第5話 夕食とその後*

 ご飯は私の好物ばかりで非常に美味しかった。明日ちゃんとサリーにお礼を言おう。

 デザートはタルトタタン。甘いりんごの香りに癒される。じっくり味わいながら、改めて家族を見る。


 お父さんはぱっちり二重に丸い鼻で面長。睫毛も長くてバサバサで、イラスト化されているラクダ系だと思う。

 愛嬌のある顔だと思うけれど、この国でモテる顔ではない。家族全員が国で一番多い栗毛に茶色の瞳でありふれてはいるのだけれどね。


 この国の美男美女は、面長にちょっと細めの切れ長の目に主張のない鼻と口。ちょっとキツめな顔がいいのだ。

 絵本の王子様とお姫様も、冒険譚のヒーローとヒロインも全部その顔。幼い頃からの刷り込みだと思う。


 お母さんはパーツは当てはまるが、残念ながら丸顔だった。

 これで面長であれば下位貴族、更に金髪碧眼であれば中位貴族にも嫁げたのにと言われる程の美人。


 実際には美人でスタイルも良いお母さんを妬んだやっかみでそう言われることが多かったらしい。

 美人と言いたくないからと、面長で残念ねとか言ってくるあたり性格が残念な人たちだと思う。


 実際にお母さんは男爵家の息子に見初められて、付き纏われた事がある。かなり危ない人で、ほぼストーカーだったらしい。

 相手は貴族だし、お母さんはとても困った事になった。それで我が家は貴族を避ける傾向にある。

 ちなみにその危ない奴から助けたのがお父さんで、二人の出会いを演出したのは一応そいつ。二人は絶対に認めないが。


 玉の輿に憧れる人もいるが、基本はドライで現実主義者なお母さんは、貴族になる事を望まなかった。

 貴族は血統主義でもあって、庶民出身だと言うだけで、常に下に見られて馬鹿にされるらしい。そんな生活は絶対に嫌とお母さんは言っていた。


 お兄ちゃんは我が家の残念総取りと呼ばれる顔。お父さんの顔を丸顔にしたらほぼお兄ちゃんに。

 愛嬌はあるよ? 丸顔の分、お父さんより可愛らしさは上かもしれない。だがモテない。


 私はお父さん似のばっちりお目目のやや面長で、後はお母さん。惜しい! と何度も言われた事がある。

 ギルはいいとこ取りに成功した。最後で大成功だね! と言われている。後は背がお兄ちゃんくらいまで伸びれば完璧だとも。

 けれどギルも貴族に興味はない。我が家の貴族に対するイメージが悪過ぎて、散在するお嬢様しか思い浮かばないからだ。


 周囲の人の言動が失礼過ぎる気もするが、これが現実。ただ、私たち家族はあまり見た目は気にしていない。

 美の基準は国や地域で異なる。商売であちこちへ行き、多くの人と知り合うことで私たちはそれを知っている。


 南に行けば行くほど私の顔は、一般的を通り越してむしろ整っている方。フィナラッドの美男美女が極端な王族基準なだけ。

 気にしていなくても住んでいるのはフィナラッドで、ギフト的にも私の婚活はかなりの苦戦が予想される。


 だから家族はどう反応すべきか私の反応を窺っていた。まだ先の話だけれど、うっすらと結婚願望くらいはあると家族も知っている。

 フィナラッドはギフト至上主義。なので性別に関係なく、稼げるギフト持ちが相手を選ぶ側になれる。そしてそんな人たちに選ばれるのは、圧倒的に美男美女が多い。


 私のギフトでは選ぶ側になれない。そしてこの国では人気の無い見た目。自分で言うと悲しくなるが、色々と前途多難な気配。


「荷運びの稼ぎは、空間の広さと本人が荷物の出し入れや移動中に役立つかによって決まる。リーンには厳しいな」


 お父さんも私の仕事や結婚に関しては、前途多難だと思っている気配。


「女性は参加する商隊を厳選する必要があるし、男だらけの商隊では嫌がられる事が多い。更に重い荷物を運べないとなると、あまり給料はよくない」


 空間の提供だけでは稼げない現実。知っていたけれど。


「田舎の方なら野営の料理とかで喜ばれる可能性はあるかしら? ああでも野営こそ危険だし、駄目ね」


