第61話 ローランさんと
お兄ちゃんも仕事へ戻ったので、引き続きのんびりしながらローランさんと話す。
ローランさんのギフトに関する知識は、アイシアの冊子とたまたま知り合った荷運びを仕事にしている人から聞いた話のみ。
それでも基礎知識は経験で理解した分も含めて充分で。けれど、私からすれば魔力を効率よく宝珠に注いではいなかった。
迷宮を探索中ならある程度仕方がないが、療養中の今なら無駄なくぎっちり注がなければ勿体ない。
「寝る前は宝珠さんに何時に空間から出るか伝えましょう。満タンで外出したいならそれも伝えれば、自然回復を考慮して魔力を吸い取ってくれます」
「はい」
「外出予定がない場合もこまめに魔力を注ぎ、外出する時も特に使う予定がない時はある程度注ぎましょう」
「はい」
ローランさんが、さっきからはいしか言っていない気がする。
「探索者として空間に欲しいものは何ですか?」
「やっぱりトイレ。後は冷蔵庫、でしょうか」
セーフティーエリアに共同トイレはあるが、掃除をする人がいなくてかなり汚いそう。
「汚いのは嫌ですね。でも今のローランさんとこのトイレも嫌です」
「僕も嫌です……」
ですよね。
元は壁があったけれど、浴槽を入れる為にやむなく削除したそう。サイズを考えずに浴槽を買ったお坊っちゃまが無計画過ぎる。
「魔力の無駄遣いを防ぐ為にも、短期目標より長期目標で計画した方がいいですよ。探索してドロップを空間に入れるなら、トイレは奥ではなく手前の方が便利か? とか」
「……確かに。ドロップを置いても通れる様に通路を確保していましたが、そこも無駄だったかも」
「寝る時はどうしているのですか」
「ドロップで場所を取るので、最終的にはセーフティエリアでテントで」
質問攻めにして、長期計画に必要な情報を入手する。ドロップ品を入れる空の木箱は迷宮に入る前にハドリーさんが貸してくれるので、それを奥から積み上げていく方式。
あのベッドと浴槽が搬入されてからは、ほとんどドロップを持ち帰れなかった上に、三人は常にテント。お坊ちゃまが無計画過ぎて酷い。
「うん。最終的には冷蔵庫に冷凍庫、三人が寝るスペースにシャワー、キッチンもあるといいよねぇ」
ローランさんの目標が、明確になって大きくなった。
他にも今まで私がどうやってきたのかを質問されたり答えたりしているうちに、ローランさんと打ち解けられた気がする。
「今まで時間と色々なものをすごーく無駄にしていた気がするよ」
ローランさんが遠い目をしている。本来おっとりした性格なのか、キリキリ魔力を注ぐ発想がなかったみたい。
「夜寝る前は絶対だし、自然回復するんだから朝から注がないなんて勿体ないよ」
「これからきっちりやります」
「遠慮してないで、ディーンさんやアルマさんにも頼むんだよ?」
「うっ、はい……」
遠慮して言わないんじゃないかと予想した。言うんだよとジトーっと見たら、おどおどされた。
ディーンさんとアルマさんなら協力してくれると思うし、空間が広がったからと言ってローランさんが二人から離れるとも思えない。じーーっ。
「おっと、そろそろ夕飯の準備しなきゃ」
おどおどするローランさんで遊んでばかりではいかん。まずはラム肉さんをプスプス。
ローランさんが心配して、槍を持って私の横に無言で張り付いていた。大丈夫なのに。
「本当にお肉……」
他に何がドロップすると思ったんだ。お肉を持ってキッチンへ移動。
「久し振りにこれだけ動いたよ」
鍋でラム肉を焼き付けながらローランさん。旨味を閉じ込めるのだ!
「体調は大丈夫?」
そういや今日は全然横になっていなかった。
「大丈夫。あいつが戻って来たらって外に出るのを避けてしまっていたせいで、すっかり運動不足なくらいかな」
「そこそこ広さはあるから、好きにトレーニングでもしてね」
「ありがとう。空間に入れてくれて」
「ふふん。また上級に入ったら食材の横流しでも頼もうかな。アイシアって手に入りにくいものも多いし。ライ麦粉と小麦粉とか」
「あー。他領からのも高台の人が買っちゃうもんねぇ」
アイシアの主食は米なので、外部の商人に予め注文していないと小麦粉系は入っても来ない。
私たちはグレンさんに頼んで、無くなる前に配達してもらった。冷凍パイシートも補充したよ。
「小麦粉は料理に必要だから取り寄せしてる。偶にだけどパンも焼くよ。面倒だけどお兄ちゃんがパン好きで」
「僕はパン屋で働いていたから、焼くのも苦じゃないよ」
「ほんと!? 焼いて欲しい!」
思わず両手で手を握ったらびっくりされた。すまん、興奮した。
「何やってるの?」
お兄ちゃんがそのタイミングで帰宅した。手を握っているところを見られた。衝撃で忘れさせてしまおう。
「ローランさん、パン屋でパンを焼いてたんだって!」
「なんですって!?」
お兄ちゃんの興奮の方が凄かった。抱きつかんばかりの勢いで、目付きが大分ヤヴァい。
ローランさんが完全に逃げ腰。いや、逃げるローランさんを更にお兄ちゃんがぐいぐい追い詰めている。
「お兄ちゃん! 落ち着いて!」
「はっ、失礼しました」
お兄ちゃんの顔が正気に戻った。
「い、いえ……」
ローランさんがささっとお兄ちゃんから距離を取った。私を盾にするな。
ラム肉のシチューをオーブンに放り込んで、ローランさんとお兄ちゃんと買い物へ。
ローランさんが自分の空間に残るよりも外出を希望したのだが、ローランさんがさり気なくお兄ちゃんとの間に私を挟んでいる気がする。
買い物から戻ったら、ローランさんがルッコラとくるみのサラダを作ってくれた。その間に皆も戻って来た。
「明日からはしばらく昼に戻れそうもない」
残念そうに言うジョンさんは、いよいよ仕事が忙しくなってきたみたい。
「お弁当いる?」
予想外だったのか、ジョンさんにキラキラした目で見られた。
「お願いしても?」
「いいよ」
ローランさんのお陰でこれから楽が出来るし、負担は少ないと思われ。
明日はテッドの家で勉強会で、それ以外の時間で一気に減った常備菜の補充をしようかな。
この日ローランさんは、ディーンさんたちと今後についてじっくり話し合ったもよう。
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