第3話 ギフトを授かる
「……なのです。では、感謝の祈りを捧げつつ、ギフトを授かりましょう」
やっと話が終わった。途中から全く聞いていなかった。名前を呼ばれた人から、奥にある個室に案内されていく。
個室は完璧ではないが防音されているので、大きな声を出さなければ声が外に聞こえることはない。
遠方の人は領都規模の図書館がないので、そういう人から先に呼ばれていく。彼らは領都にいる間に自分のギフトを知るべく頑張る方式。
笑顔で部屋から出て来る人、沈んだ顔で出て来る人。色々。ここ、ギフト至上主義国なので、結構深刻なのだ。
性別的に不向きなギフトもあったりするから、本当に深刻。興味がないギフトを授かった場合も大変だと思う。興味がなくてもギフトに関連する職業にしか就職できない。
「やった! 短剣のギフトがある!」
大声で自分のギフトを暴露したのは料理屋の息子だ。別室の意味が無い。
今でもギフト持ちの誘拐があるから、ギフトは国が管理する機密事項扱い。担当職員は誰がどのギフトを授かったかを国に報告するが、職員には守秘義務がある。破った時の罰則は重い。
ちなみにお金をもらって誰がどのギフトを授かったかの情報を流す職員もいて、時々バレて捕まっている人がいる。
短剣のギフトなら知られても特に問題はないと思う。喜んでいたのは包丁捌きに影響が出るからだろう。思いっきり注意はされているが。
「次、リーンさん、どうぞ」
私の順番が来た。入った部屋は小さく、机が一つあるだけ。その上に金属板の様な物が乗っている。この金属板に手を当てるとギフトを授かる。職員が熱く語っていたような神聖な儀式の雰囲気は皆無だなと思った。
「さぁ、板に手を当てて下さい」
職員に促されて板に手を置く。ひんやりした感触だった板がじんわりと温かくなり、何かが自分に流れ込んで来る感覚があった。
板に魔力量とギフトが表示される。当然前世の記憶持ちとは表示されない。どう表示されるのかは知らないが、されていないと思う。
「魔力量は……普通。ギフトは……ダンジョンと気配察知ですね」
ダンジョンと気配察知……。職員は手元の紙に結果を書き込み、残念だったねみたいな顔で私の肩に手を置いた。
本人でもないのに、人のギフトを勝手に残念がるのはいかがなものだろうか。さっきのどんなギフトも素晴らしいという長い話は何だったのだ。
「ダンジョンギフトには類似ギフトが多くあります。我が国では迷宮と一般的に呼ばれますが、他にも塔や洞窟なども類似ギフトになりますね。気配察知のギフトは同じ名称で恩恵は様々な種類があるので、よく調べるといいでしょう」
「ありがとうございました」
職員の態度に対する不満は顔には出さずにお礼を言い、そのままギフト研究所を出て隣にある図書館へ向かった。
よく利用しているので、司書さんに位置を聞かなくても何処にギフト関連の本があるかを知っている。
ギフト関連本は一番奥の部屋にある。本棚を壁代わりにして区切り、手に取った本を隠せるよう配慮されている。
部屋の前にいる司書が顔見知りだったので、会釈を交わして部屋の説明を受けずに入室する。
部屋に入り、扉横にある黒い布を手に取る。持ち歩く時に本を隠す用。本棚は左右の壁際にコの字型に置かれ、中央の通路には間仕切りがある。
本棚の高さは低めに設定されていて、コの字の中にいる時は本棚に設置されている紐を引っ張ると赤い板が立つ。
名前順なので『ダ』を探し、板が出ていない事を確認。ダンジョンギフト関連の本はそこそこあった。
それなりの人数が授かるギフトなのだと思う。うちの商会の従業員にも、迷宮関連のギフト持ちが複数いる。
国家機密扱いでも就職である程度は言う必要があるので、知っていたり知られていたり。脇が甘い国家機密。
パラパラと中身を確認しつつ何冊か選び、奥にある仕切りがある閲覧机に向かう。ギフトに関連する書籍は基本は貸し出し不可。
いつでも来れる環境とはいえ、出来る限り調べておきたい。まずは入門編。これは名称が同じギフトの今までに判明している共通項をまとめたもの。
そもそもダンジョン、迷宮とは。
迷路の様に入り組んだ薄暗い場所や外と同じ様な景色が広がっていることもある、何でもありの不思議空間。
