第12話 ご縁は無い方が*

 ギフトを授かって二年。


 自力のみならベッド二つ分が、八台分まで空間を拡大する事に成功した。これはなかなかじゃなかろうか。

 頑張ってくれたお母さんとマンゴーおじさんのお陰です。トマトはいい収入になっているし、マンゴーは定期的に送っている。


 けれど流石に拡張がハイペース過ぎるので、従業員にさえも秘密にすることになった。だからあまり商会の手伝いには使えていない。

 本末転倒な気がしないでもないが、家族とビリーさんだけには伝えているので、その組み合わせの時にはがっつりコキ使われている。


 今や大量にある魔力貯金は、いずれ使わせてもらおうと貯め込んだままにしている。無駄遣いダメ、絶対。日々慎重に計画を立てている。

 明らかに魔力をもらい過ぎな状況だから、いつマンゴーおじさんとの縁が切れてもおかしくない。


 でもひとまずダンジョンギフトの人は皆家庭菜園をやるべきでは? と思うくらい楽しい。魔力様々。

 いずれはキッチンに可能ならお風呂やトイレも設置して、秘密基地にしたい。夢が膨らむわぁ。


 夢の実現の為、お風呂とトイレの工房の商談にもついて行った。本気度が違うのでとても勉強になった。

 このままいけば、将来寝るだけの広さしかない家に住むことになっても問題ない。我が家はダンジョンだ!


 弟のギルが商才と運搬のギフトを授かった。運搬は物の持ち運びと、運ぶ際の安全に恩恵があるものらしい。

 聞いた時はムキムキマッチョになギルは見たくないなと思ったが、ムキムキマッチョにはならず、魔力消費で一時的に重いものでも運べる様になるだけらしい。良かった。


 商才は商売に関連する様々な事に恩恵がある汎用性の高いギフト。

 魔力量は小だったが、美男で商才のギフトは強い。人生の勝ち組が決定。我が家の将来安泰も決定。


「お祝いは何がいい?」

 嬉しそうなギルが可愛い。マッチョが確定しなくて良かった。


「お姉ちゃんの完熟マンゴーを、一人で二個食べたいな」


 おそらく狙ってもじもじしながら言っている。あざといが可愛い。敢えてわかっちゃいるが希望は叶えた。

 だがもう十二歳なので、そろそろその技は封印した方がいいと姉ちゃんは思うよ。


 性格や本人の希望も考慮して、商会長はお兄ちゃんで副会長がギルになる予定。私は……? え、雑用係? 何それギルに使い倒されそう。

 とは言え、我が家はとても明るい雰囲気に包まれた。子ども三人ともが実家に残るとかかなり珍しい。大抵は家族は散り散りになる。


 そんなある日。お父さんが急に私に縁談を持って来た。私にとっては急だったけれど、お父さんは私のギフトが判明した時から探していたらしい。

 言っておいて欲しい。私はそこそこ遠方に嫁に行く予定だったんですね。ここにずっといるつもりだったよ。

 お父さんが持って来たお相手は、領主御用達商会の跡継ぎだった。


「私に貴族に関われと?」

 貴族が厄介だと教えてきたのはお父さんとお母さんなのに?


「お前なら見初められないだろ」

 父に殺意が湧いたね!


