第2話 授かるまでが遠い*

 今日はギフトを授かる日。一生が決まるといっても過言では無い。そのせいか、すっきりぱっちり目が覚めた。

 朝食の時間の少し前に部屋にわざわざお母さんが様子を見に来たので、そのまま一緒に食事室へ向かう。


 我が家は二階建て。夫婦の寝室にそれぞれの個室がある。これは特別裕福だからではなく、田舎なので一般的。

 お店は家から徒歩八分くらいの大通りにある。大通りには各種施設と店が並び、それを囲う様に住宅街。その周りは全部畑や手付かずの自然。領都なのに土地が安い。


 食事室は家族やごく親しい友人との食事にしか使わないので、広すぎず狭すぎず。家族の会話の場所として、暖かい雰囲気に整えられている。

 特別な日だからと遠慮してくれた感じ。お父さんとお兄ちゃんが本人よりもそわそわしている様に見える。


 六人掛けのテーブルには既に朝食が並んでいて、通いで家事手伝いをしてくれているサリーの姿は既にない。

 このテーブルは弟のギルが生まれてから買い替えた物で、その時には商会は軌道に乗っていたので重厚でいいやつ。


 渋い色目で木目も綺麗。どっしりとしていて椅子の座り心地も良い。

 朝が苦手なギルが少しだけ遅れて現れ、全員が揃った。ギルの頭が安定の寝ぐせでぼさぼさだが、ほぼ毎朝のことなので誰も指摘しない。いつもの朝の風景。


「「「「「いただきます」」」」」


 朝食は私だけ麦粥。サリーが気を遣ってくれたのだと思う。お兄ちゃんは緊張で眠れずに寝坊、そして胸が一杯なあまり食が進まなかった事を今思い出した。繊細だよね。

 お父さんもお母さんも自分の時にそんな事にはならず、お兄ちゃんがとても繊細な人なのだと家族が知った日でもあった。


 私は普通に食べられると思うが、サリーの麦粥は美味しいし、わざわざ別に作ってくれた優しさに感謝して頂く。蜂蜜のほんのりとした甘さが美味しい。


「いいギフトが授かるといいな」

「そうだね」

 お父さんが私の緊張具合を確かめるように、しっかりと目を合わせて聞いてきた。


「気楽にね」

「うん」

 お母さんも気にしているみたいだが、私は繊細なタイプではないようです。


「ちゃんと授かった後に自分のギフトについて調べなよ」

 お兄ちゃんがうるさい。


 ギルは食べるのに夢中で無言。私はやはりそんなに繊細では無かったようで、麦粥だけでは物足りなくてフルーツに手を出す。

 梨を果物ナイフでむいていると、ギルが欲しがったので半分お裾分け。その様子で私が緊張していないと両親も気が付いたっぽい。


 それからは本当にいつもの朝食風景になった。それぞれの今日の予定を和やかに話す。


「じゃあ、俺時間だし先に行くわ。姉ちゃん頑張ってね」

「うん。汎用性の高い潰しがきくギフトを授かってくるわ」

「いや、格好良いギフトで!」

「そういうのは自分で授かって」


 ギルが学校へ行く為に先に出た。頑張ってどうにかなるものではないのだが、声援としてありがたく頂いておく。

 時間に余裕があるのでゆっくりお茶をした後、出て来たサリーにも応援されつつお昼のお弁当を渡され、全員で玄関へ行く。


「忘れ物は無い? ちゃんとノートは持ったか?」

「うん。持った」


 お兄ちゃんは昔からこうだったので違和感は無かったが、友達にそれは母親のセリフじゃないかと言われた事を思い出す。

 どうでもいい事を思い出してしまうのは、やはり少し緊張しているからかも。


「気を付けてね」

「幸運を祈る」

「ハンカチは持った? 忘れ物はない?」

 兄よ……。


「大丈夫。行って来ます」


 家から徒歩十分のギフト研究所へ向かう。店とは反対方向だが、隣に図書館があるので普段からよく行っている。

 ギフト研究所は基本的には各領地に一つ以上ある。アクテノールでは領都に一つ。研究所は国が運営している。


 研究所はその名前の通りにギフトの研究をしている。本部は王都にあり、そこには大陸中のギフトの情報が集まるらしい。

 ギフトは名称、効果や機能にでさえ一貫性がないので、仕事に終わりはないとされている。

