第4話 家族に報告*

 夕方まででわかった事は、魔力量普通だと空間を広げるだけで十年かけてもベッド五台分。

 仕事に利用しない人は、潔く居住空間にしたり小さな菜園として活用していること。

 就職を家の商会にするとして。荷運び用の空間は確保しつつも、居住空間や菜園での活用が私の目標として無難な気がする。


 気になるのは空間の固定について。ギフト所持者が死亡した場合は、固定した空間も消えると書かれている。

 だが、転生者が創った空間は今もダンジョンとして稼働中。でも彼は既に亡くなっている。

 別のギフトで可能? ダンジョンを創る予定はないし、該当するギフトを調べるのも大変だしまぁいいか。


 結果、『家庭菜園のススメ』と『動線を考えた間取りとは』に『素敵な我が家』の本を借りて図書館を出た。

 居住空間に大分夢を見た選択だと思うが、少しくらい夢を見たっていいじゃない。


「ただいまー」


「お帰り、お姉ちゃん! ギフト何だった?」

 既に帰宅していたギルが、興奮気味に出迎えてくれた。気になるよね。


「ダンジョンと気配察知だった」

 あ、ダンジョンについて調べるのに夢中になって、気配察知について調べるのを完全に忘れていた。

 

「ふーん? 荷運びをする人か、探索者になるの? 探索者、いいね!」

 確かにこのギフトでの有名な収入源としては、それくらい。でも探索者になる気はないかな。


「じっくり考えてから、どうするか決めるつもり」


「そう? 夕飯の準備がもうすぐ出来るよ」

 我ながら帰宅のタイミングがばっちりだった。かすかにお肉が焼ける香ばしいにおいも漂って来ている。


「ありがとう。荷物を置いてから行くから、先に行ってて」

 後ちょっと、夕食前に空間に入ってみたいです。


「わかった。先に行ってるね」


 部屋で空間カモン! と思ったら、細い裂け目が左側に現れた。あったものが見えるようになったと言うのが正しいかもしれない。

 裂け目は手で広げられるが、自分より細いままでも普通に中に入れた。仕組みがわからん。


 空間はつるっとした白っぽい灰色の壁に囲まれている。ベッド一台分くらいの空間で薄暗い。これは外の明るさと同じ。

 空間に入った時から宝珠と繋がっている様な感覚がするので、宝珠がある場所がわかって視線をやる。


 丸くて占い師が使う水晶みたいな大きさの宝珠が、ぽんころって感じで床に転がっていた。予想外。

 最重要品じゃないの? 壊れたら空間が消えるんだよね? もっとこう、台座とかに厳かに置かれている感じをイメージしていた。


 取り敢えず転がらない様に置き場所がいるな。蹴とばして割れたら泣く。

 そして今、宝珠が蹴とばしたくらいでは割れないと伝えて来ている。不思議な感覚。


「いやいや、私の心臓に悪いし、ストレス発散に暴行を加えたりもしないからね? 安心して?」


 宝珠からの返事は無かったが、一旦空間から出てタオルを持って戻る。


「後でもうちょっとマシなのを探すから、それまでこれで我慢してね」


 入った段階でこれがコアではなく宝珠だとわかったことで、複数あるダンジョンギフトのどれを授かったかの候補が絞れた。


「これからよろしくね~」


 言いながら撫でてみたが、宝珠からの反応はなし。本の通りだけれど、なんか残念。

 気を取り直して、今思い付く確認したい事をさっと確認しておく。


 空間内から外は見えないが、音を聞く事はできる。完全に閉じると無音。顔だけ出すこともできた。本の通り。

 ちょっとでも開けておけば外の音も聞こえるし、家で空間にいる時は少し出入り口は開けておこう。


「姉ちゃん、御飯出来た~!」


 ギルの声が聞こえた。後は夕食後にしよう。


「ありがと~! 今行く~! 夕食後に何か座れる? 座る? 物を持ってくるね」


 宝珠からの反応は無いが、つい。繋がっている感じがつい話しかけたくなってしまう。


「また後で来るね」


 空間を出て食事室へ向かう。夕食は豪華で家族は既に全員着席済み。私が最後だった。