 取引先で商談もよくある、それなりに長い付き合いの相手。私も商会長とは会った事がある。幼い頃に私と遊んでくれた、優しいおじさん。


 たまたまお互いに子どもの結婚の話になり、その場にいた跡継ぎがお父さんが持っていた子どもの頃の私の写真を見て、凄く気に入ってくれたとか。

 すっごく嘘くさくないですか。自分で言うのもなんだけれど、子どもの頃から惜しいと言われ続けて来た顔だ。


 そんな私の、しかも幼い頃の写真だけを見て気に入るとかありえる? 裏があるような気がしてならない。

 父親が良い人だからと言って、息子まで良い人とは限らない。こういう時はお兄ちゃんの直感に頼るべき。


 最近お兄ちゃんは、付き合っていた女性と別れて塞ぎ込んでいる。そういった話をしないので、お兄ちゃんは家族に知られていないと思っていそうだが、ギルだって知っている。

 うちは商家でアクテノールの領都はそこまで大きくはない。若い男女が行く店も限られている。目撃情報は集まるし、噂だってすぐに耳に入るのだ。


 お相手は最近ラーアに来た女性。職人は基本稼ぎがいいし将来安泰と思われていて、結婚相手としてそれなりに人気がある。

 彼らはよく食べるのでラーアには飲食店が多い。そこで働いて将来有望な職人に見初められるべく、一定数の女性が昔からラーアにやって来る。

 実際に成功例は多い。


 ラーアとアクテノールは近いし頻繁にやり取りがあるけれど、お洒落な飲食店や服や雑貨が欲しいならアクテノールの方が豊富。

 だからラーアに婚活に来ている女性たちは、休みの日にアクテノールに遊びに来ることが多い。


 お兄ちゃんはラーアでたまたま出会い、こちらで再会して話をして……って感じらしい。

 そんな詳細まで広まっている。領都の住民がほぼ顔見知りな、アクテノールならでは。田舎だよ。


 真面目で責任感の強いお兄ちゃんは結婚を前提に付き合っていたみたいだけれど、正直お兄ちゃんは趣味が悪いなと思っていた。

 お母さんも同じ意見だったが、何事も人生経験だからとそっとしておくように言われた。

 でも何かの弾みで結婚して、商会に勤め出したら嫌だなーと思うくらいには気が合いそうにない。


 お相手は真剣交際を匂わせつつも潔癖なまでに清い関係を望み、会う時の馬車代や食事代はもちろん、他にもお兄ちゃんに色々と買わせていた。

 故郷からラーアに来るのにお金を使い果たして貯金があまり……とか言っているらしい。


 元々月に二、三回はアクテノールに集団で遊びに来て、沢山買い物していたのは知っているぞ。

 しかもこの女、良いカモが見つかったと友人たちとアクテノールのカフェで話していたのだ。そのことをお母さんに話したことがある。


「お母さんもその話聞いたわー。大声で話していたみたいね。まっ、アルくんはちょっと人間関係をギフトに頼り過ぎだし、被害額も大した事がないからもう少し見守るだけにしなさい」とのことだった。


 ここまで全部結構な人数に知られていると思うのだが、それってかなり恥ずかしくない?

 そう思ってさり気なーくお兄ちゃんに伝えてみたが、特に変化はなく。はっきり言うと拗れそうだしなーと手をこまねいていた。


 それでようやく貢がされているだけだと気が付いたお兄ちゃんは、以外にも彼女をばっさり切った。

 好きなんじゃなかったの? っていうくらいばっさりで、切られた方が相当驚いていたとか。


 その腹いせなのか何なのか、彼女は類友たちにお兄ちゃんを散々ディスり、飽きたから捨てた、貢がせたいならお勧めとまで言っていた。

 それをアクテノールで言っている時点で、アクテノールをわかってないよね。お兄ちゃんはおばさまたちに好かれているので、ねぇ?


 おばさまたちがああん? となっているなか、まさかの類友がお兄ちゃんを狙って寄って来た。

 おばさまたちがお兄ちゃんを守ろうと動きだし、お兄ちゃんは真実を根こそぎ知った。私もついでに知った。


 そんなこんなでお兄ちゃんは今、女性不信に陥っている。あんな女に引っかかるお兄ちゃんもお兄ちゃんだと思うが、そういう訳で塞ぎ込んでいる。

 だが、私の将来がかかっているので無理やり連れて来よう。

 本人に直接会えなくても、写真ならある程度直感が働く。前情報無しでお相手の写真をお兄ちゃんに見せた。


 写真は模倣ギフトで撮るのだが、ギフトだからか相手の性質まで写し撮るそう。模倣は見たままを紙にそのまま再現出来る、魔法系特殊能力。

 資料や本の複製も彼らの収入源で、こちらはコピーと言われている。私も図書館でよくお世話になっている。便利なんだよねー。


「どう?」

「これは駄目、かな。やめておいた方がいいと思う」


 写真でも駄目だとわかるくらいには駄目らしい。大きな話になる前に適当に断って欲しい。


*****本とは関係ないリーンのこぼれ話*****


 あの女、最初は王都に出て行ったがそちらで全く相手にされず、ラーアに来たらしい。

 フィナラッドは山脈挟んで別の国みたいな雰囲気だから、完全に事前調査不足だよね。

 で、王都では田舎娘だってことで、いいカモにされたらしい。自分がされて嫌だったことを、人にしちゃ駄目だよねぇ。

 でもこの話って、プライドが高そうな本人が自ら話したとは思えない。おばさまたちの情報網が謎過ぎる……。

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