第59話 査定結果

 次はベッド。お兄ちゃんとディーンさんが一緒に既に天蓋を外していた。


「木は加工のしやすさで人気のやわらかいもの。その分傷付き易いので、ベッドのフレームにするには好みが別れます。元はオーダーかな?」


「でも、屋根がないね。オーダーするお金があって、今時屋根なし?」


 フィナラッドの今の人気は屋根付きタイプ。屋根にレールを取付けて、カーテンを下げる方が天蓋タイプより実用的なんだよね。

 お金持ちはレールを隠す木の部分におしゃれな装飾をする。これはポールと骨組みだけ。


「ポールの上部に傷があるし、元々は屋根があったぽいね」


 ヘッドレストとフットレストにはかなり凝った彫刻が入っている。

 マットレスをどけようとするお兄ちゃんを手伝おうとしたら、ディーンさんもアルマさんも私と変わろうと来る。似た者同士の幼馴染?

 ってか皆紳士。


「「あー」」

 お兄ちゃんと声がかぶった。マットレスを乗せる木が安物だった。

 寝心地的には重要なのに、見えないところが貧相。単なる見栄っ張りか?


 天蓋の布も柄だけは豪華だけれど、色々残念。日焼けを誤魔化す為に色を塗った跡がある。

 他にもジョンさんに説明しつつ色々と確認をして、お兄ちゃんが出した結果は。


「傷やデザインから、おそらく元々中古を購入したのだと思います。本人の見る目がなくて騙された可能性は否定できませんが、趣味が悪いかただの見栄っ張り。人気のないタイプで、売っても大した金額にはならないかと」


「ほう。見ただけでそれだけわかるのは面白いな」

 お兄ちゃんの見ただけには、鑑定も入ってますよ!


「これらが実はコレクターに人気だったりでなければ問題ない」


「それは無いよね?」

 一応お兄ちゃんが確認してきた。ありふれた派手めのデザインなだけだと思う。


「無いと思う」


 ジョンさんは私たちの話を元に、どこで幾らで買ったか調べるそう。

 安物と知って買っていたなら、忘れ物として治安維持隊経由っぽくお坊ちゃまの家へ連絡する。


 査定金額と配送料を書いて連絡すれば、金額が寂し過ぎて見栄を張る貴族なら処分してくれとなるらしい。

 騙されていた場合でも、騙された事を周囲に知られない為に似たような結果になるだろうとのこと。


「実際は治安維持隊は関係していないから、売った分を三人の生活費に充てればいい」


 貴族に手紙を書く時は、親しい間柄でなければ名前と一緒に肩書きも書くのが普通。

 だから治安維持隊の○○ですと差出人を書いて、手紙に余計な事を書かなければ、勝手に勘違いしてくれるって事だと思う。


「そんなこと、可能なんですか?」

 ディーンさん。


「私なら、可能だな」

 維持隊の重鎮だもんね。


「お願いできますか」

 アルマさん。


「大した金額にはならないですよ。下手したら、買取りもしてもらえず処分費用を請求されるかも」

 二人に希望の光が見えて、いい雰囲気になったのをぶち壊すお兄ちゃん。流石のジョンさんも情けない顔をした。


「そんなに?」

「そんなに、です」

 容赦のないお兄ちゃん。商人っぽい。商人だけど。確かに人気のないデザインだし、貴族は中古より新品を好むので難しいと思う。


「まぁ、邪魔なものが無くなるだけでも……」

 アルマさんがフォローした。


「処分費用がかかる場合は、畑の上にでも出してダンジョンに吸収させたらいいよ。じゃ、お茶でもしよっか。夜だから皆ココアでいい?」

 雰囲気を変えよう。


「お願いしよう」

 ジョンさんがのってきた。


「ローランさん、薬が効いてきたなら白湯でも飲みません?」

 ローランさんも誘ってみた。一瞬目が泳いだが起きてきた。皆で雑談。


「ローランくんはまず身だしなみを整えないとね。明日にでも行きなさい。閉じ籠もってばかりは精神衛生上よくないと思うよ」

 ココアでジョンさんが持ち直した。


 ディーンさんにも勧められて、ローランさんの体調次第ではあるけれど、明日はお出かけが決まった。

 和やかに会話が弾んで、話題が移っていく。


「ローランくんはあまり自分のギフトに詳しく無さそうだね?」


「私は北にあるカルアラン王国の田舎出身で、ギフト研究所にもあまり本がなかったんです。アイシアならと思っていたのですが」

 

「ここの図書館はギフト関連の本が全然ないもんね」


 迷宮の都だからアクテノールより迷宮ギフト関連の本がもっとあるかと期待して司書さんに聞いたのだけれど、マジで全然なかった。

 基本的なことが纏められた冊子以外はギフト研究所の研究資料として所内に保管されていて、所員以外閲覧禁止って何だよそれって感じだった。


「リーンちゃんはかなり調べたんだろう? リーンちゃんに教えてもらうといい」


「でも、お金が……」

 ふむ。対価が用意出来ないってことね。超真面目そうなローランさんに、無償は負担になりそう。


「ローランさんって、料理出来るんだよね? 普段は私が料理しているんだけど、好きな訳じゃないから分担してくれるとかどう?」


「料理、ですか」

 ローランさんが不安そう。しかもジョンさんをチラッと見た。わかる。


「うん。ディーンさんとアルマさんも対価をくれるならうちで食事すればいいと思うけれど、毎食六人分は大変だし私には負担が大きくて無理」


「お金を払って朝晩ここで食べられるなら、嬉しいよ。でも、一人で六人分は大変だろうね」

 アルマさんからの援護射撃。外食にもお金がかかるし、こってりばかりとなるとそうなるよね。


「ジョンさんはこう見えて、素朴な家庭料理でも残り物でも大丈夫」

 これ重要。


 これが決め手になったのか、翌朝は一緒に朝食を作ることに。何度か一緒に作ったら、分担制にしよう。

 話しつつもそれぞれが順番にお風呂に入っていき、解散。ディーンさんとアルマさんは通路に布団を敷いて寝ることになった。


 外したカーテンとかがあるので使うかと聞いたけれど、朝日くらいじゃ寝るのにどうってことないらしい。

 ローランさんのベッドの目隠しに使われることになった。


「隙間と浴槽に寝ていたことを考えれば、快適でしかないだろ」

 ディーンさんの言葉に変な説得力がある。


「寝返りが自由に出来るだけで快適だよ」

 アルマさんの言葉は切ない。


 翌朝。


「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 誰かの叫び声で目が覚めた。

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