第44話 婚約円満回避

 あの一件以来、ダレルさんも私たちに恩を感じているようで、積極的に魔力を集めてくれるようになった。

 あの時助けた商人さんやその関係者からも、割引とか関係なく魔力が提供されるようになった。

 

 お母さんからも相変わらず提供があるし、かなりいい感じ。お父さんからは家出以来提供が止まっているが。

 それでも野菜の種類やリポップの頻度を増やせそう。それから時々ではあるが、ダレルさんからお助け要請が来るようにもなった。


 お助け要請は基本お肉なのでサクッと対応出来て、大金が手に入る。

 無償で魔力提供もしてもらっているので、これくらいのお返しはね。お互いに得をしているので良しとする。


 ダレルさんは金持ちと取引のある商人たちから、最後の砦と言われて非常に喜ばれているそう。

 今までダレルさんにまであまり話が来なかっただけで、頻繁に困らせられていたみたい。


 ダレルさんは恥ずかしいと言いつつ、人を助けられて嬉しそう。頼まれて庶民用にも事前予約で少し卸すようになった。

 こちらは魔力提供で割引有り。そこそこ収入がある庶民の記念日に人気らしい。


 あの時の商人にも、定期的にダレルさんの店経由で卸すようになった。

 高台分でほぼ買い占め状態だったので、自炊をしているこれからな探索者に売ってウハウハだと言っていた。


 この人はハドリーさんと言い、迷宮の出入口近くの大通りに立派な店を構えている。

 この人も良い人で、お小遣い稼ぎが必要な貧しい子どもたちにアレコレ雑用を頼んでいた。

 さすがお人好しなダレルさんの知り合いって感じ。ブレンダの父親の話を聞いてみたら、顔見知りだった。


「あいつは昔、探索者としてそこそこ注目されていた。そこそこだったのに本人は注目株だと思っていたのか、今でもプライドが高い」

 嫌そうな顔をしている。ハドリーさんのお眼鏡には適わなかった感じか。


「子どもがいるのに仕事を選ぶし、新しく学ぶ気も無い。二十代の探索者感覚のままで、稼いだ金で酒を買う。俺は今はもうあいつを使わない」


 ハドリーさんが色々な事をはっきり言ったら、キレられて暴力沙汰になりかけた。

 他の人たちが具体的な話を避けるのはそれを知っているからで、私を守る為でもあったらしい。


 ハドリーさんは私と会話するうち、私が下手は打たないと思って話をしてくれたそう。

 ハドリーさんの店には護衛もいるし、腕のいい探索者が出入りしているので問題無いとのこと。


 ブレンダにはそのままお小遣い稼ぎになるような仕事を融通するつもりだったが、父親に言われたらしく顔を出さなくなった。

 自分が気に入らない相手とは、ブレンダとの関係も切らせる。親と子どもは別人格だよ!


「やな感じ!」


「それな。関係を切られちまったら助けられない。だから優しい奴ほどだんまりさ」


 私は余所者で父親を知らない。雇用関係も無く、年齢も近くブレンダとは対等な関係に近い。

 ブレンダにとって新しい関係性の私が、新しい風を吹き込む可能性を期待されているらしい。


「そんなん……知り合ったばかりの私には重い……」

 知らない間に期待の星になってた。そんなん重過ぎます。


「ちょっと気にかけて、情報を流してくれるだけでいい。テッドはな、ちょっと真っ直ぐに育ち過ぎて、俺らが欲しい情報とズレがな……」

 テッドぉぉぉ! もっと頑張れよ!

 


 お父さんからも手紙が届いた。


 予想と違って私に対する謝罪がびっしりと書かれていたが、最後の方はだからって家出すること無いじゃないかと、くどくどと。

 帰って来いともはっきりとは書かれていないし、稼ぎも順調でブレンダの件も気になる。


 お父さんの気持ちはわかったけれど、まだ帰るつもりは無いとお母さんに手紙を書いた。

 しばらく帰らないと聞いたお父さんが、崩れ落ちたらしい。親子だよね。お父さんからのミニ宝珠への魔力提供が再開された。ありがとう。


 お母さんには忘れずに、マンゴーおじさんの事をびっしり書いたが、ごめんねーで終わっていた。

 ギルからも手紙が届いて、お父さんやお母さんからのアレコレが、分散せずに全部自分に来るから辛い、こっちに来たいと書かれていた。


 今までサボっていた分頑張れと、返事しておいた。

 お兄ちゃんは報連相はきちんとするタイプだけれど、筆まめでは無いのでお兄ちゃんの近況も私が書いている。


 お兄ちゃんには交渉関係と契約を全て任せている。料理は私がしているし、食材の野菜やお肉は私のギフトでだから甘えているだけではない。

 お兄ちゃんは役に立たねばと気にしているが、私は交渉とかは苦手なので十分に助かっている。


 本人もそれはわかってはいるが、兄としてもうちょっと役に立ちたいらしい。

 ジワジワ人脈作りもしてくれて、商業組合とも上手くやってくれている。


 ジョンさんは我儘も一切無いし、本当に普通の親戚のおじさんみたいに私たち兄妹に馴染んでいる。

 私の簡単お手軽家庭料理を、むしろ楽しみにしてくれている不思議。


 生活は順調で、お父さんから婚約する話は円満に断ったとの手紙も来た。

 家出の原因となった話は解決したけれど、色々解決していない。

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