第20話 初級迷宮 2

 先に入っていた子どもたちが玉ねぎやじゃがいもを収穫しているが、踏まれた雑草がリポップしている。無駄だわー。

 収穫物と収穫物の間が十セチ程度しかなく、そこに雑草。足を入れたら必ず雑草を踏む謎の魔力無駄消費の仕組み。

 リポップが一瞬でされているから、頑丈な雑草くらいにしか思われていなさそうな雰囲気。


 皆通路傍にいて、奥まで入っている子どもはいない。玉ねぎやじゃがいもの収穫も、通路沿いだけで十分みたい。

 通路から奥の方が完全に空間の無駄遣いになっていると思う。もっと通路を創って雑草を消し、色々な物が収穫できるようにしたらいいのに。


 鶏はモンスターとして脅威では無いのか、子どもたちは片手間で鶏を叩きながら収穫している雰囲気。

 何かこう、アクテノールで読んだ本には迷宮は夢とロマンって感じに書いてあったけれど、現実は作業感が凄い。


「ここから床の色が変わっているのがわかる? ここから先に入るとモンスターが反応するようになるの。ここはセーフティエリア扱いなんだって」

 年長者の女の子ブレンダに言われて確認すると、入り口入ってすぐの所で床の色の濃さが少し変わっている。


「そうなんだ」

 入り口に何故セーフティエリアとも思ったけれど、入ってすぐに襲われるのは確かに無しだなと思った。


「皆先に下りるから、下りる奴は道の真ん中を通るのがマナーだ」

 テッド。道の両端では収穫している人がいるから、なるほどなと思った。


「階段も含めて常に右側通行ね」

 ブレンダ。


 皆が使いやすいようにルールが決められているみたい。行列になっていただけあって、人も多いので正しいと思う。

 先頭は私とテッド、左右に年長の子が陣取り、ちびっ子たちは内側の七人編成。最後尾にはブレンダがいる。モンスターに会うのはほとんどが先頭の人になるらしい。

 モンスターは収穫している子たちが通路に出る前に倒すので、下りる時はほぼ通り過ぎるだけになる。


「コケーッ」


 進行方向から鳴き声。声を出す前から見えていたけれど。居場所を教えてから道に出てくる親切設計。ちょうどそこには収穫をしている子たちがいなかった。


 鶏が広い道に出てからキョロキョロして、ようやく向かってきた。いや、一回こちらを見ておいて、何故視線を外したのかな!?

 そういう設定が出来るのかを宝珠さんに聞いてみよう。これにも凄い魔力を消費している気がする。


「来たぞ」

 テッド。


 私の実力を試す目的もあって、モンスターを譲ってくれた。初獲物。私の鉄パイプが唸るぜ!!

 鶏は見た目をそのままデフォルメした感じ。動物を詳細に再現すると、魔力が多く必要になる。

 リポップにも魔力が多く必要になるし、省略できるところは省略するのが宝珠さんの教え。


 鶏の背は膝くらいで横幅は大きめ。殴りやすそう。親切設計最高です。本来より大きくしてドロップ量を増やすことも出来るが、さっき見た感じではドロップするのは普通の卵。

 親切設計の為とはいえ、これも魔力の無駄遣いに感じてしまう。もう少しこう、魔力を節約する気はないのか。

 国家事業で関わっている人は魔力量の多い人ばかりだろうから、私みたいにケチケチした気持ちが無さそう。


 鉄パイプフルスイングでぶん殴ったら、空中で鶏が消えて卵になった。まぁまぁ遠くまで飛んでいった。初討伐! いぇーい! 人がいない方に飛んで行って良かった。


「馬鹿! 飛ばし過ぎ! そんなに遠くに飛ばしたら、ドロップの回収が大変になるだろ!」

 テッドに怒られた。確かにあの雑草だらけの中から卵を探すのは大変そう。


「見た目と違って怪力なんですね」

 呆れた表情が幼いながらに既に怖いよ、ブレンダ。


「いやぁ、ギフトの恩恵がここまであるとは思わず」


 反省しています。ギフトの恩恵があるのは分かっていた。女性であれば成人男性程度になるだけだが、成人男性ほんと凄い! 鉄パイプが唸るぜ!


「しっ!」

 ブレンダに怒られた。


「いいギフトがあると知られると、狙われますよ」

 小声で教えてくれる。


 やっぱりあの受付のおっさんは、正しくおかしかったんだな。周囲には他の子どもたちもいる。

 誰がどこで話してしまうかわからない上に、私は見慣れない顔で背も高いから目立っている。


「やっぱり生の情報いいね」

 本には書いていない、細かいルールとかも教えてもらえたし。


「何を呑気な。リーンさんなんて、初心者丸出しですぐに騙されますよ!」

 おぉう、怒られた。


「ありがと。呼び捨てでいいよ」


 ちょっときつめな感じになっているのは、年少の子たちを守りたいから。本質はとっても優しい子のよう。

 自分たちが利用したいとは言わないんだもんね。いい子だわ。


「リーンの馬鹿力なら大丈夫だろ。このまま素通りして二階に行くぞ」

 テッドに合格をもらえた。初ドロップだけれど、卵は五分くらいで消えてしまうので探さずに進む。さらば私の初ドロップ。


「そんだけ怪力なら床に叩きつけるように殴れ。床は殴るなよ。後、人に向けるなよ。絶対に」

 テッドからのありがたい指導。わかります。鶏が浮いた時にその先に人がいなくて良かったと思ったもんね。


「お姉ちゃん、凄いね。鉄パイプ、格好いいな~」

 このちびっ子は本当に鉄パイプ好きだな。私じゃなくて鉄パイプが格好良いんだな。


 その後は問題なく華麗に? 鶏を一体ぶん殴って、そのまま二階に。

 初めての私が慣れる為にそのまま二階でも先頭にしてもらえるそう。

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