔したせいとも言う。


「じゃあ悪いけど、時間が無いからもう行くね」

 ブレンダ。


「うん、皆今日はありがとう。来週もよろしくね!」

 ちゃっかり来週も一緒させてもらえるようお願いした。

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