第38話 趣味嗜好が発覚
「さて。計画的なのはいいことだ。けれど、いくら私からの魔力提供があって空間が広がったとはいえ、迷宮に挑戦するのはお勧めできないよ」
急に真面目な顔をされても、先ほどとの温度差が激し過ぎてこちらが動揺してしまう。
動揺に気が付いたのか、心配そうな顔をされた。外では単語しか話していなかったのに、急にまともな人に見えなくもない。
いや、さっきからの事を考えれば、貴族にしては強引さも感じないし、基本はまともな人な気がしてきた。
絆されてない、私? 何か基本的言動が子どもみたいで憎めない感じなんだよね。騙されたら駄目だけれど。
「ここの菜園で創ったものを売って生活しようとしているので、初級に食材調達くらいにしか行ってませんよ」
「それでこの畑の広さか。リーンちゃんに無謀なことをさせるきっかけを与えてしまったのかと、ちょっとドキドキしてしまっていたよ」
まともな人に見える……。
「何だ?」
顔を見過ぎた。
「いえ……。昼から食べますか?」
「いや、急だからね。夕食からお願いできるかな」
……まともな人に見える。
「そうだ、そのうち君が気にしているという女の子の父親に会いたいな。隠し事を暴くのは得意なんだ」
いやーーーーー! じゃなくて。
「いいんですか?」
維持隊の重鎮が、事件にもなっていない案件に関わってくれるのか。
進展がなさ過ぎて正直困っていた。まさかブラッドさんがブレンダの事まで相談しているとは思わなかった。
ブレンダの事まで気にかけてくれているなら、宿の提供くらいいいか。収入にもなるし。
「構わないよ。ところで、今日はこの後出掛けるのかい?」
「兄は出掛けますが、私はモンスターを創ろうと思っています」
「それは、何故?」
ちょっとジョンさんの雰囲気が変わった? 夜中にモンスターをけしかけるつもりとかは無いですよ。違う?
「私たち、兎とか猪とかのお肉を食べ慣れていないのです。家出の時に持って来たお肉の在庫が無くなりそうで、買うよりは創った方がコスパが良さそうだなと」
「家出……?」
おっと、余計な事をゲロってしまった。お兄ちゃんからの視線が痛い。
まぁでもいいやとヘンリーさんの事をそこそこ詳しく話した。
「ウイーアの領主御用達商会、そこの跡継ぎ……。何か記憶に引っかかるな。名前は?」
ジョンさんが思い出そうと顎に手をスリスリしている。癖かな。
「ヘンリーさんです。写真もありますよ」
「見せてくれないか」
何で持っているのとお兄ちゃんの視線を感じる。さっきから視線で語ってばかりで口を開かないな。
写真は私が直ぐに顔を忘れるだろうと懸念したお母さんに持たされた。
あちらは領主御用達商会。アイシアにも来る可能性がある。
その時にばったり会って、私がお前誰やねんってなるのを防ぐ為。これからも続く取引先なので、関係は良好に保つべし!
お兄ちゃんと共同で使う為に設置した棚から見合い写真を出して見せる。
生理的に受け付けない人の写真を自分の部屋に置くのが嫌だった。本当は空間内にあることさえ嫌だ。
「!! 直ぐにシェリーさんへ手紙を。リーンちゃんの直感は正しい。こいつはロリコンだ!」
「ロリコン……?」
「幼女好きのことだ。こいつはなかなかヤバいぞ。危険思考の人物として、治安維持隊に情報があった」
いや、ロリコンという言葉は知っているが、そんなにヤバいの?
詳しく話を聞いて寒気がした。
ヘンリーさんはガチのロリコンで、きっかけがあれば犯罪に走りそうなレベルだと判断されていた。
自制はしているが、接触はしたい。周囲に子ども好きをアピールすることで、怪しまれずに自分の性的欲求を解消しているようだとか。
ただ、それは見る人が見ればちょっと怪しい感じで、実は色々と維持隊が調査した結果、危険人物入り。
実際にまだ何かをした訳ではないので、逮捕には至っていない。被害者が出てからでは遅いと思うのだけれど、フィナラッドは危険思考だけでの逮捕は難しい国。
「リーンちゃんが産んだ娘は、きっと可愛いだろうな?」
ジョンさんが顔をしかめて言う。
「ぎゃーーーー!!!」
キモいキモいキモい!!! それって、それって!!! 想像しないで欲しい。私も想像してしまった!
「それはリーとの娘も、という事ですか?」
静かだったお兄ちゃんが喋った。嫌な想像を言語化しないでー!
「ここからは想像も入るが、自分の娘を触っても、風呂に入れても、即犯罪にはならないだろう?」
「ぎゃーーーー!!!」
キモいキモいキモい!!! さっきより、くっきりはっきり想像出来てしまった。
「それにリーンちゃんは年よりも幼く見える。それが趣味に合うんだろう」
キモいキモいキモい!!!
「直ぐに母へ手紙を書きます」
お兄ちゃんが慌てている。
是非、そうしてくれぃ! 私は今精神状態が乱れ過ぎて、きちんと伝えられる手紙を書ける気がしない。
お兄ちゃんは冷静に手紙を書いて、郵便屋さんに走って行った。ジョンさんと私を二人にした時点で、冷静ではなかったと後から気付いた。
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