 お母さんには何だかんだで女は料理が出来た方が婚活に有利と言われ、料理を仕込まれている。実際に教えてくれたのはサリーだけれど。


「ああ。道中の危険も多いから、野営が必要のないところだな。そういう所は他の人にとってもいい職場だから、女性で採用してもらうのは難しいだろう」


 やはり女性にはかなりしょっぱいギフトだよね。そう思ってね、そういう方向では最初から考えていない。


「今のところは荷運びのスペースは確保しつつ、部屋を創って家庭菜園をしようかなって」


 荷運び用のスペースは、商会の手伝いとして考えている。お兄ちゃんが継ぐし、寄生する気満々とも言う。

 他の商会では就職が難しいというだけで、ちゃんと働く気はある。

 忙しいが使用人を雇う程ではない人たちに、食材の配達とかどうだろうか。近隣限定になるけれど。


「そうか」


 父も皆も納得したようだけれど、ギルだけがちょっと不満そうにしている。そんな魔力量は無いからな!


 夕食後は物置に行って、宝珠を置ける物が無いか探した。ギルが空間に入りたがったが、お母さんが止めてくれた。今はまだ待って欲しい。

 花瓶などを飾る花台があったが、当たったら直ぐに宝珠が転がり落ちるのが目に見えている。


 安定感を重視した結果籠に。宝珠に傷が付かないようにタオルを入れよう。部屋に戻って早速空間に入る。

 そのうち占い師が使っている小さな座布団を買って来よう。


「お待たせー。安定感重視で籠にしたよ。しばらくはこれで。ごめんね」


 宝珠を籠に入れたが、反応は無し。早速宝珠に手を置いて、魔力を注ぐ。

 これって誰かに魔力を提供してもらう度、空間に入ってもらわないといけないのか。不便だな。


 他にも方法があるよと解決策を宝珠が教えてくれて、ミニ宝珠を創った。やっぱり宝珠はこのギフトの要なので、誰彼構わず見せるのはよろしくないらしい。

 ミニ宝珠と宝珠は繋がっていて、ミニ宝珠に注いでもらった魔力が本体の宝珠に蓄積される仕組み。


 創った私以外の人にはそれ以外の用途は無いけれど、私に限りミニ宝珠で解析も行える。

 ただ、解析にはミニ宝珠を線で繋いだ中に解析したいものを置く必要があるので、複数個いる。


 一度に必要数を創るのは魔力が足りなかったので、取り敢えず三個創って家族に渡しに行った。

 まだ魔力量の測定もしていないギルに渡すのは流石に遠慮した。


***本好きリーンの豆知識***

 本好きとは関係がないんだけれど、貴族の話。フィナラッド王国には、侯爵、伯爵、子爵、男爵の爵位があるよ。領地を持っているのは伯爵家まで。

 子爵と男爵は侯爵と伯爵の領地運営のお手伝いをしているよ。アクテノールにも領主一家以外に男爵家の人たちがいる。


 ちょっと切ないのが、私たちにとっては皆貴族だけれど、貴族側からしてみたら子爵と男爵、特に男爵は庶民扱いされるんだって。

 だからお父さんがお母さんを男爵家のストーカーから助ける時に、多少のやんちゃをしていても(詳細は二人共教えてくれない)何とかなったってわけ。


 もしお母さんが伯爵家以上に見初められていたら、強制的に愛人にされていた可能性があるという怖い話でもある。

 ストーカーには困ったらしいけれど、男爵家の人でまだよかったって話。


 ちなみにお母さんをライバル視していた人が、私の方がいい女だから私があなたの妻になりますっ! ってストーカーに言って、ばっさり断られたらしいよ。

 ストーカーを詳しく知っているわけではないけれど、それでじゃああなたで! ってなる人がストーカーになるとは思わない。

 その人はその話が広まってしまって、引っ越ししたらしいよ。結構美人でプライドの高い人だったから、恥ずかしくていられなくなったらしい。

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