第30話 維持隊に相談 1
「これだけじゃ厳しいよな」
お兄ちゃんが手紙を見て言う。
「うん。だけど、ギフトを聞いてくる苦情は言えるよね」
「グルだったら、それだけではなぁ」
そう思っていたから、お兄ちゃんを巻き込んだのです。ほほほ。
「だからお兄ちゃんには維持隊の人を選んで頂きたく。維持隊に悪人仲間がいる可能性を考えて、正義感で確認してくれる人だといいよね」
流石に隊員全員が真っ黒は無いと思う。知らされていない人が、気が付いていない人が少なからずいる筈。
その人が有能で、正義感が強いせいで隠されているならなおよし。
ニーナちゃんはギフトを聞いてくる職員に職場を斡旋されているので、証拠が微妙でも普通の維持隊であれば対応はする。
でも維持隊もグルで、確認したが特に問題は無かったと言われれば、それで終わってしまう。
維持隊の怠慢だと王都にある維持隊の本部に訴え出ることも可能ではあるが、そうなると証拠が弱過ぎる。
だから最初に接触する人がとても重要なのだ。
「そんなに都合のいいギフトじゃ無いんだけどね。ブレンダさんの方はどうするつもり?」
「そっちはなー。もっと難しいよね。密告的な相談かな」
知り合いでもないニーナちゃんの話も引き受けたのは、単独での相談が微妙過ぎるブレンダの抱き合わせ販売ならぬ、抱き合わせ相談狙い。
怪しいとはいえ、こちらにはブレンダの父親の知り合いを調べる伝手などない。そもそもがまず親子でちゃんと話せよって話だし。
でも維持隊が怪しんでいるよーと見せる事で、抑止力にはなると思うんだよね。怪しい動きをしたら黒だと確定出来るかもだし。
ちゃんとした維持隊なら、ニーナちゃんの件で多少なりとも引っかかりがあれば、ブレンダの件でも話を聞くくらいはしてくれるはず。いや、して欲しいという希望。
これ以上テッドの家族とブレンダの仲が拗れるのは、ブレンダにもブレンダの弟妹的にも避けたいところ。
テッドのお母さんが維持隊に相談するか悩んでいるのも、関係が拗れて子どもたちを助けられなくなる事を気にしているからだと思う。
テッドは母親に話をしているだろうし、第三者の私たちが相談を持ち込んでくれるならその方がいいとお母さんも判断したのだろう。
取り敢えずフワッとした作戦をお兄ちゃんと考えながら、維持隊の建物へ向かう。その途中でお兄ちゃんが迷宮の受付にいる男を鑑定した。
「直感で嫌な感じは受ける、かな? でも前情報があって先入観があるから微妙。犯罪歴は今のところ無いね」
直感は感覚的なもので、前情報があると鈍ってしまう。鑑定も捕まった犯罪しか見えない。
便利なようで弱点も多い。だからお父さんは直感に頼り過ぎるなって注意しているし、ヘンリーさんに関する直感を信じ切れなかったのだ。
維持隊の建物に到着。受付カウンターに三人いて、お兄ちゃんが選んだのは一番奥にいる女性。私は横で深刻そうな顔で俯いているだけ。
これが作戦で話は全部お兄ちゃん任せ。お兄ちゃんが深刻そうな顔で、どうとでも取れる様な内容を女性に小声で話す。
受付にいる人は大抵捜査権を持っていないので、同情を誘ってお姉さんが思ういい人を呼んで欲しいのです。
受付のお姉さんが心配そうに私にも声をかけてくれた。優しそうな人だ。
「安心して話せる人を呼ぶからね」
優しい! お兄ちゃんの直感がいい仕事してます!
お姉さんはベテランっぽい人に声をかけたが、今は急ぎの仕事があるらしく断られ、若い男の人が来た。大陸共通のイケメンタイプ。
お兄ちゃんが肯いたのであの人も大丈夫なのだろう。
「あの人もいい人だから、勇気を出して相談してね」
お姉さんが何を想像しているのか、ちょっと気になった。
その若い男の人に個室に案内されたのだが、私の気配察知が何かを訴えて来ている。机の裏側かな。
「お兄ちゃん、この椅子汚れてる」
「えっ、そう?」
嘘です。綺麗です。
「すみません」
謝る維持隊の男の人をスルーして、小さめの机の下に入ってみた。
驚いている男の人に、理解したお兄ちゃんが静かにとジェスチャーした。家で散々やってたからね。
お兄ちゃんが機転を利かせて、椅子の汚れを確認しているフリをして、物音を立ててくれる。
「ああ、汚れていますね。気が付かず、申し訳ない」
維持隊の男の人も直ぐに乗ってきたので、優秀そう。
机の天板の裏側、陰になってわかりにくい所に録音機能のある魔道具を発見した。私の気配察知優秀!
男の人に無言で机を傾けて見せたら驚いていたので、この人は白で一部の維持隊の黒が確定したと思う。
お兄ちゃんが止めなかったので、大丈夫だとは思っていたけどね。
「別の部屋にしましょうか」
維持隊のお兄さんの声は優しいままだけれど、顔が険しい。
「そうですね」
部屋を出た。男の人がそっと音を立てないように別の扉を開けて、私の顔を見る。
この部屋も気配察知に引っかかった。駄目だろ、維持隊。キリが無いので仕方無くノートを取り出して書く。
『軽く嘘の相談いかがでしょう?』
二人共頷き今度は普通に扉を開き、席についた。先手は男の人から。
「妹さんがスリ被害に遭われた場所を教えて頂けますか」
ここではよくある案件かな。
「屋台が出る広場です」
お兄ちゃんが無難な場所を言う。
「相手の顔は見ましたか?」
見ていないと言えとジェスチャーが来る。
「いえ。残念ながら顔は」
「そうですか。被害届けを出しておけば、お金以外は戻って来る可能性もあります。被害届提出に必要ですので、被害に遭った場所へ行きましょうか。今からでも大丈夫ですか」
「はい。お願いします」
初対面とは思えないほど話がスムーズ。私は俯いたまま建物を出た。
受付をしてくれたお姉さんの心配そうな視線が痛い。あの人は関わっていない事を願う。優しかったもん。
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