第32話 猫カフェ 1

 翌日、ウキウキ気味のお兄ちゃんとカフェに入ったら、老舗カフェで微笑んでいそうな紳士にさらっと個室に案内された。

 こじんまりした落ち着いた雰囲気のカフェで、そこらじゅうにお猫様がいらっしゃる。


 いやもう、お猫様と言いたくなるくらい大切にされているのがわかる。毛がもふもふで皆落ち着いている。

 個室にはブラッドさんとお猫様が数匹。気配察知には反応無し。紅茶の到着と共に本題に入る。じっくりブラッドさんを見るのは初めてだが、大陸共通のイケメンなだけでなくちゃんと強そうな人で良かった。


「相談内容を勝手に録音するなど、あってはならない事です。申し訳ありませんでした」


 深く頭を下げて謝罪しているはずなのに、ブラッドさんの顔が怖い。

 膝にはお猫様が構って欲しそうにお腹を見せて、足をちょいちょいしているけれど。


「ああ、すみません。以前から不審に思って色々と調べていたのに、録音に気が付かなかった自分が腹立たしく」


 お猫様がスルーされている。真面目な話をするのに、猫カフェは向いていないと思います。気になるぅ。


「健全な組織になる事を望みます」

 お兄ちゃんが大人の対応。但し目線はお猫様に。お兄ちゃんも猫が気になるけれど、真面目な話だからと我慢している感じ。


「勿論です。詳細をお伺いしてもいいでしょうか」

 ブラッドさんは真面目な話の間は、お猫様をスルーするみたい。別になでながらでもいいのだけれど、怒る人もいそうだもんね。


 お兄ちゃんが迷宮ギルドの受付がギフトを聞いて来たこと、それに答えた子に職場を紹介したことを説明した。

 その子の筆跡が変わっている事も説明し、心配した親が既に維持隊に相談したが放置されている事も伝えた。


「まず、国や領主に雇われた者がギフトを尋ねるのは規律違反です。複数の人に尋ね、その情報を他者に漏らした時点で処分があるのが妥当です。既に相談しているのに放置となると、治安維持隊は腐っている」


 ですよねー。この人はまともな対応で良かった。ブレンダから預かった手紙と、関連は不明だけれど連絡が取れなくなった子の名前を伝えた。

 手紙を確認するブラッドさんの手をたしたしするお猫様。手紙はきちんと守るブラッドさん。


「正直、この手紙だけでは派手に動くには弱いです。治安維持隊の動きから被害者がいる前提で動くつもりではありますが、私が動いていることを知られないよう慎重に調査しなければなりません」


 お猫様がブラッドさんの膝から降りた。ブラッドさんが一瞬残念そうな顔をした気がする。


 被害者の安全に関わるので、ブラッドさんが動いていることを漏らさないようにと何度も念押しして言われた。私だけに。酷い。

 ブレンダは大丈夫だろうけれど、ピュアボーイがちょっと心配だなぁ。あの嘘の付けなさが不安。


 別件として、ブレンダの事も相談した。ブラッドさんの膝から降りたお猫様が、私の足の間を移動してさわさわアピールして来るが今は我慢。


「うーん、現状では治安維持隊の介入は難しそうです。せめて雇うという相手の名前がわかればいいのですが」

 相手がわかれば、相手の調査くらいは出来るかもしれないと言われた。


「聞き出せるよう、努力します」


 ブレンダ本人が。テッドかテッドのお母さんにも頑張ってもらわなきゃ。まずはブレンダの意識改革から始めなきゃならんかもしれん。それは知り合ったばかりの私には難しい。

 状況によっては話を聞きにいくくらいならとブラッドさんは請け負ってもくれた。ただ親子の問題に維持隊が介入すると余計にこじれることもあるので、現段階では様子見。


 元々ブラッドさんは妙に羽振りのいい職員を怪しく思い、秘密裏に上司と一緒に調査していた。元貴族との癒着が考えられるが、何をしているかわからないまま調べていて効率が悪かったそう。

 そこで私とお兄ちゃんが特大の耳より情報を持ってきたらしい。盗聴まで暴いてくれたしと本気で感謝された。


 秘かにではあるがブラッドさんが受理してくれた状態になるので、後は経過報告と結果報告を待つだけになる。

 そろそろいいかな。構って欲しかったんだよねとお猫様を抱き上げる。ブラッドさんからああっと聞こえた気がするけれど、気が付かないフリをした。お猫様を撫でくり回す。


「んんっ、こちらから連絡を取りたい場合は何処へ連絡すればいいですか」

 お兄ちゃんが宿の名前を教えた。名前なんて私はすっかり忘れていたよ。


「宿は定期的に治安維持隊の巡回が入るので、怪しまれずに連絡が取りやすそうです」

 細かい内容の打ち合わせをブラッドさんとお兄ちゃんがする。猫を構っているが、ちゃんと話は聞いている。


 事前予告なくブラッドさん以外が私たちにこの件で連絡を取る事はしない。

 情報提供者をブラッドさんが漏らすことはないが、誰かから不審な接触があればすぐに逃げること。


 ブラッドさんからの連絡が今日から一週間以内に入らなければ、ブラッドさんが失敗したと判断すること。

 その場合は他所の治安維持隊にいるブラッドさんの知り合いに手紙を出して欲しいことなど、結構細かく取り決めをした。


 かなり慎重なブラッドさんの話を聞いていると、相当維持隊が腐っているんだなと感じてしまう。

 そろそろお猫様が満足したようなので放置。


「下手を打つ気はありませんが、もしもの時の対策をしておいて損はありませんからね」

 ちょっと悪い顔で笑うブラッドさんは、頭脳派っぽくて頼もしく見える。


 私たちがブラッドさんに連絡を取りたい場合は、このカフェの紳士を経由する事になった。ブラッドさんに何かあった時はここの紳士が私たちに知らせてくれるらしい。

 ブラッドさんは本当に本気の常連さんで、予告なく何日も顔を見せないことがないので、何かあったらすぐにわかるそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る