第57話 ジョンさんが

「こんな所で療養なんてしようとするから、いつまで経っても治らないんだ」

 しばらく黙って会話にも入って来なかったジョンさんが、急に正論。

 確かにここは、お坊っちゃまの事を常に思い出す品々ばかり。


「普通の宿をとりなさい」


「持ち逃げされたのでお金に余裕がなく……。ローが元気にならないと迷宮に入るのも難しいし、もう一人いた奴は実家に帰ってしまって……」

 アルマさんがジョンさんにビビりつつも事情を説明。


「ふむ……」

 考えるジョンさんを、首だけ出したローランさんが申し訳無さそうに見ている。そのローランさんをジョンさんがちらっと見た。


「彼が治らないことには、停滞し続けるということか」

 ディーンさんとアルマさんは沈黙したが、ローランさんが認めて謝罪を口にした。


「状況が悪い時に変わらず友人でいてくれる人には、謝罪ではなく感謝を伝えなさい」

 ごもっとも。ジョンさんのそういう考え方が好き。


「リーンちゃん。彼らをしばらくリーンちゃんの空間に入れてやれないか」


「えっ、俺たち三人?」

 アルマさんが驚く。普通に考えたら、私の空間がそんなに広いとは思えないよね。

 ここと同じくらいと考えたら、ベッド二台分とちょっとくらいの広さ。男が五人も寝れそうにない。


「えー、ジョンさんが大丈夫だと思うなら、いいけど……?」

 心配性なお兄ちゃんに肘鉄をお見舞いされた。


「見知らぬ男が三人もだぞ!」

 小声でお兄ちゃんに言われるが、それを言うならジョンさんもだよ! ジョンさんの方がどう考えても怪しかったでしょうが。


 私はジョンさんの人を見る目を信用しているし、お世話になっているジョンさんがそうしたいなら、協力するのもやぶさかではないという感じ。

 余裕で三人増えても滞在できるっちゃできる。トイレに座って、浴槽や隙間に寝るよりはマシだろう。


「勿論条件はつける。私が滞在している期間だけで、私の滞在が終了すれば許可を取り消す。それから二人に危害を加えたり物を盗んだりした場合は、私が地の果てまでも追いかけて報いを受けさせてやる。後、リーンちゃんの空間について口外した際には、死んだ方がマシだという目に遭わせてやろう」


 久しぶりにジョンさんが怖い。そして、今言った事を全部実現出来る力がありそうなのも怖い。


「勿論そんな事はしないぜ。ローの身体に良いってんなら、ローだけでも頼みたい」

 ディーンさんが良い人。


 結局三人とも私の空間で受け入れる事に。お兄ちゃんがかなり不服そうではある。


「直感では問題はなかったけれど、環境で人は変わる」

 貢いでいた人に言われると、説得力があるね。傷付けるから言わないけれど。最初から異性に対して目を曇らせていた可能性もあるけれど。


「心配なのはわかるが、他にもルールを作って縛る。それに対した能力も無い癖に、地位を使って逆らえない者に威張る奴は嫌いなんだ」


 ジョンさんが能力を隠さずに、荷物を空間にしまった。多分、自分の実力を示して牽制する目的なのだと思う。

 けれど肝心の三人が、迷宮関連のギフトだと思っていそうな雰囲気。


 天蓋付きのベッドとその下に置いてあったお布団一式、探索に使う諸々の荷物と浴槽。

 ローランさんの空間がスッキリして、トイレの開放感が目立つ。横の壁が低過ぎるし、前面に何もないってやっぱりどうなの。


 ディーンさんたちが宿を引き払い、代わりに私の空間に滞在中は、宿代を支払ってくれることになった。

 まだ私の空間を見てもいないのに、いいのかな。ディーンさんを筆頭に騙されそうな気がするよ。

 で、三人が空間に入ったら大騒ぎされそうなので、声が漏れないようにすぐ閉じた。正解。


「うぉぉぉぉ! 何だこれすげえ!」

 ディーンさん。

「えっ、何これ何なの!?」

 アルマさん。

「凄い……」

 ローランさん。


 トイレと風呂とベッドの部屋から来たら、そうなるよね。三人とも入り口付近から入って来ない。


「案内するから入って来なさい」

 ジョンさんが当然の様に案内を始めたので夕飯の仕上げをと思ったが、ディーンさんとアルマさんは?


「ねぇー! ローランさんはさっき食べたけど、ディーンさんとアルマさんは夕飯食べたのー?」


「これから屋台に行くつもりだよー」

 ディーンさん。


「今日はうちで食べちゃえばー?」

 色々しているうちに遅い時間になっているし、鍋でいいならそんなに手間と時間はかからない。


「いやでもさぁー!」

 流石幼馴染。アルマさんも遠慮している。


「野菜を食べたいんでしょー? お兄ちゃん、大根と春菊ー!」


 後は豚肉を薄く切って。鶏ももがちょっとあったし後は白菜を入れたらいっか。ご飯も早炊きでいける。

 お兄ちゃんが畑から野菜を収穫してくれ、ジョンさんが二人にご馳走になりなさいと言ってくれている。


 さて。ローランさんは恐縮しつつもジョンさんに整えてもらったベッドで既に横になっている。

 未だに食後が一番しんどいらしい。そんな時に騒いですまんかった。


 ジョンさんの収納から別のベッドが出て来てびっくりだったが、流石に天蓋はない。

 入り口近くのセーフティーエリアで天井付きだから、朝日とともに起きることも無いだろう。

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