第62話 お勉強

 今日は昼から騙されそうなテッドとブレンダのお勉強会。ローランさんは昨日の疲れが出たのか、今日は自分の空間で大人しくお休み中。

 クレアさんが場所とお茶を提供してくれたので、有難くハーブティーを頂きながら開催する。


「おばさんも聞いていいかしら?」

 お茶を用意してくれた後もふわっと留まっていたクレアさんは、そのまま着席する構え。


「どうぞ」

 事前に聞いていたし、クレアさんに伝えておけば、貧しい子たちが安心して旅立てる気がするのでよし。


「では問題です。この国で一番の懸念事項は何でしょうか」

 テッドとブレンダは考え、それをクレアさんが温かく見守る構図。


「ギフトに関連した仕事にしかつけないこと?」

 ブレンダから返答。今まで与えられる物事に対して受け身なタイプだったので、大変よろしい。


「それもあるけれど、この国の根本的な問題はそこじゃないかな」

 テッドもブレンダも考えてはいるが分からない様子。


「ヒント。王族と貴族」


 二人共関わらないカテゴリの人たちについて、ほぼ知識が無かった。偉そうで関わるとヤバいくらいの知識。

 本を読んでいたらわかったかもしれないが、あの図書館では無理か。


「王族と貴族って、世襲制なんだよね。世襲制はわかる? 親の地位や仕事を子どもが引き継ぐってこと。うちはギフト至上主義と言われているのに、おかしいと思わない?」


 国全体でギフト至上主義を謳っているのに、権力者たちは世襲制というのがこの国最大の懸念事項。

 さすがに多少は向いたギフトを持った子が次に選ばれているのだとは思いたいが、常に国王の子どもの誰かが次期国王になっている。


 つまり国としてギフト至上主義を謳っていながら、自分たちは例外。

 他国では相応しいギフト持ちの人たちが国家運営に携わり、その人たちが私利私欲に走らない様に見張る組織があるところが多くなっている。


「もしかしたらフィナラッドの中枢には、国を動かすのに向いたギフト持ちはいないかも知れない。領主もね」


 周囲を相応しいギフト持ちで固めている可能性はあるが、役職付きには貴族の中でも身分の高い人が多い。

 そうなるとかなり怪しい雰囲気だと言える。努力で補える部分が無いとは思わないが、ギフト至上主義を謳うなら矛盾している。


「おかしくないか!?」

 テッドの言葉にブレンダとクレアさんがうんうんしている。


「おかしいと思うでしょ? でも現実にフィナラッドはそうなっている」


「雇っているギフト持ちに、沢山報酬を渡しているとか?」

 参戦してきたクレアさん。


「国の上層部や領主が優秀な人材を集めて相応しい給料を払っていたら、彼らはどういう生活になるでしょう?」

 すっと手を挙げたのはクレアさん。もう参観じゃなくて参加。


「はい、クレアさん」


「あんなに贅沢な生活は送れないと思います! そもそも、上司である必要が無いです!」


「その通り! でも、現状はそう。だから他国から、この先フィナラッドの発展は見込めないと思われています」


「「ええええええ!」」

 テッド親子がシンクロした。


「例えばテッドが、領地の運営にとても向いているギフトを授かりました。領主は国に報告する為に領民のギフトを確認します。それでテッドにうちで働かないかと声を掛けます。提示された初任給はお父さんよりもいい」


「……給料がよくても、受けちゃ駄目なのか?」

 話の流れはわかっているが、ピュアボーイには難しいのだろう。


「重要な仕事を任されて、給料も上がるかも知れない。でも、実は領主が領地に関係する仕事を全てテッドに丸投げしていて、自分は何倍もの給料を手にしていたとしたら?」


「相場を知らないから、わからないね?」

 流石ブレンダ。どの店で買ったら安くて品質がいいかを知っていないと、いい買い物は出来ない。


「その通り! テッドなら気が付かずに働き続けそうでしょ?」

 ブレンダやクレアさんはともかく、テッド本人にまで力強く頷かれた。おいおいテッドさんや。


「ギフトに見合った給料がどれくらいかを調べるのは、基本ね。で、雇う側は気付かれない為に情報を制限する必要があるよね?」


「そうよね。でも仕事の関係で知り合いって増えるんじゃないの?」

 ブレンダが最もなことを言う。


「多分だけど身近にわかっている人が混ざっていて、気付きかけた人は仲間にするか排除するか。軟禁とか。逃げられたら次を探すのも、また仕事を最初から教えるのも面倒でしょ?」


「可能な限り飼い殺しにする訳ね?」

 クレアさんがいい生徒。


「そうです。排除も穏便とは限らないし、危険が一杯ってこと。でもこれはどの職場にも当てはまるから」


「知っているか知っていないかで、扱いが変わるのか」

 テッド。


「そう。優秀なギフト持ちを他に流出させない為の努力は、何処でもしていると思う。だけど、知らないなら騙されてカモだよ」


「怖いね」

 ブレンダ。


「フィナラッドではクーデターを起こされないように、武力があるギフトの人は高給取りだって噂もあるよ」


「うわー」

 テッドの反応がいい。考えたこと無かったんだろうな。


「アイシアは迷宮があるから他国の人もいるし話したこともあるけれど、そういう話は聞いたことが無かったわ」

 クレアさん。


「あくまで商人の間で知られている噂だけれど、積極的に矛盾を広めると国家反逆罪に問われるとか問われないとか?」


「今、広まっていない時点で危険だってことだよね?」

 ブレンダ。


「そーゆーこと。他国の人も知っている人は、トラブルを避ける為に言わないんだと思うよ」


「怖い!」

 テッドが大袈裟にぶるぶるした。


「そういう事だから、ギフトを授かった時に視野を広く持とうねって話。修行先を国内だけで考えるのは勿体無いし、就きたい職業と一見関係の無いギフトでも、他国では雇ってもらえたりもするから」


 これからはより柔軟な考えが必要。そんで周辺国では権力者こそ世襲制が廃れてきている。

 それらの国とどっちが将来的に発展するかと言うと、ね。

 今はまだいいけれど、将来的には他国で地盤を築いた方がいいのではないかと言われている。


「じゃ、この件に関して質問は?」


「はい! 他国ではギフト至上主義ではないんですか!」

 最初の質問がまさかのクレアさん。勢いが可愛い。


「フィナラッドと違って、権力者こそギフト至上主義の傾向があります。基本的にはやっぱり関連したギフト持ちが就職に強いのは間違いないです」


「なるほど……」


「はい! 他国は今どんな感じですか!」

 次はテッド。お母さんの真似をするとかピュアボーイだわ。

 ただ、質問がざっくり過ぎる。多分答えもざっくりでいいんだと思うけれど。


「ざっくりした質問だね? 国全体に関わっている人は関連ギフト持ちが多いから、これから発展していくと思います。フィナラッドが周辺国から置いて行かれる可能性は無きにしも非ずだと私は考えています」


「なるほど……」

 答えへの反応もクレアさんと一緒とかも微笑ましいぞ。


「リーンちゃんは、私たちは他国へ出るべきだと思っているの?」

 ブレンダ。


「うんにゃ。考え方は人それぞれだし、国内で上手くいかなくても世界は広いよって言いたかっただけ」


「そっか。視野を広げたら選択肢は無限大って感じだね」

 微笑んだブレンダが可愛いぞ!

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