第7話 ナルシストなナルシスさん

 家族は空間が広がることもあり、毎日ミニ宝珠に魔力を注いでくれると約束してくれた。

 これで二年でベッド一台分の空間を広げる魔力は確保しつつ、何かを創ったりする余裕が出来ると思う。


 翌朝、追加のミニ宝珠を創った。


 何処かに修行に出なければならないギフトでも無かったので、そのまま実家で見習い扱いになった。

 ギフトを授かった後はギフトに合った職場を探したりするのだが、その必要性が私には無かった。

 助かるような、家を出てみたかったような微妙な気持ち。残っていられる方が絶対に楽なのだけれど、何も変わらないのも微妙。


 見習いは雑用係みたいなもので、以前からやっていたので問題なくこなせる。

 見習いでいられるのは成人になる十五歳まで。それまでは勤務時間も日数も少なくするのが国の決まり。


 今日は店番をしつつ、ミニ宝珠に自然回復分の魔力を注いでいる。店番は全自動釣銭機が超便利なので余裕。これも転生者作。

 売り子はちゃんと社員が別にいて、今日は二十代半ばのフィナラッド基準でなかなかのイケメンが担当。


 この人がいると女性が沢山来店して、化粧品がよく売れる。あこぎな商売はせず、ちゃんと合った物を売ってくれるので大人気。

 イケメンは人の美しさにも敏感で、努力を惜しみなく褒めてくれる。些細な変化にも気付くから、お客さんも喜ぶんだよねぇ。


 満足のいく商品を手に入れる以上の付加価値があると評判。一人一人の接客に時間はかかるが、ぽんぽんと売れていく。

 この人にも商売関係のギフトがあるだろうなって思うくらいの接客上手。お父さんはギフトだけでは判断しないので、真相は不明だけれど。


 ちなみにお兄ちゃんが売り子の時は、おばちゃんが沢山やってきて食材メインで満遍なくよく売れる。

 イケメンだとつい不要な物まで買っちゃいそうになるからと、以前おばちゃんが言っていた。お兄ちゃん……。でも若くても安心感は抜群らしいよ。


 客が途切れてミニ宝珠に魔力を注いでいたら、イケメンに何をしているのか聞かれた。


「リーンちゃん、さっきから何してんの?」


「ギフトに魔力が必要で、これに注いで貯めてるの」


 ギフトは言わない、詮索しないのが常識。うっすら分かっても敢えて口にしたり確認しないのがお約束。

 うちにはちゃんとした従業員しかいないので、バレても問題はないとは思うけれどこれが常識。


「へぇ? 魔力は自分のだけ?」


「誰のでも大丈夫」


 面白そうと日常生活に必要な分を除いて、魔力を注いでくれた。イケメンありがとう。行動もイケメンでした。


 イケメンだけどトラブルも無い。何故なら彼は、ナルシストな自分を完全には隠していないから。

 ナルシストになっても仕方ないかなって思えるくらいには、全体が整っている。努力も凄いが。


 女性客も分かっていて、それとは別物としてイケメンを楽しんでいる。

 普段の接客では出さないが、ヤバそうな客には全面にナルシストを押し出して、ワザとドン引きされるという技も持っている。


 それで広まって知られている。その技を出さずともほんのりナルシストが顔を出しているが、まぁ許容範囲。

 影でナルシスさんと言われているのだが、本人も知っていて笑う程度。元がいいだけでなく努力を惜しんでいないし、だから何? みたいな感じ。

 彼は接客が自分の天職だと日々を楽しく過ごしている。本人が楽しくて周囲に害も無いし、良い人だからいいのだ。


「リーンちゃんもさ、そろそろ本格的に化粧品を揃えなきゃね」

「うーん、そうですね」


 人の美にも敏感なので、正直こういう話はお母さんよりされる。元は変えられないのだから、自身最大の美を引き出す努力をすべしと言って来る。


「服にはこだわるのに、美容への関心は相変わらず低いよね。肌が僕より汚い女性にはならないでおくれよ」


 お客さんがいないので、言動にナルシスさんが顔を出している。

 お母さんは商人として、清潔感と服には強いこだわりがある。


「服はお母さんの影響かな。肌はなぁ、前にイケメンに勧められた基礎化粧だけは頑張ってるよ」


 私も誰もいないので、敢えてイケメンと呼ぶ。嬉しそうにされた。

 私は自分の基準で美醜を決めるから、褒められると嬉しいんだって前に言われた。


「若いから、基礎化粧は取り敢えず現状維持で許すよ。メイクはどうする? 国に寄せるか我が道を行くか」


「そりゃ、我が道でしょ」


「リーンちゃんならそう言うと思ってた」


 美意識高いナルシスさんは、人の美しさを引き出すのも好き。そして、ちやほやされるので、ここでの店番が大好き。

 奥さんがフィナラッド系美人ではないことも、お客さんたちに人気の理由の一つ。彼女は全てが美しいのだよって普通に日々言っているのもお客さんたちに好評。


「あっ、いらっしゃいアマンダさん。この間買った目の美容液の効果が、早速出てるね」


「ほんと? 旦那は全然気付いてくれなくてさぁ……」


「駄目だねぇ、旦那さん。でも自分の為だから続けてね」


 イケメンによるややナルシスト接客が始まった。アマンダさんはこの間美容液を買ったばかりだから、多分今日は追加はない。

 でもこうやって話をしていると、またうちに買いに来てくれる。我が家の売り上げに貢献してくれてありがとう。


 店番の後は商品の補充とかで倉庫と店を行き来したり、呼ばれてお手伝いをしたり。

 ウロウロしていると、だいたい似たような流れで従業員が気前よく魔力を提供してくれる。これはいけるかもしれん。


 お母さんも気が付いていたようで、従業員だけではなく顧客にまで魔力を注いでもらっていた。それはいいのか。

 お母さんは主語を付けずに頼まれましてね~と言っている。私だとバレバレではと思ったが、誤魔化せているっぽい。


 嘘を見破るギフト持ちの人もいるけれど、見破られても本当の事まではわからないから大丈夫と言われた。

 誰がどのギフトを持っているか特定されないように振舞うのは常識なので、確かにと納得した。


 心の設定は取引先の息子にしたと教えられた。お母さんはおとつい取引先の他領から帰って来たばかりで、昨日はお休み。あり得なくは無い。

 明確な主語は言わないけれど、取引先の話をさり気なくだしているので相手が勘違いしてくれている感じ。

 そうなるように誘導しているとも言うが。そもそも普通の顧客は私の誕生日を知らないし、普通に今まで通り店番をしているので多分セーフ。そう思わせて欲しい。


 一日の終わりに空間に入ると、どのミニ宝珠からどの程度の魔力が提供されたのかを知る事が出来た。

 お母さんがすげぇ。途中で言われたのか、お父さんも多め。お兄ちゃんは真面目に自分の魔力だけをこまめに注いだ結果ではないかと思われる。

 お兄ちゃんはマメで真面目。だけど、もうちょっと要領よく行こうぜ。


 これはかなり早い段階でベッド一台分広げられる予感。それまでに、空間をどうしたいかの計画を練ろう。

 空間内で計画を練ると、その場で宝珠が出来るか出来ないか、何が必要かなどを教えてくれるので便利。


 空間の床が冷たいので、ラグやクッションなどを持ち込んでいる。最初に授かった空間は最初からセーフティエリア。

 また図書館に行って、自分のギフトがどのダンジョンギフトかを絞らなければ。

 そういや忘れずに気配察知も調べなきゃ。やる事が一杯あるが、交通費とかを貯める必要がない分他の人よりは楽だと思う。

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