第65話 迷宮に行こう!

 朝からジョンさんと初級迷宮に来たが、来るまで驚きの連続だった。


 上等で中性的な服を着てねと言われていたが、今日の私はいいとこの少年になるらしい。

 私の空間を解除してディーンさんたちがローランさんの空間に入った後、お兄ちゃんと猫カフェに来た。


 私とお兄ちゃんは二人で三日間ほど極秘で維持隊に協力すると、ディーンさんたちに伝えてある。

 お兄ちゃんはこのまま猫カフェでお世話になるが、私はジョンさんによって変身したらしい。


 お兄ちゃんが驚きで固まっていた。相当な変身をしているようだが、鏡を見ていないのでわからない。

 まだ住民は捕縛が終わったとは知らないので、道中にも迷宮周囲にも人影は無く、見知らぬ青年? が一人迷宮前にいるだけだった。


「紹介するよ。一緒に迷宮へ行く私の部下だ。名前は何にする?」


 私の目の前で相手に偽名を聞くジョンさんの雑さが凄い。部下の人も多分驚いている。口元が隠されいるので目しか見えないが。


「えー、ティムで。今日はよろしくお願いします」


「リードです。こちらこそお願いします」


 丁寧に挨拶されたので丁寧に返し、早速初級迷宮へ入る。私は今少年なので、私も偽名だ。


「時間節約の為にも何でも思った事は言いなさい。それと、先程も言ったが鶏は気にしなくていい」


 聞いただけだが、ジョンさんの魔法で攻撃されても平気らしい。本当に平気か試すなら初級でだよね。

 ジョンさんのギフトが色々と怖い。幾つか授かってそうだし、魔法系があるのは間違い無い。


「私がメモしますので」


 ティムさんがメモ帳を取り出し、二人ともガンガン入っていく。

 既に見慣れた初級。左右にじゃがいもと玉ねぎに、チラチラ見える鶏冠。一番多いのは雑草。


「雑草は魔力の無駄です。それから子どもたちは通路沿いしか収穫しないので、これ程奥までじゃがいもや玉ねぎばかりいらないと思います」


「飢饉対策は米だけで?」


「いえ。その時だけ設定を変えてリポップを早くすればいいと思います」


 話しかけて来たティムさんが鶏に群がられて、脛を嘴でガッツンガッツンされているのが気になる。

 平気そうだけれど、絵面が痛そうで見ている方がムズムズする。


「子どもたちは荷物の関係で最初に三階まで下りるので、行きは卵を放置しています」


「ふむ。道に出て来るモンスターも魔力の無駄か。なら、奥に入る用に道を増やせばいいか?」


「魔力効率を考えるなら。奥まで誘導するなら、前半分がじゃがいも、玉ねぎ、卵で、後ろ半分は二階のクレソン、にんにく、兎の肉でいいんじゃないですか」


「ふむ。動線を考えねばな」

「ですね」

「道を横切る必要がなければいいんですよ。片側で揃えば、道の中央が下へ行く子、左右が帰る子用に自然となると思いますよ?」


「リードに頼んで良かったよ」

 ジョンさんに褒められた。


 店内の動線は重要なので、ちゃんと勉強している。お任せあれと思っていたら、気付かない間に私も鶏にガッツンガッツンされていた。

 見ないと気が付かないくらい何とも無かった。凄いぜ、ジョンさん!


「じゃあ次は二階だな」


 モンスターの細かい造形が不要なのは、既にジョンさんも知っているのでスルー。

 兎も緑は嫌だと言うので、デフォルメする方向で話がまとまっている。二階でクレソンを見て思い出す。


「クレソンは育ち過ぎです。花が咲く前の方が美味しいです」


「それも節約になるの?」


「なります。無駄に大きいみたいなイメージですね」


「なるほど」


 ティムさんがメモ。兎がピョーンと来て思わず手で叩き落としたが、手に衝撃もほぼ無くて不思議。

 思わず自分の手を見ていると、ジョンさんの腰にピョーンした兎は自らお肉になってしまった。


「二階は何がいいかな?」


「皆クレソンに飽きていたので、新しいお野菜に可能なら鶏肉とか? 飢饉対策とはいえ、兎肉ってマイナーですよね?」


「そうだな」


 そのまま話しながら三階へ。林檎の木に向かったら、三人が稲に取り囲まれた。稲がしなってボッコボコにされているが、やっぱり平気。


「この林檎の木は、背が高過ぎて上は収穫出来ません。それと品種的に、普通は砂糖で煮るなり加工する林檎では無いかと」


 ジョンさんが林檎をもいで、一口。直ぐにぺってした。


「食べられなくは無いが、酸味が」


 ティムさんもかじって顔を顰めた。


「砂糖もこの辺は高めです」


「林檎ならまず低く。甘い品種に変えるか二階で砂糖が採れるかか」


「飢饉対策なら、塩胡椒くらいも欲しいですよね……」


「その辺は後だな。中級へ行こう」


 初めての中級。作りは初級と似ていて、中央に広い通路。ただ左右にはとんでもなく草が生い茂っている。


「一階は転生者の野草と鴨肉ですね」


「雑草扱いになっているので、野草は全部いらないと思います」


「そうか」


 返事をするジョンさんが鴨に群がられていてシュール。身なりのいい紳士が鴨に……。


「鴨は富裕層は食べるから、少し持って帰るか」


 言いながらジョンさんが手を振っただけで、鴨が全部光に返った。ジョンさんが、ジョンさんが別次元。


「リードも鴨いる?」


「いえ。鴨とか調理した事ないです」


「そう?」


 ジョンさんの鴨肉回収を手伝って次の階へ。


「二階はハーブティー用のハーブと雉肉です」


「ハーブは自生も栽培もされていて、ティー用は乾燥なので国内どこでも安価に出回っています」


「ここは生だし乾燥からか。中級は一階も二階も金にならないな」


 本当にそれな。三階は料理用ハーブとカラス。そのままあれは微妙、これは欲しいと言いながら進む。

 料理用ハーブは補充したくて、少し収穫もさせてもらった。カラス肉は全員でスルーした。


「よく使う料理用のハーブは一階に残すか、初級でも良さそうですね」


 ティムさんの意見に賛成。さて。次の四階はスパイスと猪肉か。

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