第16話 旅 2

 日が暮れる前に無事アイシアに到着した。近隣に川なども無いと言うし、乾燥もしているのか少々埃っぽく感じる。所々にある木々も弱々しい。


「じゃあな。ウェルシに行く時はまた頼むぜ」

 私たちは御者さんにとっていいお客さんだったよう。お別れをして、グレンさんが教えてくれた宿へ向かう。


 町そのものは入り口から整備されていて、さすが迷宮の都といった感じ。

 大通りに立ち並ぶ建物は、高台の高級住宅街にも負けない雰囲気。ほとんどが二階か三階建て。

 緑は少ないというか無い。整備され過ぎて、石か踏み固められた土の道しかない感じ。今まで各地に行かせてもらっていたが、かなり雰囲気が違う。


「ここは田舎じゃないんだねぇ」

「王都からは離れているから、一般的に言ったら田舎でしょ。ただ、国内外から人が集まるからだろうね」

 お兄ちゃんに情緒が無い。


「あっち」

 地図を見ながら言う。


 グレンさんが教えてくれた宿は、迷宮系ギフト持ち御用達のところ。同じギフト持ちが集まるアイシアならではで、金額も安い。

 大勢が泊まっていても、全員が空間内で過ごすので出入りの時以外は人がいないらしい。面白そうだとわくわくしながら向かう。


 宿は大通りからは少し離れた三階建て。一階が雑貨屋さんで、二階がお勧めされた宿、三階は普通の宿らしい。

 宿は受付の横に共同のトイレがある以外は廊下だった。その廊下の左右の壁に仕切りがあって、仕切りの中に番号がふってあった。

 お兄ちゃんが取り敢えず三日分の支払いをした。直感でも問題は無い様子。いい宿を紹介してもらったよう。


「右にある十五番の仕切りの中で空間を開いてくれ。食事は無し、風呂は近所に共同浴場があるから、入りたければそちらへ行ってくれ」


「わかりました」


「空間を仮固定したい時は番号の下に付いている魔道具を作動させてくれ。追加料金は無い」

 私がトイレに行く度に、お兄ちゃんを空間から出さなくて済むみたい。


「ギフト持ちが帰ってくるまでの待機室は廊下の突き当たり。揉め事は無しだ。問答無用で治隊を呼ぶからな」


 治隊は治安維持隊の略称か。アクテノールでは維持隊と言っていた。彼らは国や領主が雇っている、そのまま領地の治安維持に努める人たちの組織。

 攻撃向きのギフト持ちが集まるアイシアなら、かなり能力の高い人たちが集まっているだろう。


「治安は悪くはないが、何処にでも悪い奴はいる。嬢ちゃんは特に気を付けろよ」

「ありがとー」


 今日の宿が確定したので、情報収集がてら夕食を食べに行くことにした。

 宿のおじさんに聞いたら、店舗を構えた食事処はお高め、大通り沿いには屋台が沢山出ていると言われた。


 アイシアでは味がイマイチだったりコスパの悪い飲食店や屋台は、自然淘汰されてなくなるそう。

 基本外れは無いと聞いて安心した。節約の為と話しかけやすさから、屋台で少し店主と話をしてみた。

 主にお兄ちゃんが。私はそれをふんふん横で聞くだけ。お兄ちゃんはこういうの上手なんだよね。


 夕方にかけて探索者が迷宮から出て来るので、夜は毎日この賑わい。確かに大通りが明るくて人通りが多い。

 この時間帯でも子どもが一人で出歩けるくらい治安に問題はないが、人の少ない場所は注意すべきと聞いた。


 確かに女性も子どもも多く出歩いていて、毎日お祭り気分が味わえそう。アクテノールでは夜は家族と家で過ごすのが普通で、あまり外出しない。

 無難そうな、だけれどいい匂いのするご飯いりのスープを買った。お兄ちゃんはそれに追加して串焼き肉を買っていた。


「美味しいね」

 結構こってり系だけれど、たまに食べる分には美味しいと思う。


「そうだね。手軽に立ちながらでも食べられる料理が人気なんだって」


 大通りに屋台は出ているが、確かに椅子やテーブルはほぼ無かった。

 お兄ちゃんが串焼き肉を食べながら首を傾げている。私もスープに入っているお肉が何のお肉かわからない。


「食材はほぼ迷宮産って聞いたけれど、これは何の肉だろう? 安いから鶏肉かと思ったのに」

「スープのもわかんない。謎肉」


「明日、リーはどうする?」

「お兄ちゃんと一緒に行く」


「じゃあ、明日はゆっくり寝て、昼くらいから行動しようか」

「わかったー」


 食材も一週間分以上の物が、冷蔵庫と冷凍庫に入っている。急ぐ必要はないが、余裕がある訳でもない。




 翌朝、何だかんだで疲れていたのか二人共昼に起きた。お兄ちゃんは料理が苦手なので、昼ご飯は簡単にだけれど私が作った。

 皮はパリッと、中はじゅーすぃーな鶏肉のソテーにラタトゥイユを。スライスしたバゲットをちょっとオーブンで焼いてカリっとさせた。


「美味しかったです」

「うむ」

 お兄ちゃんは律儀に必ずお礼を言って、完食してくれる。


「じゃあ、行こうか」

「うん」


 今日は野菜と果物に需要があるかの市場調査と町の情報収集。需要がなければ空間は完全な家庭菜園になる。

 需要があるなら魔力の確保が必要になるが、お兄ちゃんの案がいい感じだと思うので実行可能かも調べる。


 無理な場合は勤め先を探さないといけない。二人共何処かの商人に雇ってもらうのが一番無難。

 ちゃんとした人に雇ってもらいたいのでそれも情報収集したい。最終判断はお兄ちゃんの直感で。

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