第36話 マンゴーおじさん
午前中はお兄ちゃんの仕事が無かったので、お兄ちゃんはテッド家族にブレンダの件で会いに行き、私はダレルさんに野菜を卸しに行った。
気が付けば、テッド一家とは家族ぐるみのお付き合いが始まった感じ。家族全員お人好し感が強かった。
鉄パイプ大好きっ子が実はテッドの弟で、父親の収入も悪くはないみたいだけれど、息子二人の将来の為に節約生活をしている感じ?
人助けもちゃんと自分たち家族を優先しているので、バランスの良いお人好しかな。
お人好しにバランスがあるとは思わなかったが、ただ頼って甘える人には手助けはしないと言っていた。
ブレンダみたいな、親がアレな子どもたちを助けるのがほとんどだとか。
帰りはお兄ちゃんと合流して宿に戻る。今回も残念ながらブレンダに進展は無し。
お兄ちゃんが監修したテッドの話術でも、ぐらつかない頑なさをブレンダが発揮している。
今度の迷宮帰りにはお兄ちゃんを直接投入する事になったそう。
テッドが協力してくれて、ブレンダに迷宮後のお手伝いが入らない予定。
「父親が仕事を選んでいるみたいで、収入が悪いみたいだよ。今回の手はブレンダさんの家の事情を考えたら、何度も使えない」
「あー、私も買い物に行った時に市場のおばちゃんからちらっと聞いたよ。昔の栄光に縋っているみっともない男だって言われてた。話半分に聞いていたけれど、その事か」
ブレンダが一生懸命なだけに、父親の評判がとにかく悪い。
ブレンダにお勧めのお店として教えてもらっているので、店の人がブレンダの話をよくしてくる。
大抵が家の事を話さないブレンダの心配。残りが父親の悪評や文句。
但し、商売人でもあるからか、直接的な話は私にはして来ない。多分私がどういう人か様子見をされているのだと思う。
宿に戻ったら受付に身なりのいい紳士がいた。この宿の雰囲気からは少々浮いている。
四十代くらいで可もなく不可もない目立たない顔立ちをしているが、雰囲気からしてかなりの商人か貴族っぽい。関わらないのがよさそう。
「十四、五歳くらいの娘で、おそらく髪は肩甲骨くらいの長さ。ぱっちりした目の可愛い娘を探している」
ん……? と思っていたら、紳士がこちらを振り向いた。目が合ってしまった。
「そう、丁度あの娘の様な! ……本人か?」
受付のおじさんがあちゃーっていう顔をした。私が探されていたのか。
「シェリーさんの娘か?」
「えっ、おかぁ、あじゃ!」
お兄ちゃんにやや強めの肘鉄をくらって変な声が出た。何をする。
目線で咎めておく。お助けに肘鉄は推奨するけれど、強めの肘鉄は反対です。シェリーはお母さんの名前。
「偽商人だ」
小声でお兄ちゃんに言われる。えっ、マンゴーおじさんが何故ここに?
「私が贈ったあれを食べたい!」
威厳のある? 雰囲気で言われた。
マンゴーおじさんの要求がストレート過ぎて脱力するわ。っていうか母よ、私だってバレてるじゃないか!
しかも何故私の見た目まで知っている。かなり恐ろしいぞ。
「えーと、二日前に送りましたよ?」
「急に呼び出されて入れ違いになったんだ。食べたい」
有無を言わせない顔。諦めるしかなさそう。私の空間のパトロンに近い人だしね。
「……収穫したばかりでまだ実っていないので、少し待っていて下さい」
奥の待機室を指し示すと、キラキラした目で見られた。嫌な予感。
「見たい!」
断りたい。
「見たい!」
勘弁して。
「……どうぞ」
お兄ちゃんが先に諦めた。廊下を連れ立って歩いて行く。
マンゴーおじさんのお陰で空間も広がって好きに出来るようにはなったけれど、直接関わりたい訳では無い。
「まぁそう嫌な顔をするな。私の協力で色々と出来るようになっているのだろう? 見る権利もあると思うなぁ」
そう言われるとなぁ。
許可を出したら、おじさんがウッキウキで入って来た。
「おぉ! 個性的だな」
そう?
あっちこっちを見て回るおじさん。その間に宝珠さんにお願いして、マンゴーを完熟で実らせる。
あの雰囲気だと自分で収穫したいと言いそう。やっぱりだった。直ぐに食べたいと言うので用意した。
「いつものよりも更に美味しい」
良かったですね……。
「何だその顔は。二人が呼ぶから来たのだ。歓迎してくれてもいいだろう? もう一個切ってくれないか」
私たちが呼んだ? 意味はわからないが、マンゴーは切る。
「二人して治安維持隊に相談しただろう? そこから私に相談がきてね」
お兄ちゃんと顔を見合わせる。おいおいマジですか。貴族で偽商人なマンゴーおじさんは、維持隊の重鎮?
「シェリーさんに会った時も仕事であそこにいた。あの後あそこは、逮捕者続出だっただろう?」
確かに。マンゴーの苗木をもらった時も、あそこはまだ混乱中だった。にやりとしているが、何か顔と表情が合わない感じ。
「シェリーさんに乗せられて、この私が無償で魔力提供してしまうなど何たる事と思って、慌てて苗を取寄せた」
お母さん、トマトに目が眩んで頑張り過ぎたんだね。
ため息が出そうと思ったら、先にお兄ちゃんがため息をついた。先を越された気分。
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