第13話 家出しよう!

「写真を見ただけで断るなんて、相手に失礼だろう」


 お父さんはお兄ちゃんの直感を聞いても納得しなかった。お兄ちゃんの直感は先入観に邪魔される部分があるので、それを疑われた。


「知らなかったけれど、良い人がいたみたいでって言えばいいじゃない」

「嘘は駄目だ! 商売は信頼関係が一番だ。何が何でも一度は会ってもらうぞ!」

 親の暴走で終わらせるより、会って断る方が失礼な気がするのだが。


 私がゴネ続けて、最終的にお兄ちゃんも一緒に会うことになった。

 お相手はヘンリーさん。跡継ぎらしく物腰柔らかで話上手。ただ、私の直感がこいつは嫌だと訴えてきている。


 ギフトはないけれど、初対面で感じる事って私は重要だと思うのです。自前の直感。

 お父さんは私たちの会話がそれなりに弾んでいてご機嫌。私も商人の娘なので、取引先に愛想良くするくらいは出来るさ。


 お兄ちゃんは挨拶をしがてらお父さんには内緒でサクッと鑑定をして、商談があるとこの場を既に去っている。

 鑑定持ちはやましい事が無くても警戒されがちなので、普段から隠していて彼らは知らない。


 お見合いが終わって合流後、鑑定で犯罪歴などは見つからなかったが直感ではやはり微妙との結果。

 帰りの馬車で、私ははっきりお父さんに嫌だと伝えた。それでも話を進めようとするお父さんと口論になった。


「お前の容姿を気に入ってくれる男がこの国に何人もいると思うなよ」

 娘に対してこれは酷い。お父さん似だからブーメランだけどな!


「生理的に受け付けないタイプだって言ってるでしょうが!」


「贅沢を言うな! これを逃せば貰い手がいないかもしれないんだぞ!」

「生理的に受け付けない人と結婚するくらいなら、結婚出来なくて結構!」


「……うるさいっ」


 延々と続く口論にお兄ちゃんがブチぎれ寸前。お兄ちゃんは滅多に怒らないが、ためにため込んでから怒るタイプなので非常に厄介。

 一旦私とお父さんは黙ったが、家に帰ってからも口論は続いた。


 お父さんはヘンリーさんを気に入ってしまったが、私はとにかく生理的に受け付けないタイプで気持ち悪い。好きとか嫌いとか以前の問題。

 私がまだ結婚したくないからお兄ちゃんの直感に便乗して、適当な理由で断っていると思われている感じ。


 お父さんは商会を成功させた自分に自信がある。自信があるせいで自分の考えが当たっていると思っている。

 違うから! 疲れてきた。こういう時はお母さんに。


「お母さん、私家出しようかと思う」

「ヘンリーくん? だっけ?」


「そう。家出すれば本気で嫌だって、お父さんもわかるでしょ?」

「効果的だとは思うけれど、家出中の収入はどうするの? 会長の娘として働くのと、外は全く違うわよ」


 家出自体は反対ではないらしい。流石放任主義のお母さん。


「そこなんだよね。商会関係を避けたら全部未経験って言うのがね。魔力貯金が結構あるからしばらくは自力でやっていけるとは思うけれど、長期になるとなぁ……」


「そうねぇ。商会関係はお母さんも止めておいた方がいいと思う。拗ねているだけだと思われる可能性もあるし、相手も気を遣うでしょうから」

「だよねぇ」


「しばらくじっくり考えてみなさい。ギフトを活かして野菜や果物を売るなら、迷宮の都がいいかもね」

「迷宮の都って、アイシア?」


 アクテノールから結構離れている。娘の家出先として母親が勧めるには遠い気もするが、どうしてだろう。


「そう。あそこなら類似ギフト持ちの人がたくさんいるから目立たないし、うちが直接取引している商人もいないわよ」

「なるほどー。その方向でちょっと調べてみる」


「迷宮内での荷運びは危ないからしちゃ駄目よ」


 流石にそれは選択肢に無いけれど、本当に困ったらしてしまうかもしれない。お母さんの目が怖い。思考が読まれている。多分しませんよ……。

 アイシアについて調べてみた。迷宮がレベル別に三つあり、探索者や戦い向きのギフト持ちの人が国内外から集まるので、宿屋や店も多くある。


 家出の話をお母さんから聞いたお兄ちゃんが、本気で私の味方をしてくれた。お母さんとギルは元々私の味方。

 家族全員が反対しているのに、折れないお父さんにうんざりする。


 お兄ちゃんは普段は大人しく攻撃性をあまり感じないが、キレると言葉の刃が致死性の威力になる。

 結果、お父さんがお兄ちゃんの言葉にキレて、しばらく頭を冷やせ、出ていけと言われたそう。


 普段のお父さんとお兄ちゃんは性格が似ていないと感じるが、キレた時はそっくりだなと思う。

 出ていけって単に部屋からだと思うのに、なのに。


「リー、一緒に家を出ようか」

 凄い笑顔で言われた。こういうお兄ちゃんを止められるのはお母さんだけだ。


「おかあさーん!」

 お助け!


「リーンの家出にアルが付き添ってくれるなら安心ね。リーンはもうアイシアの事は調べた?」

 推奨派だった。止めるかと思っていた。いいんですか。


「うん。行き方も町の雰囲気とかもあらかたは」


「じゃあ、三日後ね。アイシア方面に帰る商隊があったから、それに乗せてもらって家出しちゃいなさい」

 私が言うことでは無いけれど、本当にいいんですか。

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