ダンジョン内の植物や鉱石などは採取が可能で、人を見たら絶対に殺すマンなモンスターが闊歩するところ。
モンスターを倒すと体が消え、代わりに品物が残る。色々と意味は分からないが、そういうもの。
その現象と品物の事をドロップと呼び、収穫物やモンスターが時間経過で復活する事をリポップと呼ぶ。
これらの収穫物やドロップを持ち帰って売り、収入を得る人を探索者と言う。
この類のギフトを授かると、類似の空間内で身体能力が強化される恩恵と、シングルベッド一台分程度の空間を授かる。
この辺は一般常識として知っている。商会の従業員はこの空間を荷物運びに利用している。大抵空間が広いほど高給。
このギフトを研究所職員に残念がられたのは、荷物運びも探索者も女性には不向きな職業とされているから。
身体能力が強化されても、同じように強化された男性には敵わない。それでいて体力や身体能力勝負な職業。
荷物運びは空間への荷物の積み下ろし作業が付随するし、運び先によっては数日かけた旅になる。
整備されていない道もあるし、野営になることもある。体力が必要で、性別による配慮はない方が同行者も楽。
だから荷物運びはほとんどが男性。だからうちの商会でも、荷物運びは男性ばかり。近場の軽い荷物要員で女性がいた事もあるが、給料はその分安いし今はいない。
探索者も強力な攻撃魔法があって魔力量も多ければ話は違うのだろうが、そうなると国から声がかかる可能性がある。
そもそも探索者も数日かけてダンジョンに潜るので、性別を理由としたトラブルや事件は多い。
女性に不向きでも幸い実家は商会だし、就職出来ずに悩むことにはならない。国に囲い込まれる可能性もない状況なので、私は悪くないと思っている。
まずはこの謎空間の基本的なことから。空間は所有者の傍に常にあり、所有者に許可を得た人しか入れず、入り口を認識出来ない。
空間の入り口は魔力を使用して固定可能。その場合は誰からも見えるようになる。仮固定する魔道具もあるが、長期間の固定は出来ない。
色々とルールがあるので、箇条書きでノートに書き写す。空間内には宝珠やコアと呼ばれる物があり、それが空間の運用方法などの詳細を教えてくれる。
空間を広げるには魔力が必要で、宝珠に魔力を注いで貯める。目安として魔力量普通の人が毎日魔力を注いで、二年でおよそベッド一台分の空間が広がる。
いや、何でさっきからずっとベッドが単位扱いになっているの? 気にしたら負けなやつなのか。
空間内で何かを創るには魔力が必要。一旦宝珠に解析させて創る方法と、所有者の知識と創造力で創る方法がある。
解析に魔力は不要。けれど再現するのに足りない情報がある場合は、所有者の知識と創造力に追加の魔力が必要となる。
所有者の知識と創造力だけで創る場合は、大量の魔力が必要。推奨魔力量は特大以上。
魔力量は極小、小、普通、大、特大、測定不能の順に多くなる。割と大雑把な括りなので、同じ測定結果でも魔力量には幅がある。
そうだとしても、魔力量普通の私には解析する方法以外は無理だとわかった。
外から直接持ち込んだ動植物は空間に定着しない。類似ギフトで創ったものはそのままでは解析不可。リポップにも魔力が必要。
空間内にセーフティエリアを設定でき、持ち込んだ物を置いておく事が出来る。また、モンスターは入れない。
他の場所に物を放置すると、宝珠が自動解析を始め、解析終了後に空間の外に排出されるか吸収されてしまう。
これはあれだ。ぼやかしてはあるが、ダンジョン内で亡くなった人の話を思い出す。最大規模の転生者ダンジョンは吸収型だ。
基本的な本を読んで分かった事は、この空間内は魔力次第で好きに出来るということ。広げる事も何かを創る事も出来る。
それを大々的にやっているのが探索者が入るダンジョン。入場料を取って、その時に所有者の許可と本人の同意が得られたと認識され、入れるようになる。
魔力さえあれば、空間内で好き勝手に出来る夢がある面白いギフトだと思う。魔力さえあれば。国に囲われるが。夢がないとも言う。
一旦図書館の飲食可能スペースでサリー特製のバゲットサンドを食べ、その後も何冊も集中して本を読んだ。
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