第35話 順調に
商売が順調に拡大している。最初は様子見で少量販売から始めたが、口コミでジワジワ広がっていい感じ。
住民は生活以外に魔法を使わない人が多く、割引に積極的で魔力も順調に提供されている。
大きさを調整することで、買い物客からの提供分の魔力でほぼ販売分を賄えるようにした。
宿代に自分たちの食費と日用品を買えるくらいの生活費は稼げるようになったので、ひとまず安心。
もう少し収入アップを狙いたいが、それはお兄ちゃんに期待。取り敢えずお母さんに順調だと報告が出来る。
先日お母さんから手紙が来ていた。
トマトが食べられなくなって辛いから始まり、私たちが黙って家を出たことに未だにギルが拗ねていること。
ギルの商才ギフトが私とお兄ちゃんを逃してはならないと訴えていると言っている事などが、面白おかしく書かれていた。
ギルはアイシアに付いて来たがるだろうと、内緒にしていたのだ。後、サボり癖があるから、ちゃんと見習いをして仕事を覚えなきゃね。
ギルは要領よくお手伝いから逃れていた。それにお母さんも私もバッチリ気が付いていた。
それとマンゴーおじさん。
取引先の息子がアイシアに移動したと手紙を書いたので、こちらに手紙が届くようになるという報告。
いい宿をグレンさんに紹介してもらえたので、しばらく滞在すると伝えていた。これでグレンさんの株もますます上がるだろう。
宿を移動する際には、事前にお母さんに知らせるようにと書かれていた。
私は商会の名前でマンゴーを送るだけで、手紙のやり取りは変わらずお母さんがしてくれる。
早速マンゴーを送って欲しいと書かれていた。お母さんからの手紙を読んで、マンゴーおじさんは食べたくなってしまったらしい。
後は私たちを心配する内容で、本当の最後の最後にお父さんが落ち込んでいると書かれていた。
ヘンリーさんとの婚約話は直に流れるだろうけれど、しばらくは意地を張るだろうから、修行兼家出を楽しんでねと明るく締めくくられていた。
「まだ婚約話、流れてないんだ」
大丈夫だと思ってはいたけれど、お父さんがブチギレしてお兄ちゃんが後継者から外されなくて良かった。
お母さんとギルが許さないとは思うけれどね。ギルは会長を嫌がるだろうし、お父さんに味方はいない。
お母さんへの返事とマンゴーを持って郵便屋さんへ行った。そこで本当に偶然ブラッドさんに会った。
私が会うのは十日ぶりくらい? ブラッドさんがコソッと進捗状況を教えてくれた。
「残念ながら大分腐っていまして。先日応援を呼びました。これで状況は大きく動くと思います」
「こちらはまだ聞き出せていなくてすみません」
テッドとお母さんクレアさんにも話をして、ブレンダの意識改革に取り組んでもらっているが、上手くいっていない。
テッドは口下手だし、父親の言いつけを守っているブレンダに、まだクレアさんは避けられている。
「いえ。そちらはまだ期間に余裕がありますから」
ブラッドさんと別れて宿に戻る。ブレンダの誕生日までなんてあっという間な気がする。
どうすっかなー。最悪の場合どうするかを考えなきゃいけないかなぁ。
宿の受付で、落ち込んで座り込んでいるディーンさんに出くわした。負のオーラが凄い。
「お嬢ちゃん、いいとこに!」
受付のおじさん。何だどうした。
話を聞くと、一番ストレスにやられて弱っていた人がご飯を食べられない日々が続いて、痩せ細ってしまった。
医者にも消化の良い薄味のものやお粥をと言われたが、探索者向きの食事処や屋台にそんなものはない。
料理に挑戦してみたものの、失敗するわ不味いわで一向に食が進む気配が無く、おじさんに相談した。
でもおじさんも料理はからきしで、代わりに頼める様な人もいない。住民に頼む事も考えたが、貴族と一緒にいた事が知られていて怖がられているから難しいそう。
「お粥とか薄味のスープにも失敗するんですか?」
「ああ……」
ディーンさんの負のオーラが凄い。
「嬢ちゃんか兄ちゃんかは知らねえが、自炊しているだろう? 金はこいつがちゃんと払うから、ちょっと用意してやってくんねぇか?」
まぁ、労力に見合ったお金がもらえると言うなら。
「お粥でいいですか?」
「恩に着る!」
体格と負のオーラで圧が凄い。ディーンさんが学びたいと言うので、待機室に材料やらを持って集合。
「ちょっとお高くなりますが、栄養重視で」
麦粥を作ろうと思う。材料はレモンチーズにセモ粉、水、卵、はちみつ。
ほんのり甘くて食べやすいはず。但し、アイシアではお高めの食材たち。
レモンチーズは上級迷宮で、リコッタチーズと言う名前でドロップする。
これは一階でドロップするし、高台の人にはあまり人気が無いので安め。だから住民には人気。
説明しながらもサクッと完成。簡単だしね。ディーンさんが味見をして目を見開いている。
「味がする!」
……普通はそうだと思うよ。聞けば安く手に入るお米をドロッどろになるまで味付け無しで炊いていたらしい。
それは美味しくないでしょうな。嬉しそうにお粥を持つ大きなディーンさんが可愛く思えた。
翌日。久し振りに完食したと大喜びの報告と共に、挑戦したけれど何故か同じものが作れないから、もう一度教えて欲しいと縋られた。
お兄ちゃんと同じタイプか? お金に余裕が無いのに食材を無駄にするのは不憫だと思い、三食お金を頂いて作る事にした。
同じのばかりでは飽きるし、毎回教える方が大変そうだと判断した結果。
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