第14話 家出します!
「まさか兄妹揃って家出の準備をすることになるとは思わなかったわー」
リーの言う通りだ。
父さんがリーが嫌がる男と婚約させようとしたり、僕の直感を信じない姿にイラっとし過ぎた。
イラっとし過ぎて叩き潰しにいってしまった。母さんには以前から指摘されていたが、悪い癖が出てしまった。
一人で家出させるのも心配だし、出ていけを拡大解釈することにした。
そもそも父親を説得するのに家出を選ぶリーの発想が僕にはわからない。
何だかんだ言っていても、父さんは無理強いはしない、はず。きっと。
時間はかかるかもしれないが、きちんと話し合えば解決することを何故家出、と聞いた時は脱力した。
雑談をしながらも作業の手は止めない。今は家出用の荷物を空間に入れている。リーのギフトは便利。
入り口正面は荷運び用のスペースで、左手の壁に沿って開放的過ぎるキッチンがある。
キッチンは空間を広げて新たに創ったと言っていた。排水が気になるが、ダンジョンが吸収するとか。
「ダンジョンの中には川が流れていたり海があったりもするらしいし、深く考えたら駄目なやつだよ」
「そうよ、アルは真面目よね。あー、筋肉痛になりそう」
荷物の運び込みを手伝ってくれている母さん。こんな家出でいいのか。
コンロなどはリーとお金を出し合って、店の商品で揃えた。貯金がかなりとんだが仕方が無い。
父さんは意地っ張りだからそこそこ長期の家出になると思うが、母さんが味方だから安心して家出できる。
ダイニングテーブルは、ギルが産まれる前に使っていたものを倉庫から引っ張り出してきた。
畑を見ながら食事が出来る。畑かキッチン以外は何も見えない食卓。すぐに慣れるとは思うが、開放的過ぎる。
リーが閉塞感があると、畑周辺の壁を地平線に見える様にしてしまった。普通のキッチンがあるのに、振り返ったら野外の気分になる。
キッチンの横にはトイレとお風呂予定の空間を空けて壁があって、壁の向こうはリーの部屋。部屋には横の壁はあるが、正面に壁は無い。
こっちも開放的過ぎるだろ。舞台のセットみたいな部屋だ。家具の搬入などを考えて、正面に壁を創る気はないと聞いた。
今回は正面にハンガーラックとクローゼットを利用してカーテンをかけ、目隠しにしている。
貯めている魔力を無駄遣いしなくて済むように、空間内に間に合わせの壁などは配置しない。僕の部屋は書斎にする予定のところになる。
リーの部屋は先に作業した。家具などのレイアウトは、事前にリーが僕の分まで考えてくれていた。
リーはレイアウトを考えたり陳列するのが上手い。さくさくと無駄なく作業出来るように指示も的確だ。
家の僕の部屋には明日の着替えとベッドだけ残す。ベッドは家出当日の朝に搬入する。
ぐるりと空間を見渡して、最終確認をする。……完全に来客を考えていない一人暮らし設定が気になるな。
お兄ちゃんは妹の将来設計が普通ではないようで、心配です。
明日は知り合いの商隊に便乗させてもらう。これは母さんが事前に頼みに行ってくれた。
乗合馬車よりも商隊に便乗の方が慣れ親しんでいるので、長距離移動でも気が楽だ。
翌朝。早朝に起きてベッドを搬入した。母さんが見送りと手伝いに起きてくれていた。
「忘れ物はない? リーンをお願いね」
「わかってる。アイシアに着いたら手紙を出すよ」
「お兄ちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ」
「うん。色々有難う。いってきます」
母さんが僕たち用に貯金してくれていた銀行の割符に、商隊に渡すお礼の品も用意してくれていた。
これが本当に家出と言えるのか少々疑問に思いつつ、商隊に合流する。
「やぁ、まだ若いのに兄妹二人で修行だって?」
そういう話になっているのか。
「ええ。しばらくよろしくお願いします」
「君らは慣れているし、問題ないさ。少しリーンちゃんの空間に荷物をいいかな」
僕らが乗る分をリーの空間に荷物を入れて確保するのだが、商隊長のグレンさん自らが荷物の搬入を手伝ってくれることになった。
事前に母に言われていたらしい。リーの空間を見て驚いていた。
「こりゃ、快適そうだな。リーンちゃん、どんだけ頑張ったのさ」
ベテラン商人から見ても相当に珍しい状態らしい。母さんがグレンさんだけにと言っていたもこの為だ。
「わかります!? かなり頑張ったんですよ!」
当の本人は褒められたと思っているようで、危機感が足りないと思う。
「ここで移動出来たら最高だよなぁ」
「中に人がいても動けたら良かったんですけどね」
残念そうにリーが言う。
空間に人を入れたまま、空間と共にリーが移動しようとすると莫大な量の魔力が必要で、魔力が無くなり次第空間が消滅してしまうらしい。
「いやいや、物騒な事に使われちまうから、これくらいが丁度いいんだよ」
確かに、戦争で兵士を大量に持ち運ぶとかを考えると、これくらいの不便さが丁度いいのだと思う。
「偏ってはいるけれど、旅の間のトマトと枇杷とブルーベリーは任せて下さいね!」
マンゴーは移動前にあの偽商人に送ったので、今はリポップ待ちで実っていない。
「ははっ、新鮮なフルーツを楽しみにしているよ。ただ、リーンちゃん。この中は人に知られない方がいいぞ」
「はい。母もグレンさん以外は入れるなと言っていました」
わかってはいたのか。良かった。
「ははっ、夫人の信頼が重いよ。うっかり話しちまったら、恐ろしい報復をされそうだ……」
……母さんのイメージって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます