第42話 指導を受ける

 ジョンさんも間もなく戻って来た。貴族でも理不尽な感じが無くて、気さくで話しやすい。

 話しながらビーフシチューの用意を続けるが、そんな態度でも全然気分を悪くすることも無い。


 お茶どこ? と聞かれたので試しに場所を言うと、当たり前の様に自分で淹れていた。

 随分と手間のかからない貴族もいたもんだ。親戚のおじさん感が凄い。


 お兄ちゃんも帰ってきて、二人の会話を聞きながら今度はお粥を作る。

 ディーンさんの所にはお兄ちゃんが持って行ってくれた。槍のお礼が直接言えていないな。明日お礼を言おう。


 明日はダレルさんの所に野菜を卸した後、お兄ちゃんに付き添ってもらって武器屋で槍を買う予定。

 鉄パイプの攻撃力では、撲殺に時間がかかり過ぎると判断した。毎回借りる訳にもいかないしね。


 ビーフシチューはほろほろのお肉と深いコクのある味わい。

 ほぼ市販のデミグラスソースのお陰だけれど、美味しくできた。


「美味しい。懐かしい味がする」

 ジョンさん。


「ありがとう」

 美味しいと言われるのは嬉しい。


 けれど、懐かしく感じるのは多分その人も同じデミグラスソースを使っていたからではないかと思う。

 フィナラッド王国にも支店が出ている、大陸全体でもかなり有名なレストラン監修のものです。


 食後に事件勃発。ジョンさんが共同浴場をいやいや言い出した。


「トイレはいいが、風呂は嫌じゃあ」

 悲しそうにしても折れないよ。やっぱり貴族は貴族だな。


「ですが、今日はモンスターを創りましたし、今後どれくらいの魔力が必要か、日々の提供で賄えるのかの確認が必要です」

 一応丁寧に拒否。


 どうやってこの畑を維持しているのかの話もした。ジョンさんの魔力頼りではないと言ったら褒めてもらえた。

 だから、納得してくれるかなと。


「わかった」

 そう言ってジョンさんは出て行き、直ぐに戻って来た。


「今日はもう魔力は使わないと部下に宣言して来た。リーンちゃん、風呂を創るぞ」

 おお、貴族っぽい。


 設計設定は私任せで、元々の予定地にお風呂とトイレまでもが創られた。魔力が足りるのが凄い。

 お兄ちゃんと呆れつつ、本人が満足しているからまぁいいかと、ジョンさんがお風呂に入ったのを見届けてから共同浴場へ向かった。


 帰って来たら、ジョンさんからのお説教が始まった。


「信頼してくれるのは嬉しいが、今日知り合ったばかりの人を空間に残して出かけるとは!」


「全財産を奪われていてもおかしくないのだぞ!」


「危機感が足りなさ過ぎる!」


 一応受付のおじさんには、ジョンさんが一人で出て行こうとしたら、さり気なく足止めをお願いしていた。

 近距離伝達魔法を使って、その時は伝えて欲しいとも頼んでいた。


 そもそも、維持隊の重鎮と揉めて勝てる庶民などいないだろうし、高給取りの、しかも貴族が欲しがる様な高級品も置いていない。

 お金もほとんど銀行だし……。


 言い訳は沢山あるけれど、私もお兄ちゃんも確かになと思うところもあって、反論せずに叱られた。

 ジョンさんは人の懐に入るのが上手なのか、本当に親戚のおじさんくらいの気分になっていたのは否めない。


「二人共まだまだ子どもで、世の中をわかっていない!」


「私は仕事の性質上、姿を偽っているし、偽名しか名乗っていない!」


 そんな事も出来るんだと思いつつ、お兄ちゃんの鑑定で、本名も本当の家族構成も割れているぞと思った。

 何らかのギフトで心を読まれているのかと思った時もあったが、そうではないかも。


 そうして夜は更けていった……。


 翌朝お兄ちゃんは疲れた雰囲気だったけれど、私は元気にダレルさんのお店に来た。

 ジョンさんも特に用事はないと言いつつも、出かけた。言われて仮固定の魔道具も切って来た。


 こうすれば、ジョンさんがこっそり戻る事は出来ないからだって。真面目か。真面目だな。

 昼食の時間はだいたいだけれど決めておいた。ダレルさんのお店に着くと先客がいた。商談かな?


「あっ、リーンちゃん! ちょっと相談があるんだが、リーンちゃんのとこで肉の融通って出来ないか?」


 やっぱり私がダンジョンで野菜を創っていると、想像出来ていない?

 外の商人と繋がりがあると思われているっぽい。


「何のお肉ー?」

 ダレルさんに緩い感じで聞いたら、先客の人が反応した。お肉が欲しいのはこの人か。

 ちゃんとしておけば良かった。体格のいい、そこそこ儲けていそうな清潔感溢れる商人さん。


 五十代くらいかな。ベテラン商人っぽさが出ている。ダレルさんの為にもなめられちゃいかんやつ。

 着ている服は私と同等くらい。顔はこの国基準でやや美形だったと思われる。顔を活かしつつ頑張った系かな。


 男相手にそれは通用しないから、それなりの商売スキルもあるはず。

 落ち着いた雰囲気だし、今のところ私を見下すような雰囲気は皆無。ダレルさんの知り合いだけあって、悪い人では無さそうかな。


「鶏、豚、牛ならどれでもいい。出来れば牛があれば最高なんだが」


 昨日創ったので、突く時間があれば用意は可能ではある。でも言われたら何でも用意できると勘違いされても困るし、条件次第かな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る