第43話 新しい取引

 この人は商人で上級に入れる探索者と契約を結び、定期的に探索者から商品の仕入れをしている。

 探索者側にしても、この人に契約を持ちかけられるのは一種のステータスと言われるほど、優秀な探索者を見極めるのがお上手らしい。


 実際に声をかけられた人のほとんどが、数年で他に拠点を移している。

 仕入れた商品を高台の関係者にも売っているので、探索者側の収入もいいそう。


 予約販売で、探索の状況によっては仕入れできない場合もあると事前に説明して顧客と契約している。

 そんな顧客に、契約を理解出来ていない主を持つ料理人がいるらしい。しかも今日だけは譲れないとか訳のわからんことを宣っている。


 今この商人が契約している探索者たちは、全員迷宮探索中で連絡が取れない。店に在庫も残っていない。

 それなのに来客があるから沢山肉を用意しろと言われて、料理人は困っている。


 ソーセージとベーコンはあるが、ステーキとかも色々用意しろと言われているらしい。

 しかも来客は一人。必要以上に用意するのは見栄の為で、その客に主人はどうしても見栄をはりたいらしい。


 大量に用意してもちょっとずつでも食べればいい方で、後は残飯扱いらしい。使用人がおこぼれには与れるが、馬鹿らしい限り。

 急に言われたから隣の領に買い出しに行く時間の余裕も無くて、かなり焦っているそう。


 やっぱり貴族関係との取引はトラブルだらけだね! 料理人は庶民で、商人の昔からの友人で。

 高台関係者とトラブルが起きないよう、いつも情報を流してくれるいい人らしい。泣きつかれて何とかしてやりたいとか。


「金は可能な範囲にはなるが、可能な限りそいつの主人から搾り取る。相場の三倍は確実に。五倍を吹っ掛けるつもりだ」

 ふむ。正直に話すところには好感が持てるし、お人好しのダレルさんも頼むよって顔をしている。


「何とかならないか? こいつからの情報で、住民は平和に暮らせているんだ。高台と揉めた時は仲裁にも入ってくれるいい奴なんだよ」


「ダレルさんにも貸し一つだからね。量は無理ですし品質も庶民向けの普通のものですが、鶏、豚、牛、全て可能ですよ。何時頃までに必要ですか」

 自分から話を持ちかけたのに、ダレルさんがびっくりしている。


「あいつは腕のいい料理人だから、肉さえあれば何とかするさ。仕込みの関係で十六時までに手に入れば助かるんだが、何とかなるか!?」

 おっと、商人さんは興奮気味。


「大丈夫だと思います」

 槍を買って、その後プスプスすれば十分に間に合うはず。牛が一番強いって宝珠さんが言ってた。


「恩に着るよ!」

 最近このパターン多い? 金銭云々の交渉は商人次第だけれど、今回はいいか。


「我儘な金持ちに売るんだから、割引なんていらねぇぜ! これは気持ちだ!」

 ダレルさんが魔力の話もしたら、商人が快く魔力を提供してくれた。


 で、武器屋にお兄ちゃんと槍を買いに行って、空間に戻ってプスプス。槍だと早いがそれなりに突いた。

 ダレルさんのお店へ納品に行く。私たちの存在は、高台の関係者には内緒にするのを卸す条件にした。


「早かったな」

 ダレルさん。


「タイミングが良かっただけです」


「状態もいい。助かったよ」


 突きたてですからね。高台の主人との交渉がもう終わったのか、たんまりお支払いを頂いた。

 気になっていたのでもし私が肉を持っていなかったら、どうなっていたのか聞いてみた。


「直接雇用の料理人は良くて首だな」

 我儘を言ってそれは酷い。


「だから、高台の連中に関わりがある奴らは、庶民同士横の繋がりが強いんだよ。助け合っているが、たまにこういう事がある」


 嫌な世界。ダレルさんもそういうのが嫌で住民専用と言うか、庶民専用の店にしているそう。

 気持ちはとっても良くわかる。いくら稼ぎが良くてもね。


「じゃ、昼ごはん作らなきゃなので」


「待て待て待てぃ!」

 どうしたダレルさん。そんな口調だったっけ。


「あのちっさい珠、もう一つ用意出来ないか?」


「何で?」


「リーンちゃんにお礼がしたいって、あの商人が言っててな」

 要はあの人も魔力を集めてくれるらしいのだが。


「うーん、でも、高台の人に目を付けられたくないから、危険な事はしたくないかな」

 トラブル回避の方が重要。


「大丈夫だ。あいつのとこも庶民専用で、俺と違って高台で働く庶民限定で取引があるだけだ」

 それはでも、間接的に貴族と取引があることになるよねぇ。


「情報が漏れたりしない?」


「あいつは信用出来るし、人を見る目もある。それに、また似た様な事があった時に頼みたいという打算付きだ」


 ダレルさんが言うには、私たちに逃げられない為にも細心の注意を払うはずだと。


「うーん。お兄ちゃんに相談してから返事をしてもいいですか?」


「勿論だ。リーンちゃんたちに得はあっても損は無いと伝えてくれ。俺も稼がせてもらっているからな!」


「はーい」


 お肉を全て提供する形になったので、帰ったら羊をプスプスしなきゃ。

 メニューはどうしよう、お兄ちゃんが好きなラムチョップでいいかなぁ。


 ダレルさんのお使いと言う子が宿に訪ねてきて、ソーセージをもらった。あの商人からのお礼。お金も結構もらったんだけどな。 

 いいソーセージなので、夕飯はソーセージと蕪や人参を入れたポトフにしよう。ポトフ大好き。


 まずは昼ごはんのラムチョップ。お昼を食べながら魔力提供について相談する。

 お兄ちゃんも私と同じ様に難色を示したが、ジョンさんに後押しされた。


「厄介な高台の奴らも、今回の調査で纏めて追い払う予定だから乗っておきなさい。それまでの間のトラブルは、私がいる間は気にしなくていい」


 さすが維持隊の重鎮。説得力と安心感が違うわ。食後にダレルさんにミニ宝珠ちゃんを渡しに行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る