第24話 店のおじさんたち

「来週も一緒に行くつもりなのか?」

 店主。


「はい。いい子たちばかりですし、来週は自分の分の食材も欲しいです」


「普段は住民以外からの買取はしないんだがな。ブレンダの紹介なら仕方ない。来週も来たらいいが、他で言うなよ」

 やはりお人好しだな。


「探索者になる為に来た訳ではないので、通常価格の買取で十分ですよ。おじさん、大分色を付けてるよね?」


 ちょっとびっくり顔のおじさん。商人の娘であることを伝えた。買取金額と売値を考えると、このおじさんは子どもたちにかなりサービスしている。


「商売敵かよ」

 拗ねた顔をしないで欲しい。


「おじさんと敵対するつもりはないですよ。むしろ地元の人と協力体制を作りたいです」

 ああん? みたいな感じだけれど、きちんと聞けば教えてくれた。


 おじさんはベテラン探索者グループと提携していて、迷宮から野菜や肉を持ち帰ってもらっている。

 迷宮ギルドは食材は買ってくれないので、ここでの商売のやり方はこのパターンが多いそう。


 商業組合が標準の買取価格を公表しているので、騙される人は少ない。

 おじさんが提携しているのは迷宮向きのギフトを持ってはいたが、他に拠点を移す程にはなれなかった人たち。お互いにいい関係を築いているそう。


 野菜は少し残して売り、一度売ったお肉を味見用に少し買い戻したいと言ったら呆れられた。ドロップ肉は塊のまま売るのがお作法だってブレンダに聞いたんだもん。

 それに味見してみたかったんだもんと言ったら、食べやすい部位をちょっとだけ分けてくれた。何かすみません。お金を受け取ってくれなかったので、代わりに明日完熟トマトを渡そう。


「ありがとうございます。明日、兄とまた来ます」


「明日? 何しに来るんだ? もうここでの商売の仕方は説明しただろ」


「いえ、ちょっと別の商売について相談をさせて頂きたく。商談です」


「ブレンダめ、変なのを連れて来たな」

 手で帰れとしっしとされたが、昼頃なら暇だと言われた。お人好しぃ。


 お昼は適当に屋台で買い食い。迷宮にどれくらいの時間がかかるかわからなかったので、用意していない。市場を商売目線ではなく、買い物客目線で見て歩く。

 パンを売っているのをやはり見かけない。私は料理はするけれど、料理が好きな訳ではない。座っていたら美味しい料理が出て来る方が圧倒的に好き。ブレンダの情報が正確過ぎて泣きそう。


 小麦粉はある程度持って来たが、あれで作るしかないのかな。乳製品は多く売っている。お兄ちゃんはまだだろうし、夕食の準備でもして宿で待っていよう。

 迷宮産のじゃがいもをレンジで柔らかくして裏ごし。バターに牛乳を少しずつ加えてピュレを作る。玉ねぎとにんにくも普通の品っぽいので、甘辛味にして豚肉と一緒に炒めようかな。切って用意だけしておく。


 クレソンはちょっとにしたので、そのまま生かじりで。間違いなく花が咲いた後のようなのでこれで十分。兎もそのまま焼けばいいし、後はパンをちょっと温めたらいいか。

 トイレに行こうと空間から廊下に出た瞬間、黒っぽいものが視界に入って左に衝撃が来て右にも衝撃が。えっ?


「すまん、大丈夫か?」


 声をかけられて気が付いた。私は今床に倒れている。何が起こった?

 声のした方をみたら、背が高く体格のいいお兄さんが申し訳なさそうに体を縮まらせて、手を差し出している。


「あのー、一体何が?」

 手を借りて起き上がりつつ聞く。お兄さんが気まずそうに教えてくれた。


「俺は隣に泊まっているんだが、出るタイミングが被って俺に当たって吹っ飛ばしちまった」


「あーなるほど。事故ですね。お気になさらず」

 衝撃で漏らさ無くて良かった。


「ごめんな。俺、体デカくて仕切りからはみ出しちゃうんだよ」


 仕切りの幅はお兄ちゃんくらいしかない上に、仕切り板の高さは十五セチ程度。

 お兄さんのガタイを考えれば確実に無理。私が後からぶつかったみたいなのに、凄く心配そうにしている。


「だいじょぶですよー」

 出る時にちゃんと私も確認しておけば良かった。トイレ行こう。


「ほ、本当に大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。こちらこそすみませんでした」

 トイレ。ほっとした顔をしつつ、まだこちらを見ている。何だ? トイレに行きたいのですが。


「ディーン!! デカいのがいつまでも廊下に立っていたら邪魔だろ!」

 受付のおじさんの声。


「あ、はい」

 ディーンと呼ばれたデッカいお兄さんはちっちゃくなりながら出口に向かって歩いて行く。

 トイレもそっちなので付いていく。


「あれ、どうしたの?」

 ディーンさんで見えなかったが入り口にお兄ちゃんがいた。


「トイレ」


「あ、そう。先に戻っておくね」

 そうしてくれ。お兄ちゃんにも謝りながらディーンさんが出て行った。


「悪いな。あいつ、いい奴なんだが今は自信を失くしていてな。実は……」


 受付のおじさんの話まで始まってしまったが、もうトイレに行ってもいいですか。行きます。話はお兄ちゃんが聞いてくれ。

 トイレに行くだけのつもりが長かった。出たらまだお兄ちゃんが受付のおじさんの話を聞いていたので、先に戻った。


 肉を炒めよう。

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