第21話 初級迷宮 3

 二階は一階と構造は同じ。クレソンとにんにくに兎がいて、兎は肉をドロップする。

 通路を挟んで右がクレソン、左がにんにく。一階と同じく、雑草から兎の耳が見える親切設計。


 雑草に混ざったクレソンが見分けが付きにくく微妙な気がする。

 ちょっと不親切な気がするが、慣れているのか皆クレソンだけを収穫している様子。二階も作業感が凄い。


「兎は近寄って来たら、大きく跳んで俺らを蹴りに来る。だけどすげー遅いから、跳んだ後に床に叩きつけるか跳ぶ前に殴れ。空振りすんなよ」

 兎はかなり太め。体が重くて移動がどったんどったんしている感じ。


 そういう種類なのかもしれない。どったんどったん道に出て来て、ぼてぼてどーんと跳んで来たのを、びたーんと床に叩きつけた。

 つい擬音の感想が多くなる。跳ぶまでもゆっくりで遅いが、跳んでからも問題なく殴れると感じた。屈まなくて済む分、跳んでから殴った方が年長組は楽な感じ。


 お肉が抗菌作用のある葉に包まれてドロップした。量は少なめ。リュックに入れてきた保存用の入れ物とかは、必要無さそう。

 親切だなとは思うけれど、さっきの兎に植物の要素は無かったと思う。また魔力のごり押しな気がする。


 動物に植物の要素を予め混ぜることは出来るんだよね。解析済み同士のものを混ぜるから、新たなモンスターを創造したとはならず、魔力消費はどこまで大きくならない。

 葉っぱを用意する為にお肉の量が減っているのだとしたら、どうなのだろう。兎は親切設計の為に大きいだけ?


「問題なさそうだな。でも、蹴りは重くて下手すると骨折することもあるから気を付けろよ」

 いざとなったら、蹴られる前に手ではたき落とせとも言われた。


「手でいいんかい」

「さすがに倒せないぞ?」

 テッドの目がアホの子を見る目な気がする。話題を変えよう。


「クレソンをわざわざ迷宮で創って採るのって、凄い違和感を感じるわ」

「何言ってんだ?」

 テッドのアホな子を見る目が変わらない、だと!?


「私の地元は川とか湖があってね、クレソンはそこら中に生えているものだったからさ」

「へぇ……! いいな」

 目付きが変わって良かった。


「旬はあるよ。さすがに迷宮みたいに年中旬とはいかないよ」


 言いつつ思った。もしかしてこれらは、既に旬を過ぎたクレソンじゃなかろうか。 

 花が咲く前の柔らかい時が旬なのだけれど、花が咲いた後な気がする。

 

「クレソンきらーい!」

 ちびっ子が反応。


 鉄パイプは好きでもクレソンは嫌いらしい。もしも旬を過ぎていたら、余計にだと思う。


「毎日食うから、結局は全部飽きるんだよ」


 テッドの顔がなんというか、年に似合わない渋みを出している。よっぽど辛いのか。嫌いなのはそういう理由もあるのか。


 彼らはアイシアでも貧しい地区に住む子どもたちで、日々の食糧をこうやって迷宮で確保している。

 学校が休みの昨日と今日は、年長者が近所の子どもたちと連れ立って迷宮に入るのがルーティーン。


 服装を見るからに、ちょっと生活が厳しそうだなとは思っていた。そんな訳で、初級がここまで行列になるのは学校が休みの日だけ。

 たまたまだったけれど、面倒見のいい二人に会えて良かったよ!


「父ちゃんが時々他の野菜を買って来てくれるからマシだけど、肉は兎ばっかりなんだよな~」


「他のお肉は高いんだよね……」

 ブレンダから物凄く実感の籠ったお言葉を頂いた。


「普通は兎の方が高いんだけどね」

「そうなのか!?」

 反応いいな、テッド。


「そうだよ。畜産業があるでしょ」

 アクテノールは畜産が盛んだから、家畜化されているお肉は簡単に安く手に入る。


「兎とかは育てられてないんだよね。だから食べようと思ったら野生のを狩る必要があるし、下処理も大変でしょ。手間暇に狩りの腕が必要で、高級品になるってわけ」


 当たり前だけれど、野生動物は命がけで魔法を使って対抗してくるので、難易度が高い。

 家畜化されているのは、元々あまり害のない魔法を使う種類か、人がお肉食べたさに品種改良を重ねて害を減らした品種になる。


「へぇ、場所が違えばそんな事になるんだな。信じらんねぇ」

 テッド。話を聞いていた他の子も、同意を示すようにうんうんしている。


「君たちは意外と高級品を日々食べているのだよ。ところで、兎ってどうやって食べるのが正解?」

「火を通すだけで大丈夫だよ」

 ブレンダ。迷宮産は下処理不要か。


「焼くの?」

「焼いてもいいけど、ちょっと癖があるって聞くから、慣れていないなら工夫した方がいいかもね」

 ブレンダ。


「ありがとう。焼いてみて苦手そうだったら煮込んでみるわ。他のお肉とか野菜はいつも高め?」

 言いながら、二体目の兎を叩き落とす。二階に残る予定の年少組が、お肉を回収してくれている。


「高いぞ」

 反応が早いのはいつもテッド。


「嵩張って重いし、付与石の方が稼げるから、大人たちは自分が食べる分しか持ち帰らない人が多いの」

 ブレンダ。価格変動は少なそうだな。


 元々この領地は農業に適した土地ではなく、貧しい領地だった。それで当時の領主が国に働きかけて、迷宮の誘致に成功した。

 迷宮があるからと領地では農業や畜産をする努力をせず、それなのに売る分を持ち帰る人は少ない。それで物価が上がって稼ぎが必要になるって、悪循環な気がする。

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