第40話 残飯処理ちゃう、家庭料理

 帰って来たお兄ちゃんが綺麗に崩れ落ちた。お兄ちゃんはモンスターを別の部屋を用意して創ると思っていたらしい。そんなの魔力の無駄遣いです。

 そう言えば相談した時、モンスターの必要性をプレゼンはしたが、どう創るつもりかは説明していなかった。

 兄妹だからって全て以心伝心とはいかない。何故かお兄ちゃんがジョンさんに慰められている。


「驚きはしたが、素晴らしい独創性を持っている。安全性は私が確認したから大丈夫だよ。見た目がどうしても見る者の不安を煽るけれどね……」


 否定できないなにか。私も夜に、いや昼に見ても驚くし怖いのは間違いない。それくらいホラー風味。

 一体一体確認しながら創ったせいで、時間が予定よりもかかった。そろそろ昼の準備をしなければ。


 今日の昼は昨日の夕飯の残りのスープにお肉を少々の予定だったけれど、お肉の節約をしなくていいから三人分でも用意は可能か。


「ジョンさんもお昼食べますか? 大したものは用意できませんが」

 ここ重要。昨日の残りとかが許されるのかが不明。


「えっ?」

 ジョンさんが驚いている。


 何で? もういい時間ですよ。外で食べたいなら止めないよ。

 でも、なんか心配して見守ってくれていた人を追い出すのもちょっと。


「もうすぐお昼ですし、二人分も三人分もそれほど変わりません。何よりお肉の確保が出来たので。まぁ、家庭料理ですけど」

 重要なので家庭料理をもう一度強調してみた。


「……頼めるか」

 その間はなに。


「無理しなくていいですよ?」


「いや、無理はしていない。大丈夫だ、家庭料理に関しては」

 どういうこと? 言い方がおかしいと私は思うのですが。


 昨日の残りと説明しても大丈夫だと言うので、お茶を出してお肉と野菜を一緒にオーブンへどん。

 次にお隣さん用にお粥を炊く。今はお米でお粥を作って、毎回違う味にしている。

 粉末だしを使い分けるだけなので簡単。野菜は細かく、お肉はまだ早いので卵を。焼けるのを待つ間にお隣へ。


「ディーンさー-ん!」

 見えないので裂け目がありそうなところに向かって声をかける。


「はいよ!」

 壁から声だけが聞こえるのって、何度体験しても不思議。ディーンさんに吹っ飛ばされないように離れる。

 ぬっと壁からディーンさんが現れた。当たり前だが毎日でっかい。顔も含めて優しい熊さんって感じ。


「リーンちゃん、いつもありがとう」

 いえいえ。お金もらっているので商売です。


 まだ何か言いたそうにはしていたけれど、サクッと別れて部屋に戻る。オーブンがね。まぁ、オーブンだから放置でいいんだけれど。

 サラダも作ったから、それをつつきながら焼き上がりを待ちたいのです。

サラダに温めたスープを食べ始めて少ししたら、焼きあがった。

 メインで鉄板のままどーん。


「お金を払ってくれる以上、客。客に残飯処理を手伝わせていいのか?」

 お兄ちゃんがブツブツうるさい。残飯処理って言うな。


「家庭料理って感じでいいな!」

 本人が喜んでいるんだから、それでいいじゃないか。デザートは採りたてのブルーベリーで。

 それも美味しいと喜んでもらえた。


 周囲用に、昔から知り合いのおじさん設定でいこうと決まった。親戚じゃないけれど親戚のノリみたいな。

 ジョンさんの家族構成は妻、娘、息子設定。ため口が解禁され、ほどほどに親し気にする事になった。

 さて、お肉を食べきったので取り敢えず一体撲殺したい。食後の運動にも丁度良さそう。


「お兄ちゃん、夕飯は何のお肉がいい?」


「ジョンさんに聞いて差し上げろ」

 客だから、それもそうか。


「ジョンさんは何が食べたい?」


「……手間がかかるかもしれないが、ビーフシチューは可能だろうか」

 客なのに遠慮するジョンさんが、最早良い人にしか見えなくなってきた。


「デミグラスソース瓶もあるし、大丈夫だよ」


 鉄パイプを持って牛の所に行くと、何故か両脇をお兄ちゃんとジョンさんが固めた。

 こちらも一切の無駄をそぎ落とした緑の牛。牛か? いや違うだろって感じ。全くの別物感。

 人に囲まれたからか、こちらを攻撃しようと動けない穴の中でうごうごしている。なかなか気持ち悪い。


「僕がするよ……」

 お兄ちゃんはそう言うが、自分でやるよ?


「いや、ここは不安でもリーンちゃんに任せなさい。ギフトのレベルが上がる」


「レベルって何?」

 そんな事、本に書いていなかった気がする。


「レベルは習熟度と言い換えれば近いかな。レベルが上がれば得られる恩恵も増える。努力しなければギフトを授かっていても開花しないのは、レベルが関係している」


「へー、知らなかった。関連本はたくさん読んだのになぁ」

 アクテノールの図書館は結構充実していたと思う。もっと一般的なギフトに関する本も読めばよかった。


「あれ、国の禁書庫で読んだ知識だったか? 職業柄、様々なギフトを勉強させられ過ぎて、もうどこでどの知識を得たのかよく覚えていない」

 ジョンさんの情報漏洩が怖い。


「他国かな? 一般常識だった気がするんだが」

 顎をスリスリしながら思い出そうとするジョンさん。


「一応、何処で知ったか思い出すまでは聞かなかった事にしてくれ。レベルが上がれば、迷宮内での身体能力などに恩恵が増えるだけでなく、空間に何かしらの恩恵もあったはずだ」


 ジョンさんが思い出すとは思えないので話さないのが正解か。

 だがしかし素敵情報! レベル上げがんばろ。情報漏洩かもしれない件は忘れよう。そうしよう。

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