第15話 旅 1

 旅慣れた人ばかりの商隊は順調に進んだ。ゴーレム車は早くて快適。ゴーレム車も転生者が作った。

 ゴーレムは骨組みだけの四足歩行。材料は今は転生者ダンジョンのモンスターがドロップする骨だ。


 従来の馬車よりスピードが出せるので、引く箱も安全面や衝撃を吸収するアレコレを考慮した結果、お高い。

 材料がほぼダンジョン産で、作るのに様々なギフト持ちが関わっている。なおさらお高い理由。


 ゴーレムの動力に付与石も必要で、庶民で利用する機会があるのは、遠方への移動くらい。

 我が家でもゴーレム車を一台所有していて、二台目が必要な場合はレンタルする。レンタル代もお高い。


 お金持ちは芸術系のギフト所持者に頼んで、ゴーレムを馬っぽくするのがステータスだとか。

 お金がかかるので、商人がわざわざすることは無い。性能が同じならそんな見た目は不要なのです。


 一応御者役はいるが、ゴーレムには音声認識機能と経路記憶機能があるので、のんびり座っている程度。

 障害物があった時は自動で避けてくれるし、予定変更時は声をかけるだけで問題ない。


 という訳で、御者も乗っている人もあまりやる事が無い。景色を見るのも直ぐに飽きる。

 そんな時間の慰めに、手も汚れず食べやすいブルーベリーが好評だった。


「さすがアクテノールのブルーベリーだな。甘味があって美味しい!」


「ありがとうございます。まだありますので、声を掛けて下さいね」

 私の空間産ブルーベリーだけどね。


 収穫は大変だけれど、グレンさんに渡したミニ宝珠ちゃんに皆が魔力をくれてたので、旅の間は食べ放題で。


 アクテノールから山脈沿いに北上し、途中の町で一度宿泊をして山脈の先にあるウェルシ領に到着した。

 この一帯はフィナラッドで北部地方とひとまとめにされる場所。大地が乾いていて豊かとは言い難い地域。


 ウェルシは今回の商隊長グレンさんの本拠地。隣にアイシアがあるので、その恩恵に与っている領地。

 アイシアに近付くほど治安があまりよろしくないので、グレンさんが知り合いの宿を紹介してくれた。


「もうすぐ日が暮れるから、今日はもう外に出るなよ」

「もちろんです」


 すかさずお兄ちゃんが答える。グレンさんは移動中にアイシアについても教えてくれていた。


 アイシアには国唯一の迷宮がある。迷宮ギルドを運営しているのは一応アイシアの領主だが、国から多くの資金が流入している。

 だから現場以外の職員はほぼ貴族の関係者で高給取り。彼らは昼過ぎから動き出して、ウェルシの歓楽街にやって来る。


 グレンさんはその歓楽街にラーアの商品やアクテノールの加工食品を売って主にお金を稼いでいるが、歓楽街ではその人たち関係のトラブルが多い。

 歓楽街に関わりの無い住民は近付かないし、彼らとかち合わないように時間をずらすのが賢いやり方。


 けれどアイシア行きの馬車は、彼らの要望で歓楽街に停留所がある。乗合馬車は基本彼らが使う道は避けるので時間がかかる。

 だから早朝出発が正解。日が暮れる前には迷宮に着く。グレンさんに言われてチケットも購入済み。


「グレンさん、色々とありがとうございました」

「あぁ、何か旨い話や相談事があったら、手紙でもくれ。相談だけならタダだ。不定期だが月に一度程度はアイシアで商売もしているからな」


 商人らしいかなとは思うけれど、グレンさんは普通に優しいのだと思う。沢山魔力を集めてくれたし。

 グレンさんと家族用に密かにマンゴーを押し付けて別れた。完熟マンゴーの美味しさを知るといいよ!


 後日、グレンさんからあのマンゴーの販売先を知りたいと手紙が来た。

 家族全員がとても気に入ってくれたそう。一個五千トルで事前に言ってくれれば用意は出来ると返事をした。


 欲しくなったら手紙を書くと力の無い返事が来た。一般の商人の稼ぎで家族四人分はとてもキツイ価格。

 元々輸入品でお高めなのだが、完熟しているマンゴーが国内で出回る量は少ない。ぼったくりじゃないよ。


 居心地の良い庶民的な宿で一泊し、早朝に無事乗合馬車に乗った。同乗者もなし。出歩く人はほぼおらず、とても静かな出発だった。

 ウェルシからアイシアへ行くには丘を越える。アクテノールと違い、まばらに草木が生えているだけ。


 アイシアの高給取りはゴーレム車の馬力? で最短距離を来るそうだが、私たちはのんびりくねくね道を行く。

 御者さんと話しながら進む。アイシアは乾燥していて、夏も涼しいが冬はかなり冷えるそう。

 雪はあまり降らないから、年中乗合馬車は運行している。御者のおじさんが指をさして教えてくれた。


「あの高台が高級住宅街だ。迂回するけどね。あそこには近寄るなよ。最近は本当に碌な話を聞かない」

「ふーん」


 高級住宅街は石造りの三階から五階建てくらいが、びっしり並んで建っている。山の高台なのに立派。

 あの高級住宅街から見て下の平地に、私たちの目的地のアイシアの迷宮がある。


 私たちは迂回するので、高級住宅街を左に見ながら平地を目指す。丘を越えても荒涼とした感じ。

 平地が少なく農業には向いていないと本に書いてあったが、寒々しい感じの景色だなと思った。


「家を継げない上に引き取り先がない貴族の子息たちが、親に金を積んでもらってギルドに籍を置くんだよ。仕事をしなくても給料は出る」

「国の資金からですか?」


「そうだよ。アイシアは探索者で儲けて懐は痛まない。ウェルシは歓楽街でお金を落としてもらい、あっち側の領地は王都の品を売って稼いでいる」

「トラブルが増えても、排除は難しい関係なんですね」


「ああ。ズブズブだよ。貴族はさ、貴族らしいギフトを授からないと貴族社会から爪弾きにされちまう。金を出す親はまだ子に愛情がある類いさ」

「それを本人たちがわかってないんですかね?」


「感覚が実家にいた時のまんまなんだろ。領主でもなけりゃ直接雇われている訳でもない。その辺をわかっていない奴が多い」

「接触は避けたいですね」


「それが一番だ。職員の癖に滅多に迷宮付近には来ないが、気を付けろよ」

「肝に銘じておきます」


 お兄ちゃんが情報収集に熱心だ。

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