 地方の研究所の仕事はギフトの情報収集と授与。授与の際には、遠方の人に馬車や宿の手配もしてくれる。


 歩き慣れた道を歩き、研究所に到着した。機能性重視の無機質な三階建ての建物。受付には既に七人待っていた。

 少し早めに出たので到着は早い方だと思っていたが、遠方からの人が多い様子。そんなに人口がいないので、同い年で誕生月が同じとなるとそんなにいない。


 最後に近所の料理屋の息子が来て、十人。全員が揃ったようで、建物の奥にある小部屋に案内された。

 小部屋には椅子が並び、学校の教室に似ていた。並んで座るように促され、前に立った職員からの有り難い話? が始まった。


 最初は真面目に聞こうと思っていたが、学校で習うのと同じ話をしているので、ほとんどの人が聞いていないように思う。

 私も聞き流すが、こういう人って大概話が長いよなと思っていたら、本当に長い予感。


「……我々は過ちを犯しました。二度と同じ過ちを犯してはなりません。どの様なギフトも素晴らしい才能です」


 人は昔、他の生物と同じ様に産まれた時からギフトを授かっていた。けれど人の親は、自分たちにとって有用でないギフトを授かった子どもを育てるのを忌避した。

 欲しがる人への人身売買はマシな方で、買い手がつかないような子どもを捨てたり、殺したりしていた。


 その行いが神々の怒りにふれ、人は十二歳になるまでギフトを授からなくなったと伝わっている。

 また、子どもがギフトを授かるまでは教育を授け、大人の庇護下で大切に育てるようにと神託が下ったとされる。


 だから義務教育などの様々な制度が整えられた。要はギフトを授かった時に、ちゃんと有効活用できるような下地を作っておけよって話。職員の話はまだ終わらない。


 彼はギフトを授ける神々を信仰しているようで、話の雰囲気が宗教勧誘っぽくなってきた。興味が無いので完全に聞き流す。

 国の機関での宗教勧誘は禁止されている気がするんですけど。直接的な言葉はなく、素晴らしさを説く感じだからセーフなの?


 十歳になった時に、お父さんから愛読書だと本を一冊渡された。それは転生者が転生する時に会った神との話を纏めたもの。

 出版当時はかなりの批判にさらされたらしいが、お父さんはその転生者と知り合いで間違いなく本の内容は事実だと言っていた。


 この世界は神々の実験の為に作られた。神々は単体、もしくは複数で既に別の世界を創造していて、その世界がいかに発展するかで神格を競い合っているらしい。

 だからその世界をより発展させる為に、神は時に世界に干渉する。ただそれが必ずしも良い方向に向かうとは限らず、思いもよらない結果をもたらす事がある。


 干渉した場合にどうなるかを試す為に神々が新たに創ったのがこの世界だと、本にはそう書かれていた。それがこの世界の大半の人には受け入れられなかった。我々は実験動物ではない、と。

 けれどお父さんの意見は違う。神々は既存の世界でも試行錯誤しているらしいのだから、この世界とも大した違いはないと考えている。


 私はお父さんの意見に納得した。ギフトを授けてくれる感謝はあるけれど、ギフトそのものがお試し。だから神々に対する篤い信仰心はない。

 だけれど、職員の目は妙な感じにギラついている。変な新興宗教みたいで、却って聞いた人が引く気がするのは私だけか?


***本好きリーンの豆知識***

 フィナラッド王国の王都には立派な神殿があるよ。流石ギフト至上主義国だよね。神々がどれだけいるかさえも把握できていないので、彫刻や絵画が沢山並んでいるよ。

 転生者に神に会ったか確認をして、証言を元に作成しているんだって。だけど見た目を人に伝えるのは難しいし、きちんと覚えているかもね……。

 似た様な見た目のものが沢山ある感じだったりする。

 自分のギフトがどの神に授けられたのかも基本不明だから、基本はふんわり神全体に感謝を捧げるんだって。

 中には気に入った彫刻や絵画に感謝を捧げる人もいるらしいよ。自分のギフトを授けてくれたのはこの神に違いないってね!

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