第60話 悲鳴の理由
ジョンさんとディーンさんは飛び起きて駆け付けたし、二人には遅れたものの全員が目を覚まして集まった。
ディーンさんはアルマさんを助けるべく、すぐさま羊に襲いかかろうとしたようで、ジョンさんが確保して危険は無いと説明していた。
「素手は止めなさい、素手は。冷静に見なさい。このモンスターは穴から出られない」
結論を言うと、私が朝にリポップするように設定していた羊をアルマさんが見て、悲鳴を上げた。
熟睡出来た為に早く目覚めたアルマさんが、朝日を感じながら畑を気持ちよく散歩していた。
そうしたら畑の奥に大きさの違う穴がある。なんだろうと覗いて見ていたら、そこにタイミングよく羊がリポップ。驚きとあまりの造形に悲鳴。
そして理由を知った今。
「びっくりした」
片方の手を胸に当てて、心を落ち着けようとしているディーンさん。
「気持ちは、わかる」
凄く感情を込めて言うジョンさん。ディーンさんの肩を優しくぽんぽんしている。
穴の近くで座り込んでいるアルマさんは、うごうごしている羊を凝視。そこに槍を持ったローランさんが寄り添っている。
何だろう、この居たたまれない雰囲気。説明していなかったのかと言うように見てくるお兄ちゃんから目を逸らす。だって案内したのはジョンさんだしぃ。
「私の説明不足だった」
ジョンさんが自首してくれたので、援護します。
「今日の晩ごはんはラム肉のシチューね。昼は塩豚のカリカリ焼き」
周囲からの視線が痛いです。
「何の話?」
驚き過ぎて腰が抜けたっぽいアルマさんに質問された。
「趣味じゃないからね? 魔力消費の効率を重視するとこうなるの」
「へっ?」
意味がわからないって感じで、ディーンさんたちに見られる。もしかしてジョンさんは何も説明していない?
ジョンさんを見たら、テヘッみたいな顔をされた。
「昨日食べた鶏肉や豚肉も、元はほぼこんな感じです。割り切りましょう」
あーあって顔のお兄ちゃん。
「えええええええええ」
説明しながら朝食の準備。ご飯とスープに、目玉焼きとベーコン。常備菜を自分の好みで。後はヨーグルトに枇杷を。
メニューを伝えると、ローランさんが手際よく手伝ってくれる。自分の雑炊も自分で作ってくれた。
「モンスターが魔力の塊なのは知ってます?」
「いえ……」
ディーンさんとアルマさんも耳を傾けるなか、ローランさんに肉をドロップするのに生き物らしさは不要だと熱弁した。
緑色な理由も、魔力の節約に重要だと言えば納得はしてくれた。
「だからって、ホラー過ぎない?」
アルマさん。納得はしてくれた?
「リーンちゃんは無駄がない。よく学ぶといい」
ジョンさんがいい感じの雰囲気を出してまとめ、強制終了。それぞれが仕事に向かい、ローランさんは散髪に。
一番最初に戻って来たのは私で、次はローランさん。ローランさんの髪型はディーンさんとアルマさんと同じ前髪無しのボブ。
ディーンさんとアルマさんは肩に当たらないくらいだったけれど、ローランさんは顎くらい。スッキリして優しい雰囲気に変わった。
「何で同じ髪型なんですか?」
気になって仕方が無いので聞いた。三人の男が同居しつつ一緒に迷宮に入り、髪型が一緒。どういうこと?
「三人とも髪が長いと戦闘の邪魔に感じるタイプで、これが一番長く散髪に行かなくても何とかなるんです」
仲良しアピールか、グループの決まりかと思った。
「先を目指す探索者はこの髪型多いので、誤解しないで欲しいです」
ローランさんにも心を読まれた気がする。前髪を作らずにハーフアップにして迷宮へ行くといいらしい。
でも今までこの髪型の探索者を、そんなに見た記憶がないんだが。
「長く迷宮に滞在すると、髪も伸びます。前髪が視界を遮ると戦闘の邪魔にもなりますから。それと、出来るだけ貯金したいと考えると、この髪型がベストなんです。……わかって?」
最後に何故か懇願が入っていた気がするが、何故だろう? 利便性重視なのは理解したよ?
先ずは昼ご飯の準備。ローランさんが自分も食べられる細かく切った野菜たっぷりのスープを作ってくれる。
私が塩豚をカリカリに焼いているうちに全員戻って来たので、皆で食事。
お昼はサクサク食べて仕事に戻る雰囲気。これは予め聞いていた。
ジョンさんは今忙しいし、ディーンさんとアルマさんは稼ぐ為に休憩時間を短くしている。
「ご馳走様」
「ご馳走様です」
「美味しかったよ」
ジョンさん、ディーンさん、アルマさんの順で出て行った。
「ローランさんのスープ美味しかったです。ご馳走様でした」
お兄ちゃん。
「私が焼いた塩豚は不満か?」
お兄ちゃんは普通の昼休憩で、時間に余裕があるので絡んでみた。
ローランさんがちょっと焦ってオロオロしている。本当に気にしいでハートが弱そうな反応。
「勿論美味しかったよ。食後は紅茶でいい?」
「うん。ミルクティーがいい」
「はいはい」
「ローランさん。私たちはちょっとじゃれ合っていただけですよ。ローランさんは白湯でいいですか?」
「あっ、はい。そうします」
ほっとして笑顔になったローランさんに、髪型と髭のお手入れって重要だなって思った。印象が違う。
「リーのこの後の予定は?」
ミルクティーを飲みながらゆったり会話。
「ローランさんとギフトの話をして、まだ元気そうなら夕方の買い出しに付いてきてもらう予定」
「あー三人増えたもんね。ローランさんが無理そうなら僕と行こうか」
「助かる。牛乳とバターとチーズは絶対でしょ。あったら生クリームとサワークリームも。それから胡桃とアーモンドも欲しいかな」
野菜と肉は取り敢えず私のギフト産でいけるが、他が足りない。
乳製品は上級に入った人がいれば豊富に出回る。今日出て来る筈なんだよね。
「重いのばっかりだね。ヨーグルトも補充した方がいいんじゃない? 後、売っていればフロマージュブランが食べたいな」
「あーうん。そうだね」
私もフロマージュブラン好き。ヨーグルトのストックはあるが、六人で食べたらすぐに無くなってしまう。
ローランさんが何としてでも自分が行かなければな雰囲気になっていたので、お兄ちゃんと行くことに決めた。
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