 サリーはいない。帰ってすぐにお礼と報告に行っておけば良かった。サリーは夕食を作ったら帰る。明日の朝にでも会いに行こう。


 席に着く。ギルが先に家族に伝えたのか、誰もギフトを聞いて来ない。私を祝えばいいのか慰めればいいのかと、表情を窺われている雰囲気。

 私が落ち込んでいたら慰めるつもりで、喜んでいたらお祝いになる予感。確かに一般的にはちょっと微妙なギフトの自覚はある。


「えーと、普通でいいよ?」

「そうか?」

 ほっとしたようにお父さんが言う。


「そうなの?」

 お母さんも確認したいのか表情をじっくり見て来る。隠してないよ。


「そうだよ。最悪は避けられたから」


 私の言葉で普通に食事が始まった。ちゃんと私が喜んでいるのか落ち込んでいるかを、考えてくれる家族に感謝。研究所の職員みたいに勝手に決めたりはしない。


「で、ダンジョンギフトって、荷運び以外に出来る事はあるの?」

「迷宮を創れるって」


 早速お母さんに聞かれたので、一番の目玉能力を答えてみた。パリパリに焼けたローストチキンをぱくり。

 焼けた肉の香ばしい香りと、ハーブの爽やかな香りが鼻に抜ける。うむ。いつも通り外はパリッと中はジューシーで美味しい。


「はっ?」

「えっ!」

 お兄ちゃんからいい反応。ギルはわくわくって感じ。創れないけれどね。


「そうなの?」

 お母さんがちょっと動揺している。本好きのお父さんは知っているようで動揺無し。


「うん。あり得ないくらいの魔力が必要になるけれどね」


「ああ、そうなんだ」

 ほっとしたらしいお兄ちゃん。


「そうよね、驚いたわ」

 ちょっと睨んでくるお母さん。驚かせてごめんよ。


「残念……」

 弟よ、迷宮に興味があったんかい。魔力量的に無理ですよ。


「魔力量はどうだったんだ?」

 ついでにお母さんに睨まれてしまったお父さんが、視線から逃げるように聞いてきた。


「普通だった」

「そうか」

 これは皆想定の範囲内だったと思う。


 ちなみにお父さんは小、お母さんとお兄ちゃんは普通。日常生活で魔法を使うだけなら、小あれば十分。

 着火したり少し飲み水を作ったり、後は髪を乾かすのに使うくらいだから、極小だったとしてもたまに困るくらい。


「えーと、後は迷宮に潜る時に身体能力が強化されるんだって」


「探索者は駄目だ。危ない」

「そうよ、駄目よ」

 お父さんとお母さんが即座に否定。


「えー」

 弟よ、興味があるんだな。お兄ちゃんからは凄い顔で見られている。


「そんな気はないよ」

 本当に、これっぽっちも。


 敢えて口に出しては言わないが、迷宮で死ぬ話はよく聞くし、女性は集団レイプ事件とかもあった。

 吸収型だと殺して遺体を迷宮に放置してしまえば証拠が残らないので、ヤバい犯罪の温床になっているとか。


 フィナラッドにある迷宮は、転生者ダンジョンを参考に後から創った。だからか犯罪の温床にならないよう、外部のものは放出されるタイプ。

 それで危険が減るとはいえ、危険な場所でお金を稼ぐ気はない。楽して一攫千金に憧れはあるけれど、命を賭けるのは嫌。それは楽とは違う。


***本好きリーンの豆知識***

 国に囲われるギフトは色々あるけれど、魔力量特大以上なのは有名。これは魔力を貯めて利用する魔道具が色々とあるからで、ギフトに関係なく確定らしいよ。

 何でも城で延々魔道具に魔力を補充する仕事があるとか。ギフト関係なく採用されちゃうから、ギフトで色々としてみたかった人にはとても残念な話だよね。

 ただ自分のギフトに興味が持てなかった人や、努力が好きではない人には素晴らしい職場らしい。毎日単純作業なんだって。


 そういう平和なのは伝わってくるけれど、囲われるギフトについては詳しくは知らされていないんだ。

 攻撃や防御の能力に秀でていると囲われちゃうらしいよ。国力とかと関係があるからって理由で、家族にも口止めされるんだって。

 研究所からそのまま就職らしく、しかもその後の連絡が途絶える人もいるらしいから、やっぱり怖いよねぇ。

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