第6話 詰めが甘い

 僕はそこそこ裕福な商家の長男として産まれたアルバート。五歳下に妹リーンと、七歳下に弟ギルバートがいる。


 ギルは要領が良く手もかからないが、甘え上手でさりげなく人を使うのが上手い。

 それはそれで怖いが、どんなギフトになっても要領良く生きていく気がする。


 リーは小さい頃から本が大好きで、妄想に浸っている事が多くてぼんやりしがち。基本的に心配だ。

 興味があればふらふらと見に行き、すぐに何でも触ろうとする。幼い頃は本当に目が離せなかった。


 自由人でもあり、あまり物事を深く考えていない様に見えるが、たまに鋭い事を言う。

 でも、基本は馬鹿な気がする。本気で何言ってんの? って事がある。


 どんなギフトを授かるのかがとても心配。とにかく無難なギフトがいい。

 変なギフトを授かって、突飛な行動を取られるとフォローが大変になりそうで嫌だ。


 無難、無難と呪文の様に唱えて仕事をしていたら、リーが帰って来たとギルが教えてくれた。時計を見たらかなり遅い。珍しいギフトでも授かったのか。


「ギフトが何だったか聞いた?」

「ダンジョンと気配察知だって」

 荷運びか。まさか探索者になりたいとか言わないよね? この組合せなら探索者になると言い出しそうな気が。


「探索者になったりするのかな?」

 ギルがわくわくした顔で言う。


 やめてくれ。それ一番アカンやつ。何もない所で転んで死にそう。ギルは母さんにも声をかけに行った。

 夕飯で家族全員が揃った。今日はサリーが頑張ってくれてご馳走。リーはいつも通りだった。


「で、ダンジョンギフトって、荷運び以外に出来る事はあるの?」


 母さんが聞いたらリーは迷宮が創れると言い出した。迷宮と言ったら国家事業じゃないか。

 あのギフトでそんな事が出来るとは知らなかった。まさか、名称は同じで希少なギフトか!?


 一瞬焦ったが違うらしい。実現不可能過ぎて、話題に上がらないだけだった。父さんは知っていたな。

 父さんは従業員のギフトは全て調べて理解している。本人よりも詳しかった事もあると聞いたことがある。


 その後詳細を聞いたが、やはり家の手伝いは出来るが独立して就職するのは難しそうだった。リーも実家に居残り決定だろう。

 家庭菜園と自分の部屋を創ると聞いて、壮大な野望を抱いていなくて本当に良かったと思った。


 妹よ、家庭菜園で何を作るかで話が弾み、父が好意的に見えるのは単に仕事の手伝いに役立つからだと思うよ。

 けして、自分の持ち家確保と家庭菜園を応援している訳ではない。入手が難しい果物とかを作らせたいんじゃないだろうか。


 明日は父に言って時間をもらい、図書館でダンジョンギフトについて調べよう。

 リーがきちんと調べられているか不安なのと、兄としてきちんと妹のギフトを知っておきたいと思った。


 結果、リーは正確にダンジョンギフトの事を把握していた。馬鹿だとは思うけれど、愚かでは無い。

 本に書かれていることを総合して考えるなら、確かに庭付きの家として家庭菜園に励み、うちで手伝いをしつつ時々荷物運びをするのが正解だと思う。


 意外だったのは、本気で母さんがリーに好意的だったこと。


「だって、いざという時に庭付きの持ち家、いいと思うのよね。何も持っていないといざっていう時に困るし」


「それはそうだけれど……」


「私やお父さんがいつまで元気に働けるかわからないし、移動が多いから事故だってあるでしょ」


「いや、その時は僕が面倒を見るよ」


「そりゃあ、アルは本当にそのつもりなんでしょうけれど、アルのお嫁さんとリーンの気が合うかどうか何てわからないじゃない」


 気が合わなくてもそれなりに支援が出来れば、リーなら生きていけそうな気がするんだが。


「私とお父さんはアクテノールで商売するつもりで故郷を早々に離れたからいいけれど、義理の家族との関係は気を遣うし大変よぉ」


 母は服屋の娘で父は農家の息子だった。なので派手な女を連れて来た、騙されているんじゃないかと警戒されて大変だったらしい。

 知らなかった。今は良好な関係に見えるけれど、相当努力したのだろう。


 その後、リーに頼んで空間の中に入れてもらったが、今はただの石の部屋。部屋とも言えない狭さ。

 ラグやクッションで居心地はよくされているが、部屋や家庭菜園にするのも夢物語に思えて来た。


 今後の計画についても詳しく聞いてみたけれど、完全に庭付きの自分の部屋を用意するような内容だった。

 結婚して家庭を持ったら普通に家族で家に住む。その時はどうする気なのだろう。


「結婚したら、全て家庭菜園にするの?」


「うーん、先の事はまだ考えていないけれど、喧嘩した時の逃げ場にもいいと思うんだよね」


 一部屋しかないような家にでも住むつもりなのだろうか。お兄ちゃんとしては、もう少し経済力のある男と結婚して欲しいです。

 それと、庶民の結婚適齢期は十五歳から二十二、三歳くらいまで。特に女性は二十歳を超えたら遅いと言われるので、そんなに先の話でもないぞ。


 特に僕たちは容姿が足を引っ張るだろうから、早め早めに動いた方が正解だと思う。

 リーはそんなロマンチストでは無いと思うけれど、運命的な出会いでも期待しているのだろうか。


 しっかりしているような、何処か抜けている様な、なのに変に決断力があったりと、そんな妹の将来が不安でしかない。

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