第11話 偽商人

 お母さんと一緒に南隣の領地ウイーアに来た。ウイーアは今、領主主導の不正が発覚して大騒ぎの最中。

 関わっていた人が大勢捕縛された。その影響で、不正の温床となっていた物流その他が大混乱に陥っている。


 その大混乱に乗じて一部食料が行方不明になったりもして、懇意にしていた商人からお助け要請が来た。

 アクテノールは農作物に余裕があるし、とにかく量が欲しいとの事で私も荷運び要員として連れて来られた。


「困っている人には申し訳ないけれど、報酬は国から出るし、私たちにはウハウハの儲け話よねー」

 お母さんが楽しそうで何より。


 本当は治安の悪化を懸念して家族からはお父さんだけが行く予定だったけれど、悪化していなかったのでお母さんも来た。

 要所要所に騎士や治安維持隊の人がいて、物々しい雰囲気ではあったけれどスリさえ出来ない様な感じ。


 懇意にしている商人さんと手分けをして、食料を売ってまわった。それが落ち着いた頃。

 偽商人がお母さんに会いたがっていると聞き、断れずお母さんが懇意の商人と一緒に会うことになった。

 お礼の品として完熟トマトを用意したら、マンゴーの苗木が返って来た。


「何で……?」


「マンゴーが好きなんですって」

 説明になっていない。


 かなり離れた南の国から輸入しているマンゴーは、収穫後も熟していく。だから熟す前に収穫するので、栽培地の近隣で食べるよりも味が落ちる。

 つまりそういう事だった。わざわざお母さんに直接会うほどの情熱か。


「魔力量が普通では難しいって言ったのよ。そしたら、仕事で魔力を使うから大量には無理だけれど、自然回復分と休みの時に魔力提供してくれるって言うんだもの。お母さんの分の宝珠を渡しちゃった」


 ……。ミニ宝珠ちゃんは私以外には魔力を注ぐしか使い道が無いので、失くしても大丈夫と言ってはいた。

 だけれどまさか、私の知らんおっさんに渡してくるとは思わなかった。


「いやいや、そもそも商人設定で魔力を使う仕事って何」


「そこは気が付かないフリをしたに決まっているじゃない」


「ですよねー」


 今のウイーアのあれこれに、関係してそうですもんね。


「大丈夫よ。月に数回、お母さん経由でマンゴーを送ればいいだけだから」

 それはそれでプレッシャーです。


「有り難いけれど、ビックリだよ」


「夢が広がるでしょ」


「持っている本にマンゴー載ってたかなぁ?」

 取寄せするとかなりのお金がかかりそう。外れを引いたら悲惨だし、無難に専門書にすると高い。


「大丈夫。詳しい栽培方法がわからないと美味しいしマンゴーが出来ないって言ったら、本も後から送ってくれるって」


 お母さんに抜かりは無かった。ただそんなに詳しく話をしたら、取引先の息子じゃなくて身内だとバレバレなんじゃなかろうか。

 お母さんのにっこり笑顔が怖い。何故。凄い圧を感じる。


「お母さん、もうちょっとトマトを食べたいな? 他領で加工品の売上が好調だし、少し販売分も融通出来ないかしら?」


 あーはい。トマトの収穫頻度も上げろってことですね。分かりました。お母さんを敵にしてはいけない。

 絶対に。大量の魔力を供給してくれているし、お願いだからずっと味方でいて下さい。

 結果、この際だから私の好きなブルーベリー、お母さんの好きな枇杷びわにも挑戦した。


 枇杷は転生者ダンジョン特有のものを、根性でこの地に根付かせた人がいる。それだと解析不可の条件から外れるという抜け道。

 ダンジョンは気候や風土が無視出来るので、お手軽さが違う。


 家庭菜園というか家庭果樹園になっているが、まぁいい。普通の野菜や果物はいつでも食べられる。

 家に戻ってからトマトは家用と販売用で、少し多めに収穫できるように魔力を使うようになった。

 売り物にした分は買い取ってもらっているので、そのまま私の懐に入って来ている。じわじわと懐がほくほく。


 マンゴーは品質が良い物が出来るように、魔力を多めに注いでいる。たまに自分たちでも食べて幸せ一杯。

 本当に美味しい。偽商人改めマンゴーおじさんも喜んでくれているらしい。


 マンゴーおじさんは仕事であちこち行っているらしく、月に一度くらいの頻度で今いる場所を手紙で知らせて来る。

 間に入ってくれていた商人さんももう直接やり取りしてくれというので、お母さんから直接送るようになってしまった。


 金銭のやり取りは無いけれど、我が家初の貴族との取引になった。お兄ちゃんの直感でも何の問題も無かったのが決め手。

 ご隠居さんだし身分詐称されてはいるけれど、そこは商人だと私たちも誤魔化される事にした。


 お陰で魔力貯金が捗りキッチンとか創れるかもと、サリーと理想のキッチン談議で盛り上がった。

 設計図的なものを書き留めて、仕事で付いて行ったキッチンの工房で親方とも話が盛り上がった。


 予算無視で親方の知識や経験が加わった設計図は、最早完璧だと思う。

 特別料理が好きな訳でもないので、本当に空間にキッチンを創るかは微妙な罠。いや、きっと創る。我が家になるのだもの。

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