第25話 作戦会議

「押し付けて置いていくなんて酷い」

 お兄ちゃんが帰って来た。


「話が長そうだったし」

 お肉を焼きたかったし。


「うん。個人情報垂れ流しだった」

「アカンやつ!」


「いや、皆が知っている有名な話なんだって」

 ほんとかよ。キッチンで手を洗ったお兄ちゃんにクレソンを渡す。


「えっ、このまま? っ、このクレソンって……」

 言いながらも食べるお兄ちゃん。


「だよね? 初級迷宮産です。他の野菜は普通だと思う」

 クレソンは育ち過ぎ確定。他を温めなおしながらお兄ちゃんが聞いた話を聞く。


 ディーンさんは将来を有望視されていた探索者で、地元の子とこっちで知り合った二人とで四人組で迷宮に入っていた。

 順調に評判を上げていたが、こっちで知り合った子が地元の貴族の三男を押し付けられてから風向きが変わる。そいつの性格が最低最悪。


 庶民が考える出会いたくない貴族の見本市。実家の取引先の三男で、実家を思えば言いなりになるしかなく、罵倒されながら探索する日々。

 耐えるしかない日々に色々とストレスを抱え込み、体調を崩しがちに。一気に収入も評判も落ちてそれにキレた三男が自分への慰謝料だと言って、かなりの額を持ち逃げ。


 押し付けられた人が責任を感じて本格的に体調を崩して、今は休業状態っと。


「うわぁ、としか」

 実家が関係しているなら、泣き寝入り案件。うちの両親が賢明で良かった。


「だよね。迷宮はどうだった?」

「あっ、これ迷宮産の兎」

 焼いた兎肉のお皿をアピール。直ぐに食べるお兄ちゃん。私も。


「うっ、これはまた独特な」

「うーん。スパイスかハーブか……」

 野性味が溢れるというか、かなり食べ慣れない味。そうそう迷宮。


「皆いい子たちで楽しかったよ」

 迷宮に関する報告を先に聞きたがるので話した。


「安全な迷宮で良かったよ。それなら来週も行っていいよ」

 モンスターがいるのに安全っておかしくない?


「魔力提供で野菜を割引をするのはアリだったよ」

 次は商業組合に行っていたお兄ちゃんからの報告。


 迷宮産の付与石に魔力供給をする事で割引になる食事処が、既に何件かあるらしい。最初は迷宮ギルド主導で始まったけれど、客は探索で魔力を使っているので集まりはイマイチ。

 よって、ギルドもとっくの昔に放置状態になっている。一応あるよくらいなので、ややこしい絡みは無いと商業組合から太鼓判。


「おお。何とかなりそうだね。住民専用のお店を紹介してもらえたから、明日の昼過ぎからどう?」

「そっちの方が収穫が多そうだね」


「そう? お人好しの店主だったから最悪相談には乗ってくれると思う。明日の昼からね」

「わかった」

 その後も細かい情報交換をした。


 翌日、空間から出てまたディーンさんに吹っ飛ばされた。


「ごめん……」

 今日も彼は縮こまっている。


 折角の体格で縮こまっているのは、自信を失っているせいだと思う。だが何故こうも出会い頭の事故に遭うのか。

 しかも今回も私が後から出た。ディーンさんは悪くない。また手を差し出してくれるので、それに捕まって起き上がるとお兄ちゃんも出て来た。


「どうしたの?」

「この人が出た瞬間に私が後ろから突っ込みました」

 自首。昨日気を付けようと思ったのにまたやってしまった。


「妹がすみません……」

「いやいやいや、俺がデカいのが悪いんです」

 デカいのは悪くないと思うよ。


「いやいやいや、前方不注意な妹が悪いんです」

 その通り。


「気を付けます……」


 ディーンさんと一緒に宿を出る事になった。あちらは屋台がある広場に向かうよう。こっちは住宅街にあるお店を目指す。

 昨日も思ったが、住宅街に近付くほど木造の家が増えていく。ここは乾燥しているし、火事でも起こったらヤバそう。


「あれ、リーン? 昨日ぶりだな!」

 テッド発見。いや、こっちが発見されたのか。


「あっ、昨日リーンの発言に崩れ落ちてた人?」

 テッドがお兄ちゃんを指差した。


「テッド!」

 隣りにいた多分お母さんに、テッドが頭をはたかれた。


「昨日はありがとうね」

「いいよ」

 テッドはお兄ちゃんが気になるのか、チラチラ見ている。


「お兄ちゃん」

 紹介した。テッドが驚いた顔をした。何で? 似ているってよく言われるのに。


「母ちゃん」

 一拍遅れて紹介された。


 やっぱりテッドのお母さんだった。顔は違うけれど、醸し出す雰囲気が似ている。お母さんとお兄ちゃんで保護者同士みたいな話が始まったら、テッドに引かれた。コソコソ話? かな。


「家出したのに、何で兄ちゃんがいるんだよ」

「お兄ちゃんと一緒に家出をしたから?」


「訳わかんねぇ。知り合いを頼って家出してきたのかと思ってた!」

「色々あったのだよ」


 軽くだが乗り気な父親の説得が長引くと思った事や、相手の人と既に会っているので返事を延ばすと色々と問題が生じる可能性を話した。

 一番相手に迷惑をかけず、スピード感を意識したら、家出が一番かなという結論も。急がねば困るのはお父さんだけにしたい。一緒にお詫びに行くとか絶対に嫌。


 あの女に色々と言われたせいで、お兄ちゃんの地元での居心地がちょっと悪くなっていた事などは話さない。

 お母さんはそれもあってお兄ちゃんごと後押しをしたと思うんだよね。今頃きっと、あの女に報復を始めている気がする。

 貢がせていたのはこちらも気が付いていて放置していたのだからいい。だけど、別れた後がよくなかったよね。


 コソコソ話を続けて、昨日テッドとブレンダが直ぐに警戒を弱めたのが、私の後ろで崩れ落ちそうになっていたお兄ちゃんのお陰だと知った。


「あんな感じの人に見送られていたら、厄介な奴とは思えないだろ」

「後でお兄ちゃんに感謝しとくよ」


 保護者同士の話が落ち着いたので、来週も息子さんにお世話になりますとお母さんに挨拶をして別れた。

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