第39話 モンスターを創る

 私は昔からそういう人によく狙われた。小さい頃の私は、そういう人にとって最高に可愛いかったらしい。

 心配したお父さんによって、護身術を習うようになるほどだった。


 だから人よりそういう趣味の人を多く見ているし、敏感になった。

 アクテノールは何だかんだと田舎だったので、知り合いも多くて助けてもらえたし余所者も少なかった。


 私が生理的に受け付けなかった理由に、めっちゃ納得。本能が警鐘をならしていた。

 そう言えば何故か店の倉庫にあって持って来た鉄パイプ……。


 私が変態から逃げて来た時、変態はどこじゃぁぁぁ! 捕まえてやるぅぅぅ!! ってお父さんが追いかけて行った時に持ってたな。

 思い出した。お父さんのだった。昔のあれこれまで思い出してしまい、私は精神的ダメージが凄い。


「えー、お肉が合わないのだったか」

 ジョンさんはやはり基本はまともな人っぽい。気を遣わせてしまった。


 お兄ちゃんも動揺していたのか、ほぼ初対面のおじさんと二人っきりなことに気が付いた。

 まぁ、ジョンさんから気持ち悪い感じはしないし、お兄ちゃんはジョンさんを信頼したのかな。


 最悪私が空間所持者の権限で、強制的にここから追い出せるからこそだとは思うけれど。思いたい。

 とにかく変な雰囲気にならないように会話をしよう、そうしよう。


「そうです。慣れない土地に慣れない食材はストレスになりそうですし、食べ慣れたお肉は上級からしかドロップしない上に、お金持ちが買い占めてしまい市場にほぼ出回らないのです」


 収入も安定していないなか、余計なストレスは排除した方がいいと思うんだよね。特にお兄ちゃんの。

 真面目で心配性な面もあるし、食生活の変化に弱い。ただでさえパンが遠いのだから、お肉くらいはってね。


「そうか。だが、モンスターは危険だよ」

 ジョンさんはモンスターを創るのは危険だと考えている様子。


「ええ、だから考えました!」


 考えに考えてってほどでも無いけれど、お肉があまり出回らない事を知ってから考えて、なかなかいいことを思い付いていた。

 それは、モンスターを出て来られない穴の中に設置すればいいという事。後は安全な場所から、一方的に撲殺すればいい。


「……そなた、案外……」


 説明したらジョンさんに引かれている気がするが、確かに安全か……とも言っているし、創るよ!

 ジョンさんは微妙な気持ちではあるけれど、結果を見ずに止めるのはやめることにしたみたい。


 やっぱりまともな大人な気がする。ジョンさんに見守られながら、宝珠さんとやり取り。


 鶏はもちろん解析済み。まずは鶏肉をドロップする為以外の不要な部分をこそげ落とす。声なども要らない。

 モンスターとして成り立つのに、生き物として必要なものが必ずしも必要ではない。宝珠さんに事前確認済み。


 生き物をそのままリアルに再現するには魔力が沢山必要になる。ただ、ドロップになるとちょっと変わる。

 仕様が不明だけれど、鶏丸ごとのドロップは解体する自信も無いし、逆に魔力の消費が激しかった。


 なので食べたい部位のみをドロップさせる。もも肉、胸肉に手羽元か手羽先。たまには砂肝も欲しい。

 品質は普通。欲張りすぎると魔力がかかり過ぎるし、倒せないくらい強いモンスターになってしまう。


 倒すごとに違う部位がドロップするように設定し、二周したら砂肝がドロップするようにした。

 転生者ダンジョンとかではランダムドロップらしいけれど、自分のダンジョンでそんな要素はいらない。


 量はしばらくジョンさんがいる事を考えて三人分。だいたいで決める。

 後で微調整し直せばいいし、余った分は売りに出してもいいと思う。


 初級迷宮の様にモンスターの要素にない保存袋入りとかでドロップさせると、魔力の消費がかなり大きくなる。

 なので、鶏に植物の要素を混ぜて葉っぱに包まれてドロップするようにした。床に直ドロップは嫌。


 穴は頑張っても出られない深さに設定。私の狙いを宝珠さんが理解して、微調整までしてくれる。

 以心伝心。完璧じゃないかこれ。場所は畑の奥。背のある苗などで部屋側からは目隠しが出来る場所。


 さすがに穴から出られないモンスターたちがうごめいているのを、普段の視界には入れたくない。設定が全て完了したので創ってみた。

 穴の中に緑の鶏もどき。宝珠さんにしたら鶏だけれど、見た目が一般的な鶏からは逸脱していてホラー風味。

 鶏冠無し、羽無し、緑のうごめく何か。迷宮で見たら逃げたくなるな。


 穴の中で多少は動けるが、出られない様子。心配したジョンさんが私の斜め前で様子を窺っている。

 いい人だな、この人。いざという時は守ってくれるみたい。


「……これが、鶏? 怖すぎない? けれど、安全面での問題は無さそうだな……」


 これからドロップされる肉が鶏肉と言えるのか? などとジョンさんがブツブツ言っている。

 顎に手を当てて悩む姿は様になってはいるが、宝珠さんが鶏だと認識しているので問題は無い。


 その後は何故かジョンさんからの許可制になってしまい、豚、羊、牛を毎回確認されつつ順に創った。

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