第19話 初級迷宮 1

 朝から初級迷宮に来た。こんな事もあろうかと、物置きにあった鉄パイプを持ってきていた。

 何故物置きにあったのかは謎。お兄ちゃんがやっぱり心配して付いて行くと言い出したが、目立ち過ぎると断った。

 その代わりに、直感でよさそうな子どもたちのグループを見てもらう。


「あ、今来たあの年長者っぽい男の子と女の子がいるグループ。あそこがよさそう」

「じゃあ、行ってくる」

「待って。本当に大丈夫?」


 行こうとしたら止められた。お兄ちゃんは心配性。類似ギフト内の空間では身体能力も引き上げられると言うのに、心配が止まらないよう。


「大丈夫!」

 心配性なお兄ちゃんを置いて、子どもたちに近付いて行く。お兄ちゃんも別で情報収集をする予定なので、見守らなくていいんですよ?


「そこの面倒見の良さそうな子~」


 我ながら酷い呼びかけだと思いましたよ。ええ。見ていた兄が崩れ落ちそうになっている。

 警戒心剥き出しで振り返った筈の年長者の子たちだけれど、私を見て警戒心が薄れたように思う。何故だ。結構な場違いお姉さんですよ。


「何だよ」

 年長者の男の子。キリっとした眉毛と目が印象的。


「迷宮に潜るのが初めてでね。色々教えてもらえないかなと思って」


「ギルドでお願いします」

 ちょっと強気な感じで突き放してきたのは、年長者の女の子。こちらは将来この国の美人さん確定かな。


「いや、ちゃんと聞いて来たよ。でも、実際に入っている人の生の情報が役立つ事ってあるじゃない」

 黙られてしまった。怪し過ぎた?


「お姉ちゃんの棒、格好いいね?」


 小さい男の子がキラキラした目で鉄パイプを見て来た。おたまとかを持ってるもんね。包丁がいなくて良かったよ。

 子どもが包丁を持って並んでいたら、絵面が怖いもの。もしかして、鉄パイプでは殺傷能力が高過ぎるのだろうか。


「鉄パイプ、格好いいでしょ」

 話のきっかけにいいと思って、見せてみた。目がキラキラしておる。


「いいなー」

 欲しそうに見られても困る。あげないよ。私が持つ唯一の武器。


「ごめんね、これしか持ってないんだ」


 この食い付いた男の子をダシにしてグイグイ話をしたら、何だかんだで一緒に潜る事になった。

 年長者の子たちがお人好しで良かった。聞いたら色々と教えてもくれる。見極めてくれたお兄ちゃんに感謝。


 基本の流れはまず地下三階に行って、徐々に上に戻って来る。三階まで行くのは年長組だけ。

 一応私も、付いて行けそうなら三階まで行きたいとお願いした。


「他の階でどれくらい出来るか見てからな? まっ、余程で無けりゃ二階までは行けるだろ」

 年長者の男の子。


 初級の鶏の嘴攻撃は痛いが、我慢できるレベル。けれど、絶対に転んだりして顔を狙われてはいけない。

 目とかが大惨事になる。もしもの時は、助けがくるまで必ず顔を守ること。


「鶏はコケーッて言いながら真っ直ぐに向かってくるから、ぶん殴れ」

 倒し方まで教えてくれる。


「卵は割れやすいから、次の階に行く時は無視します。モンスターは倒してもリポップが早いから、気にしなくていいです」

 年長者の女の子が補足してくれる。


 いいコンビだなぁ。話をしていたら順番が来た。入り口は向こう側に何もないのに人が吸い込まれていくから、ホラー風味が否めない。

 受付の人から視線を感じた。警戒とは違う、あまりよろしくないねっとりとした値踏みをするようなものに感じる。


「見ない顔だな?」

 新人さんを値踏みするのは良くないと思います!


「初めてだって」

 代わりにテッドが答えてくれた。テッドは年長者の男の子。列で待っている間に自己紹介した。


「ギフトは?」

 お母さん直伝の、おじさん何言っているのかわかんなーいって顔をした。


 ギルドと名前が付くところは国の管轄。似ている組織でも組合は民間。だから受付をしているこのギルド職員も国に雇われている人になる。

 そんな人が国家機密のギフトを聞いてくるのはおかしい。アイシアは迷宮があるだけあって、ある程度は公表する雰囲気だけれど、それでも聞くのはおかしいと思う。


「あぁ、まだなのか? 頑張れよ」


 私は幼く見えるので、まだ十二歳になっていないと思われたよう。実際は十四歳だし、身長も年相応なのだが。


 イラっとしたけれど顔には出さないでおく。きっと動きやすさを重視しておさげにしたせい。そうに違いない。絶対にそうである。

 千トルを支払って、受付を通り抜けた。子どもたちはあのおじさんを慕っている様なので、今は黙っておく。初迷宮。わくわくするぞ!


「行くぞ」

 テッドに促されて階段を下りる。


 初迷宮は真っ直ぐ一本道。二階に下りれるらしい場所が既に見えている。幅が三メルほどの一本道は石の床のままで、左右に雑草? と一緒に右にじゃがいも、左に玉ねぎが見える。

 しかも鶏の鶏冠が雑草の上からちらちら覗いている。さすが子ども迷宮。安心安全重視の親切設計。


「こんな感じなんだ。思っていたより広いわ。ねぇ、この草ってさ」

「雑草だよ。抜いてもすぐ生えてくるぞ」


 横幅が二十メルくらいで、奥行きはその倍くらいかな。関連ギフト持ちとして思うのは、飢饉対策にしては魔力と空間の無駄が多すぎませんか。

 雑草とかわざわざ魔力消費してまで創らなくてもいいでしょうが。飢饉対策に雑草を創ってどうするのさ。

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