第31話 維持隊に相談 2
維持隊の人と建物から離れていく。ブラッドと名乗った後は、維持隊のお兄さんはひたすら小声。
「本題は、先ほどの件と関係がありそうですか?」
お兄ちゃんがおそらくは、と返事をした。
「尾行は無いと思いますが、何処かから見られている可能性もあります。まずは広場へ行きましょう。中央広場を利用された事はありますか?」
中央広場は迷宮の近くにある一番露店や屋台が多く出る場所なので、私はかなり頻繁に顔を出している。
必然的に人も多く集まるので、スリの被害場所としては最適そうな場所。実際にはそれっぽい目に遭った事もないけれど。
中央広場に向かいながら、お兄ちゃんとブラッドさんがこそこそと話をするので、あまり聞こえない。
大雑把に何を維持隊に訴えたかったかを伝えた様子。
「ここでは話さない方がいいですね。今は取り敢えずスリの被害届を出す治安維持隊と被害者になりましょう」
ブラッドさんに誘導されながら、何処でどんな風にスリに遭い、何を盗まれた事にするのか打ち合わせをした。
ここまで必要なのか疑問。私がずっと俯いていたので、大切な物が入っていたポーチって事で落ち着いた。
口裏合わせが終わって、歩いている途中にブラッドさんが懇意にしているお店を教えてもらった。
「この道の奥、右手にアロンドという名の猫カフェがあります。癒されるのでおすすめですよ」
猫カフェ……。アクテノールでは近所の人たちで野良猫や野良犬を可愛がる雰囲気だったので、そういう類のものは無かった。
密談のお誘いが猫カフェ。かなり意外。意外だからこそいいのか。早い方がいいだろうし、明日でいいかな。
「明日、お昼から行こうよ。私も猫と遊びたい」
兄に可愛く? おねだりをする妹のイメージで、腕を取ってみた。
普段のお兄ちゃんとの関係なら、行きたければ行くわと告げて勝手に行く感じです。
それに多分、行きたい気持ちが大きいのはお兄ちゃんだと思う。
「うーん、昼食の後になら行けるかな。一人で行くのは駄目だよ」
過保護なふり? をするお兄ちゃん。いや、実際に過保護かもしれん。
「はーい」
仲の良い兄妹のフリ。いや、普段から仲は悪くないと思う。
ブラッドさんの話し方から考えて、周囲に維持隊の人とかがいるのだと思う。誤魔化せたならいいが。
元気出して、っていうつもりで知り合いのお店を紹介した感じにしたいのだと思う。
ブラッドさんは優秀そうだし、多分以前にも紹介したことがあるので、聞かれても違和感のない会話なはず。
「何か思い出したことがあれば、またお越し下さい」
ブラッドさんにこちらの意図も通じたのか、さらっとお別れ。
ここで私とお兄ちゃんが何もかもを話してしまっては台無しなので、演技を継続する羽目になった。
宿までの道のりで急に黙るのも不自然だし、何らかの会話は必要。
「ちゃんと対応してもらえたし、ポーチが見つかるといいなぁ」
第一関門は突破したとの意味を込めて言ってみた。
「そうだね。でも、積極的に探してくれる訳でも無さそうだったよね」
お兄ちゃんがあまりブラッドさんに対しての好感度は高くないよ的な言い方をした。
これは、猫カフェで会ったのは偶然だった的な感じに言い訳しやすいようにですね。
「もう一度行って、さっきの人にちゃんと探して下さいって言いに行く?」
「うーん」
ですよね。そんなのしたくない。お兄ちゃんにいい返事が思い浮かばないようなので、勝手に話を進めよう。
「今日は付いて来てくれてありがとう。ちょっと早いけど御飯の準備をして、お礼にお菓子も作るね」
嘘だけどな。今日の昼ご飯は昨日作ったスープの残りをトマト味にアレンジするだけの予定。
「お肉も食べたいなぁ」
私のパターンが読まれている。スープだけでは足りないという訴えと、お礼の品にはお肉を所望ってところか。
「任せて」
にっこり。
宿に戻って空間に入って、ほっと息をつく。
「明日次第だなぁ」
「だねぇ。でも、感触は悪く無かったよね? 頭も良さそうだったし」
「そうだね。悪い感じも無かったから、騙し討ちでも無いと思う」
言いながらちょっと早いけれど昼食の準備を開始。スープは豆が野菜とベーコンから出た旨みを吸って美味しいのだ。肉もちゃんと焼く。ステーキだぞ。お兄ちゃんと昼ごはん。
「あれ、デザートは?」
「え、無いよ? 林檎食べる? 酸っぱいけど」
「お菓子を作るって言ったのに酷い。アップルパイとか食べたかった」
お兄ちゃんとの意思疎通は完璧とはいかなかったもよう。お肉でいいと思ってたよ!
まさか本当にお菓子を期待していたとは思っていなかった。仕方ないので夕ご飯用にアップルパイの準備。
冷凍パイシートって、アイシアでも補充できるんかな? パイ生地から作るのは、私にはちょっと厳しい。
主に手間が。食後に徘徊して、売っているお店が無いか探そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます