第22話 初級迷宮 4

 地元の子なら知っていそうなので、初級以外の一般的な迷宮探索についても聞いてみた。


「危ないからグループで潜るのが一般的だな。迷宮ギルドでメンバーを募集している人が多いって聞く」

 テッド。


 迷宮向きのギフトを授かってからアイシアに来るから、当然の流れか。実際に迷宮ギルドでメンバー募集の張り紙も見た。


「昨日見たよ。空間持ち募集! ってのが多かったよ」

 本当に凄い人気だった。むしろほとんどそれ。私の需要が高い。


「空間持ちの人がいないと、荷物が多くて大変になるからね」

 ブレンダ。


「水程度と棒しか持たずに入れるのはここくらいだぞ。中級でも数日かけて潜るし、上級だと週単位で潜る」

 テッド。


 普通は携帯コンロなどの調理器具に水と食料、付与石と武器防具の予備を持って入るそう。確かにそれだけの大荷物となると、空間が無いとキツイなと思う。

 重い荷物を背負って鹿や熊と戦う気にはなれないし、そこに更にドロップを持ち帰ろうとしたらね。食料分は減ったとしてもなぁ。


 空間には各種予備にドロップを入れるのが一般的で、空間内に木箱を入れている人が多いそう。ベッド一台分の空間しか無くても、箱を積み上げれば結構入ると思う。

 更に何かあった時の為に、全員が必要最低限の自分の荷物を持っているのは当たり前。危機管理は重要だね。


「中級になると攻撃魔法が使える人とか、近接攻撃や守りに特化した人とかで組んで入るらしいよ」

 ブレンダ。


「へぇー。全員遠距離攻撃とかじゃ駄目なの?」

 近付く前に殲滅って、楽そうだけれど。


「倒しきれなかったり、魔法を外して接近されたらどうすんだよ」

 テッド。


「確かに」


「リーン、アホ?」

 聞くな、テッド。失礼だぞ。


 三階はテッドとブレンダの三人で入ることになった。アホでも合格。三階は本で読んだ時から気になっていた稲穂モンスターと林檎。


「リーンがいるから、ちょっとゆっくり時間をかけて行ってくるな」


 二階に残す子たちのリーダーらしきにテッドが言う。普段はこの子たちと入れ替わりで三階に行っているそう。

 集団としてちゃんとしてるなぁ。三階への階段を下りていく。


「リーンってさ、金持ちのとこの子だよな?」

 テッド。


「ああ、実家はそこそこ収入あるよ。金持ちってほどでも無いけど」

 商人はみすぼらしい服は着ない方がいいから、結構いいのを着ている。何気なく着てきたが、子どもたちに混ざると明らかに浮いていた。


「じゃがいもとか初級のものは、買っても安いよ?」

 ブレンダ。


「あー、色々あって家出してきたんだよね。お金に余裕が無いから、出来るだけ節約したいの」


「家出?」

 ブレンダ。


「そのー、大丈夫なのか?」

 テッドがちょっと心配そう。面倒見がいいな。


「大丈夫って言うか、何とかする」


「そっか。頑張れよ」

 深くは詮索されなかった。


 で、三階。ここだけは構造が違っていて正方形で狭め。中央に林檎の木があって床は土。壁に沿って稲穂が風も無いのにさわさわと揺れている。他の子はいない。


「この階に入った途端、近場から稲がどんどん来るからな。集団で来るからパイプを横にしてなぎ倒せよ」

 テッドがそう言って、ブレンダと見本を見せてくれた。


 取り敢えずは私でも大丈夫そう。お米も袋入りでドロップ。親切。集団で走って? 向かってくる稲穂はシュールだった。何だこれ。根で走っているの?


「いけそうか?」


「大丈夫そう。鉄パイプの長さもあるし」


「寄って来る集団全部倒さないと、米がドロップしないからな」

 集団で一体扱い? よくわからん。


 早速二人に見守られながら挑戦。まとまっているので難しくは感じなかったし、一撃で討伐出来た。


「チビたちだと幅があって打ちもらしが出て危ないんだよ」

 テッド。稲なのに危ないって何。鉄パイプが長くて良かったよ。


 打ちもらしたり、次の稲穂に合流されると、取り囲まれて集団リンチみたいになるらしい。

 みっしり固まられると救出しにくく、助けるのが遅れると大変な事になるらしい。稲なのに攻撃力高いな!


 きっと脱穀と精米分の魔力を回収する気なのだと思う。ここだけ効率的にする意味がちょっとわからん。そもそも皆ギフトを授かる前だから何かで殴るだけで、魔力を使ってないし。

 テッドとブレンダは、全員分のお米が揃うまで稲狩りする。私は二人よりも背が高いので、林檎狩りを申し出た。かなり小さい林檎。酸っぱそうな気がする。林檎も二階に残っている子の分も含めて収穫する。リュックにぽいぽい。


「収穫終わったよー」

「こっちも人数分の米はとれた」


「帰ろうか」

「そうだね」


 二階に残っていた子たちが、私の分の野菜とお肉も確保してくれていた。ありがたや。帰りは私も慣れたので、話しながら帰る。行きと違って荷物が重くなっていくのに、テンションは上がる。

 そもそもフィナラッドの迷宮は、転生者ダンジョンへ行く前の肩慣らし的扱い。ここで貯めたお金で他国に行き、もう一つか二つのダンジョンを経て転生者ダンジョンに挑むのが通常らしい。


 だから、実力のある人ほどきちんとした考え方の人が多く、その人たちのお陰でアイシアの治安は悪くない。

 燻る人は上級の一階も攻略できずに挫折する。その人たちには多少注意が必要。見た目でだいたい判断できるらしい。

 そして迷宮の運営に関係している元貴族たちには、関わらないのがいいらしい。皆同じ意見か。

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